PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(10)「地域スポーツコミッション」による地域振興策
公開日:2019/02/28
今回は、地域全体の地域資源とスポーツを関連付けることで、地域の活性化を図る「地域スポーツコミッション」の取組について紹介します。
「地域スポーツコミッション」による地域振興戦略とは
「スポーツコミッション」とは、簡単に言うと、経済活性化のツールとして、地域の自治体や非営利団体が中心となり、スポーツ大会の誘致等を行う組織のことで、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、国内の「地域スポーツコミッション」の活動が活発になってきています。
文部科学省スポーツ庁によれば、スポーツによる地域・経済の活性化とは、「スポーツと,景観・環境・文化などの地域資源を掛け合わせ、戦略的に活用することで、まちづくりや地域活性化につなげる取組」とされており、その代表的な事例として、以下の3つが挙げられています。
- (1)スポーツへの参加や観戦を目的とした旅行や、スポーツと観光を組み合わせた取組である「スポーツツーリズム」
- (2)域外から参加者を呼び込む「地域スポーツ大会・イベントの開催」や国内外の大規模な「スポーツ大会の誘致」
- (3)プロチームや大学などの「スポーツ合宿・キャンプの誘致」
これらの取組を推進する組織が「地域スポーツコミッション」であり、地方公共団体とスポーツ団体,観光産業などの民間企業が一体となって組織されています。
近年、さまざまな自治体で、地方のマラソンや駅伝、トライアスロン、市民参加型スポーツイベント、各種プロリーグの発足に伴うプロチームの地域への誘致などが、活発になっています。
国も、平成27年度から、スポーツによる地域活性化推進事業(スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業)を創設し、また各種表彰制度を設けて、「地域スポーツコミッション」の活動を支援しており、2017年9月段階で全国に83団体あるとされる「地域スポーツコミッション」を、2021年度までに170団体に拡大する目標を立てています。
「地域スポーツコミッション」の起こり
「スポーツコミッション」の発祥は、米国にあるといわれています。例えば、1970年代に自動車産業の衰退から産業基盤が沈下し、都市の荒廃と人口減少を招いた米国インディアナ州インディアナポリス市では、都市再生が緊急の課題でした。当時、当地で開催される有名なイベントといえば、自動車レースである「インディ500」がありましたが、その他の地域資源が乏しいことから、スポーツによる都市再生を目指し、1979年に非営利民間組織として「インディアナ・スポーツ・コーポレーション」を全米で初めて発足、スポーツ施設の建設、スポーツイベントの誘致、スポーツ大会の運営支援などを推し進め、地域再生に大きく貢献しました。この成功事例が米国をはじめ、欧州に波及し、多くの都市で「スポーツコミッション」が誕生していったといわれています。
日本においては、1990年代のプロサッカーJリーグ発足あたりから、地域におけるスポーツを活用した地域振興が盛り上がりを見せていましたが、スポーツ全般を地域でマネジメントする「地域スポーツコミッション」は、2011年に発足した埼玉県さいたま市の「さいたまスポーツコミッション」が最初だとされています。
「さいたまスポーツコミッション」の活動成果
「さいたまスポーツコミッション」は、公益社団法人さいたま観光国際協会に属した非営利組織で、主に市の補助金で運営されています。活動の戦略としては、サッカーを軸に、特定競技、スポーツ種別ごとのメッカづくり、ターゲットを明確にした誘致活動を軸に、市内の自然や都市環境を活かしたスポーツイベントの開催・定着を目指すとされています。そもそもさいたま市には、埼玉スーパーアリーナ、埼玉スタジアム2002公園、駒場運動公園など、大規模なスポーツ施設が多数あり、収容人数が1万人を超える施設が6施設もあります。これらの施設を活用して、開催会場の確保や調整、開催に当たっての財政の支援、行政機関との調整や関連企業の斡旋、広報やPR、軽食・販売コーナーの設置、看護師等運営スタッフの派遣など多様な支援メニューを準備し、多くのスポーツイベントを誘致しています。
このような活動の結果、「さいたまスポーツコミッション」によれば、平成29年度の推計される経済効果は、約68億円とされています。
種別 | 開催件数 | 参加者総数 | 推計経済効果 |
---|---|---|---|
(1)誘致・支援スポーツイベント | 39件 | 114,494人 (参加者数) |
3,614,112,534円 |
(2)共催事業(2017ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム) | 1件 | 106,000人 (推計来場者数) |
3,088,000,000円 |
(3)主催事業(第6回さいたマーチ~見沼ツーデーウオーク~) | 1件 | 6,867人 (参加者数) |
98,568,918円 |
合計 | 6,800,681,452円 |
出典:「さいたまスポーツコミッション」HP
「さいたまスポーツコミッション」が属している「さいたま観光国際協会」における平成29年度の総事業費が約4億6千万円ですので、さいたま市におけるスポーツを活用した戦略的な取組による地域経済に及ぼす効果が、いかに大きいかが分かります。
また、平成23年度から平成29年度までに誘致・支援したスポーツイベントの経済効果の推移をみても、活動による地域活性化が持続的に効果を上げていることが見てとれます。
平成 (年度) |
23(※) | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 期間総数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
開催件 数(件) |
12 | 31 | 34 | 39 | 41 | 45 | 39 | 359 |
参加 者総数(人) |
64,033 | 197,673 | 250,323 | 133,227 | 166,232 | 105,638 | 114,494 | 1,031,620 |
経済 効果 (億円) |
23 | 70 | 85 | 53 | 54 | 35 | 36 | 241 |
(※)23年度は下半期のみの計上 出所:「さいたまスポーツコミッション」HP
「さいたまスポーツコミッション」の事例は、スポーツを含めた中核施設の活用による市街地の活性化への取組と、スポーツコミッションによる地域へのスポーツイベントの誘致・開催によって地域全体に経済波及効果をもたらす活動が、地域振興戦略のひとつのモデルとなる可能性を示唆しています。
※「スポーツコミッション」は、一般財団法人日本スポーツコミッションの登録商標です。