PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(28)地方による「New Normal」時代の働き方提案
公開日:2020/08/31
国は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い2020年4月に緊急事態宣言を発出し、その後、経済活動への影響等から5月には解除しました。この間1か月以上、外出自粛要請が出されたことから、企業においても社員の在宅勤務を強いられ、業務を継続する手法としてITネットワークを介したテレワークという働き方が浸透、現在においても継続している企業が多数あります。
テレワーク・リモートワークという働き方と事務所機能
店舗による対面での接客が必要な業種は別として、社員が在宅勤務することで業務の拠点であった事務所は無人となり機能しなくなります。特に、インターネットを介した業務を主体とした企業は、元々社員が対面で業務を行う必要性が低いこともあり、都心の事務所を解約したり、本社機能を地方に移転したりといった事例が、最近話題となっています。中には、この機に社員が地方移住を考え、会社もそれを推奨する動きも出ているようです。これらの事象をとらえて、新型コロナウイルス感染拡大が収束した後も、都心事務所の解約や本社の地方移転が進み、企業の東京一極集中が解消されていくのではないかとの観測もあります。そもそも首都圏、特に東京は、昼間人口が過密状態となっているため、今回のような疫病に留まらず、直下型地震、大型台風、火山の噴火などにより、歴史的にも甚大な被害を出しており、今後も災害が発生することが予測されています。そのため大企業を中心に、活動拠点を分散するBCP(事業継続計画)を進めており、これが今後、中小企業にも及ぶことになるかもしれません。
東京圏企業(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県)の動向
2019年の内閣府の資料によると、日本における東京圏への転入人口の増加は、前回の東京オリンピック開催前後の「高度経済成長期」、 1980年半ばの「バブル経済期」、2008年リーマンショック前の「いざなみ景気」など、好景気の波に比例して集中し、その後の景気後退期には減少するという傾向があります。そして、新型コロナウイルスの世界的な感染により、国内外はリーマンショックを超えるリセッションに突入しているという報告もあり、今後しばらくは東京圏への人口流入は抑制されると考えられます。また、帝国データバンクの「全国『本社移転』動向調査(2019年)」によると、現状でいえば、本社の東京圏移転は、近年9年連続で転入超過となっており、東京圏への一極集中は続いているといえます。一方、東京圏にある各都県においては、東京都は49社の転出超過となっているものの、神奈川県49社、千葉県は35社、埼玉県は32社の転入超過と、全国的にも上位を占めており、東京圏内の中でも、神奈川県、埼玉県、千葉県へ本社を移転させる傾向が見てとれます。地価が高く昼間人口が過密で災害による被害が危険視される都心を避けるとしても、経済圏としての優位性を考慮すると、遠隔地への移転は事業リスクが伴うため、近隣にあり、交通・通信等ビジネスインフラが同程度に整備された近県へ移転する状況が、これまでの傾向です。
しかし、今後の景気動向とテレワークにみられるような働き方の変化次第では、東京圏企業の地方移転や企業の小規模分散化(ピラミッド構造から水平分散構造へ)により、東京圏一極集中の解消が進む可能性は否定できません。
地方のワーケーションという取り組み
新型コロナウイルス感染拡大に伴って、テレワーク、リゾートワーク、ワーケーションという言葉をよく耳にします。これまでも国は、地方創生を見据えた地方でのテレワークや、人材の流動化を促進する兼業・副業といった働き方改革を推進しており、その施策の一つとして、総務省は2014年から「ふるさとテレワーク推進事業」を進めています。その中で、和歌山県白浜町は、早くからリゾートテレワーク環境を整備し、「ふるさとテレワーク推進事業」の実証実験にも参加、多くのIT企業の誘致に成功している自治体です。
白浜町は、2004年に「白浜町ITビジネスオフィス」という貸オフィスを開設し、2社が入居しましたが、その後撤退し、5年間入居者がいなかったといいます。その原因は、リゾート地である白浜町の人々とオフィスで働く人との接点が乏しかったからだといわれています。つまり、テレワーク環境の整備で企業の生産性は上がるとしても、テレワーカーが日常生活を楽しめなければ、移住・定住意欲は下がってしまうということでしょう。その後白浜町では、地元住民との交流を推進する事業や移住者をサポートする体制の構築、地元情報を積極的に発信する仕組みの構築に取り組んだことで、企業の視察は年間200件を超えるに至り、2017年にはオフィスは満杯状態となり、オフィスの更なる増設を進めています。この白浜町の事例は、テレワークスタイルでサテライトオフィスの分散化を計画する企業を受け入れる、地方の先進的取り組み事例として注目されます。
また、2020年2月には、新潟県湯沢町に移住サポート事業を行う「きら星株式会社」が設立され、バブル期に造られたリゾートマンションを活用し、収入や職種に満足しながら地方移住を実現するワーケーションスタイルを普及させ、地方移住につなげていく社会実験に挑戦しています。
地方から見れば、東京一極集中という時代の流れが変わるかもしれないという状況のなか、地方分散型のライフスタイルを提案する機会にもなっているといえます。
しかし、単にオフィス機能を提供するというハード面だけではなく、生活やコミュニティ、キャリアまで含めたソフト面の整備まで必要であることはいうまでもありません。東京や大阪などの大都市とのネットワーク、デジタル通信による快適な働く場所の提供、生活の支援など、課題は多いものの、今後、働き方の変化が加速し、地方に在住しながら、兼業・副業を含めてテレワークで仕事をするというライフスタイルに対応した、地方分散型社会の実現を目指す地方の取り組みが加速していくかもしれません。