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コラム No.53-78

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戦略的な地域活性化の取り組み(78)公民連携による国土強靭化の取り組み【40】島国日本の先鋭的な社会問題を抱える離島への事業アプローチ「スマートアイランド」

公開日:2024/10/31

2024(令和6)年5月、国土交通省は、「スマートアイランド推進プラットフォーム」の設立を発表しました。日本には14,120島の離島が存在し、そのうち417島で人が暮らしています。これら離島が抱える課題解決のために、産学官が連携してICT(情報通信技術)などの新技術・デジタル技術を離島へ実装する事業が「スマートアイランド」です。

スマートアイランド推進の意義

人口減少、少子高齢化、気候変動は、国内における重大な社会問題ですが、特に半島部や島しょ部は、地勢的な条件から影響を受けやすい地域と言えます。デジタル田園都市国家構想総合戦略でも謳われているように、ICTをはじめとする新技術・デジタル技術は、人口減少、少子高齢化が急速に進展する島国日本にとって、社会の生産性や利便性の向上に貢献する有効な手段であると思います。とりわけ、厳しい自然的社会的条件下にある離島が既に直面している人口減少、少子高齢化といった課題は、日本全体が抱える事象が先行的、複合的に現れているとも考えられ、離島において課題解決の成果が得られれば、日本全体の課題解決に向けた先行事例にもなるはずです。それが、「スマートアイランド」の狙いと言えます。
離島に関する施策としては、既に2023(令和5)年に施行された改正離島振興法において、医療、教育、交通・通信等の分野に対して、遠隔医療、遠隔教育、ドローンを活用する旨が新たに規定されるなど、新技術やデジタル技術の一層の活用が求められていますが、その実用化が一部地域に限られ、離島全体では十分に普及しているとは言いがたい状況があります。国内外の社会情勢が急速に変化している中、離島における新技術・デジタル技術の活用は急務であることから、離島関係自治体だけではなく、技術を有する民間企業、関係省庁、研究機関等が密に戦略的に連携することで、各離島において「スマートアイランド」を実現し、新技術・デジタル技術の活用を通じて、離島に大きな変革をもたらし、離島で暮らす人々にその恩恵を波及させていく必要があります。しかし一方で、離島における事業は規模や収益面で民間事業者にとって参入機運が高まらないという現状もあります。
そこで国は、「スマートアイランド推進プラットフォーム」を設立し、産学官が連携して「スマートアイランド」の推進に係る様々な施策や事例等の情報の交換・共有や発信等を行い、離島のニーズと産学官のシーズをマッチングさせるプラットフォームを創設し、「スマートアイランド」の一層の普及促進と機運醸成等を図ることとしています。

離島での課題解決が生み出す波及効果

離島は、周りを海で囲まれているという地形的な特徴があります。本土に近い一部の離島は橋やトンネルで接続されていますが、大半は外部との交通機関が船舶あるいは航空機となり、島外との人の往来や物流が制限されることに加えて、島民の生活コストの増加に繋がっています。また、島内に公共交通がない、あるいは不十分な場合が多く、これらが、人口減少、少子高齢化を加速させる要因となっています。ここまで見ると、離島が抱える課題が、今の日本において、大都市以外の中山間部など過疎地で進行している社会課題を先鋭的に表していることが分かります。そして、これらの課題に対して有効で先進的な解決手法を生み出すことができれば、離島住民に恩恵があるだけでなく、日本全体の社会課題解決に波及する可能性があります。
解決手法の想定例としては、ドローンを活用した新たな物流事業や地場産業への適応、センサーや遠隔カメラ技術を駆使した災害監視システム、遠隔技術を利用した医療・介護の合理化、無人運転技術を活用した公共交通網の構築などが挙げられます。これらの実証実験は既に各所で実施されていますが、離島という人口密度が低く限られた地域においては、さらに大胆な実装による効果測定が可能かもしれません。
市場が限られた離島単体での事業採算性は困難かもしれませんが、「スマートアイランド」が将来的に国内で増加するであろうニーズを見越した産学官連携によるテストベッド(新技術の実証試験に使用される環境)とすれば、民間企業等が参入する価値は十分にあるのではないでしょうか。

スマートアイランドの実証調査事例

ここで、令和6年度に採択された「スマートアイランド推進実証調査」から、具体的な取り組み例をご紹介します。
新潟県佐渡市では、JR東日本やドローン運航をサポートするAIR WINGS社が連携し、佐渡島・粟島と本土を結んで都心と共栄する物流・防災DXプロジェクトが進んでいます。具体的には、佐渡島や栗島の新鮮な海産物等をドローンでJR新潟駅に運び上越新幹線でリレーして首都圏に運送するマルチモーダル物流を活用、長距離高鮮度直送を可能とすることで地場産業の振興と佐渡のPRを強化するとともに、離島と本土との定期物流網を確立することで、平時・災害時を問わず、離島生活の利便性を向上させる試みです。
また、長崎県五島市の島山島および熊本県天草市の御所浦島では、最新のテクノロジーを活用した水産養殖システムを手掛けるウミトロン社やKDDIが連携して、海洋とデバイス設置環境が異なる2つの実証地でスマート給餌機によるマダイ養殖を行い、給餌量最適化、燃料費削減、労働負荷軽減などの経営改善効果を調査する試みが進んでいます。

水産環境の管理や安全保障上の問題などを考えると、有人離島の無人化は避けたいところです。それには島民の生活基盤である産業の活性化が必要です。「スマートアイランド」は決して派手な施策ではありませんが、島国日本の将来にとっては有意義な取り組みではないでしょうか。

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