PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(31)「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」に見る地方創生の取り組み
公開日:2020/11/30
地方創生は、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目的とした国の施策です。2014年12月に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び「まち・ひと・しごと創生総合戦略」、それらを推進する内閣総理大臣を本部長とした「まち・ひと・しごと創生本部」の設置が閣議決定され、第1期5か年の計画がスタートしました。そして2020年は、第2期計画の初年度にあたります。
「New Normal」時代を意識し、「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」を公表
新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、2020年2月に公表された「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」は、「New Normal」時代を意識した特別な意味を持つと考えられ、その基本目標は以下とされています。
- 1.稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする(雇用機会の拡大と働き方改革)
- 2.地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる(東京一極集中の是正)
- 3.結婚・出産・子育ての希望をかなえる(少子化、人口減少の抑制)
- 4.ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる(地域の活性化)
また、これら基本目標を実現するための手法として、横断的な目標が定められています。
- 1.多様な人材の活躍を推進する(ダイバーシティとインクルージョン(多様性と一体性))
- 2.新しい時代の流れを力にする(シェアリング、Society5.0、SDGs、DX 概念の活用)
地方創生の基本目標は、包括的で多岐にわたっていますが、大まかに要約すると、「成熟期に入った日本の活力を維持するためには、その要である人口の減少を食い止め、地方経済を活性化させる必要があるため、東京圏一極集中を是正して、社会資源を地方へ還元させ、生活の質の向上と生産性向上を同時に加速することが重要」ということでしょう。
地方の特性を生かした事業へのチャレンジ
地方創生を加速させるために、各省庁や自治体において、さまざまな支援施策が整備され、地域の事情に応じて産官学が連携した地域活性化の取り組みが始まっており、全国で魅力的な事業が徐々に立ち上がっています。
アートを軸としたまちづくりを進めて地方活性化を目指すことで、国内外から注目された徳島県神山町の取り組み。地上デジタル放送の難視聴問題解決のために整備されていた光ファイバー網の効果もあって、都市部の企業がサテライトオフィスを設置する動きが活発になり、人・モノ・仕事が集まる地域として生まれ変わりました。海外からの格安メガネフレームに対抗して、高品質なオリジナルブランドを立ち上げ、販路開拓と高収益化に成功し、町全体の活性化活動に繋げた福井県鯖江市の取り組み。
遠隔地にある自治体が連携して、農業の担い手不足、若年無職者やシングルマザーの生活困窮という共通の課題を連携して解決する取り組みを推進している大阪府泉佐野市×青森県弘前市×石川県加賀市、大阪府豊中市×高知県土佐町の取り組みなどは、地方創生の最も成功した事例だといえます。
単発的短期的に終わらない、持続可能な取り組みに向けて
コロナ禍がひとつのきっかけとなり、地方への流れが加速しそうです。地方にとっての最大の課題は、人口の流出による若年人口の減少、少子高齢化ですので、この現象は好機となるはずです。そのためにも、地域が問題解決に取り組む基本的な姿勢(コンセプト)は、やはり重要であると思います。
まず、多様な能力や機能を持つ地域の主体が地域課題に対して自発的に連携することが必要でしょう。個人あるいは身近な主体が活動すること(自助・互助)、それでも解決できない課題であれば、周辺の知恵や力を寄せ合わせてみること(共助)、そして活動を地域全体に波及するために公的な支援を要請すること(公助)といった、プロセスが大切です。やもすると、この順序が逆になって、地域住民に施策が浸透しない失敗事例も少なからず見られます。
そして、継続性、持続性を意識することも重要です。それには、国内外のスタンダードな開発動向を常にウオッチすることが必要です。例えば、世界規模で分野ごとの中長期的な開発目標を設定しているSDGs(SustainableDevelopment Goals)、デジタル化による構造改革を謳うDX(Digital Transformation)、遊休資源の相互利活用・共有することで効率の良い生活を提案するシェアリングの考え方などは、注視すべきであると思います。そうすることによって、広域な連携、ユニバーサルな活動や事業に繋がる可能性があります。
地域の課題は多様なものですが、課題を解決する手法は他地域から学び得ることも多く、それが蓄積することによって取り組み手法の類型化が可能でしょう。今後も多くの地方創生の成功事例が出てくることが期待されますので、その動向や特筆すべき活動手法を広く伝播することにより、国全体の活力維持に繋げることができるはずです。