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コラム No.53-21

PREコラム

戦略的な地域活性化の取り組み(21)「小さな拠点」づくり3 ICTを活用した地域活性化

公開日:2020/01/28

地方における地域活性化の取り組みを持続可能とするためには、地場産業を振興し、収益源を創造することも大切な要素です。今回は、 ICTの活用により地域産業を再生する取り組みに注目してみます。

地域におけるICT活用がさらに実用的になった

2000年代に、光回線などを介したブロードバンド(大容量)通信、携帯などのワイヤレス(無線)通信サービスが市場に投入され、地域の中小の事業者においても、画像や音声といった大容量の情報をインターネットで利用することができるようになりました。インターネットアクセスが増加するに伴って、インターネットを介した情報処理サービス(いわゆるクラウドサービス)を営む事業者も多数出現し、それを支えるデータセンターも増加の一途をたどっています。また、情報処理がサービス化することで、利用者は定期定額性(サブスクリプション:subscription)でさまざまな情報処理サービスが利用可能となり、中小の事業者にとっても、小さな初期投資で高度な情報処理が手軽に始められる環境が整ってきました。
現在では、このようなICT環境を有効に活用し、地域産業の生産性向上を推進している事例が多数見られます。

地域の伝統的な産業の復興が地域再生の鍵を握る ~山中漆器~

地域再生には、特徴ある地域文化や商品・サービスの振興が重要ですが、特に地域で長年、独自の技術・技法を守っている伝統的な工芸品の復興は、地域産業にさまざまな波及効果をもたらします。
石川県加賀市の加賀温泉郷は、2035年には北陸新幹線の延伸が予定されている地域でもあります。その加賀温泉郷の一つ、山中温泉は1300年の歴史を誇り、この山中温泉地域に安土桃山時代から残る伝統工芸品が山中漆器です。しかし、450年続いた山中漆器も、現在ではプラスチックやPET樹脂にウレタン塗装を施した新素材による近代漆器が市場の主流を占めつつあることから、生産高は約100億円と漆器産業としては全国一位ながら、昭和60年代の400億円に比べると減少傾向にあります。これと並行して、職人の数も減少しており、自治体や事業者組合などが後継者の育成に尽力しているものの、10年後には半減するのではないかとの予測もあります。このような状況の中、山中漆器の存続と復興のために、ICTを活用して生産性を向上させる取り組みが始まっています。

山中漆器の生産工程は、製品を発注する「漆器屋」、木地づくりを担当する「木地師」、木地に漆などを塗装する「塗師」、漆の上に金粉などで装飾する「蒔絵師」で構成されており、モノが各職人の間を渡り最終的な製品になるという分業制に特徴があります。そのため、発注者である漆器屋が発注後の各工程の進捗を把握できない、各職人も前工程の進捗を把握できないので作業準備ができない、などの課題がありました。また、受発注業務は、電話やFAXなどによるもので、相互に連動性のない非効率な運用が行われていました。これらの課題を解決するために、地元地銀や山中漆器連合協同組合、石川県、加賀市が連携し、「一般社団法人 山中漆器コンソーシアム」を設立、地域一丸となって、山中漆器産地特有の分業制における、各工程の進捗の「見える化」や、各工程間の「受発注業務等のデジタル化」を行うことにより、事務作業の効率化や産地全体の生産性向上を推進しています。

クラウドサービスを利用した工程管理システムを導入

「山中漆器コンソーシアム」が導入したのは、工程管理システムをクラウド上に構築し、各職人がインターネットを介して、サービスとして利用する仕組みです。構築にあたっては、情報システム開発事業者とクラウドサービス事業者が協業することで、クラウドサービスとして作業工程の一元化を図っており、各職人は、月額1,000円で当サービスを利用することができ、インターネットに接続したタブレットを使って、作業状況の入力・確認が可能となっています。また、高齢の職人はITに対する壁が少なからずあると思われますが、まずITに抵抗感のないユーザーから使ってもらい、効果を見せながら利用者を増やしていくといった、無理のない持続可能な運営方針が採られています。
「山中漆器コンソーシアム」によれば、同システムの導入で、10 ~ 30%程度の事務処理の効率化を達成しており、今後システムの利用に慣れてくる事で、さらなる効率化が期待できるとしています。

このようなクラウドサービスを利用したICT活用事例は、他の漆器産地でも利用可能であり、漆器産業と同様に分業制、アナログな事務処理による課題を抱えている業種にも需要がありそうです。
また、国が進めているSociety5.0では、製造業が今後、世界規模で分業構造になることを想定しており、今年より実用化される5G(次世代高速回線)とAI技術などを駆使したクラウドサービスは、2020年代の潮流になるものと思われます。
「山中漆器コンソーシアム」の取り組みは、山中漆器産地の発展に始まり、世界的な販路拡大、ブランディング、共同製造・物流、海外展開等需要増につながるのかもしれません。

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