PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(33)まるごと未来都市 ~スーパーシティ構想による地方創生~
公開日:2021/01/20
2020年6月3日、新型コロナウイルス感染拡大が世の中を騒がせていた最中、ICTを活用した地域活性化、いわゆるデジタル・トランフォーメーション(DX)施策を包括的に推進する、「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」(スーパーシティ法)が公布されました。今回は、この「スーパーシティ法」について、ご紹介します。
規制改革制度による戦略的な地域活性化の歩み
国内の規制改革制度は、特定地域で地域活性化の障害となっている規制を緩和し全国に波及することを目的とした構造改革特区制度(2003年発足)、財政支援を含めて総合的な規制緩和区域を指定し特区間に波及させる総合特区制度(2012年発足)を経て、2014年には「世界で1番ビジネスのしやすい環境」を目標に、規制緩和により民間投資を促し地域活性化を推進する国家戦略特区制度が始まりました。そして2020年5月27日に「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」、いわゆるスーパーシティ法が成立し、6月3日に公布されました。
スーパーシティ構想とは、ICT技術やAI、ビッグデータなどを活用し、地域社会の仕組みを根本から変えるような基盤を創造する取組です。日本国内には十分な技術やノウハウは揃っているものの、様々な規制や制約から、それらを活用し実践する場が限られています。そこで国家戦略特区制度を活かして、地域住民と事業者間の協力のもとに、住民生活の様々な課題を解決する「スーパーシティ」を実現させようという構想が提起されています。例えば、車両の自動走行とキャッシュレス化を実現することにより、高齢者等の送迎やごみ収集のオンデマンド化、貨物配送の無人化を地域で実現するようなことが想定されます。
これまで、特別区域内における規制の緩和により、様々な先進的な取組が行われて、一定の成果を上げてきた一方、これらは産学官による地域内での実証実験的な試みであり、実効性のある仕組みとして全国的に普及するには至っていませんでした。そこで、これらの成果を踏まえて、「交通」「物流」「決済」「医療」「教育」「行政」「エネルギー」といった各分野で共通するデータを連携させる基盤を整備し、各分野の事業者等のプレイヤーが活用することで、地域住民へのサービスを高度化させる戦略が検討されました。
世界における先進事例
世界各国の都市では、すでにICTを活用して、都市機能を高度化させる先進的な取組が進んでいます。
スペインのバルセロナでは、人や車の動きを感知するセンサーが市中の各所に設置され、これらをWi-Fiを経由して連携させることにより、空き駐車スペース情報を提供する「スマートパーキング」や、街路灯と連動した見守りサービス、ゴミの自動収集サービスなどの住民サービスを街単位で実現しており、今後は情報基盤を活用した様々な官民サービスへの展開が期待されています。
韓国のソンド市では、埋立地に計画的にスマートシティを創り、高層住宅に自動ゴミ収集用のダクトを整備しごみ収集車を不要にする、あるいは最新のビデオ技術を活用して、遠隔教育や在宅医療が受けられる等の環境が整備されています。
また、中国の杭州市では、市中道路の約50%に監視カメラを設置し、AIを活用することで、違反者の摘発をはじめ、信号機との連動により交通渋滞を緩和する取組など、包括的な交通管理システムを整備しています。これらの取組は、今のところ地域単位での先進的事例ですが、各国ともその成果を全国に広げるデータ基盤の整備を進めており、ビッグデータとAIの活用による未来都市構想の実現を急いでいます。
日本版スーパーシティ構想の概要
国内には、個人情報をはじめ、事業者が管理する交通、電気・ガス・水道といった生活インフラ情報、金融機関が管理する口座情報や資産情報、交通機関が管理する路線情報や乗客の乗降情報、建設事業者が管理する設備情報、公的機関が管理する住民情報や施設情報等々、様々なデジタル情報(データ)があります。これまでは、地域プロジェクトごとに、各事業者間が必要なデータを連携した取組はありましたが、データ連携の方式や活用条件がプロジェクトごとに異なるため、地域間での横展開が簡単ではありませんでした。
スーパーシティ構想では、データを提供する「データ提供者」、提供されたデータの連携基盤を管理する「データ連携基盤」、これらのデータを活用して住民サービスを提供する「先端的サービス(事業者)」と、それぞれのプレイヤーを3つのグループに分類しています。
これまでは、「データ提供者」と「先端的サービス(事業者)」が個別に協業するしかありませんでしたが、その仲介機能として国・自治体が主導して「データ連携基盤」を運営し、「データ提供者」あるいは「先端的サービス(事業者)」とのデータをやり取りするルール(API:アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を定義・公開することで、地域開発に必要なビッグデータの活用が促進されるはずです。この仕組みを活用することにより、地域課題に応じた住民サービスを迅速に構築することが可能となり、先進的な事例を全国的に横展開することも容易になり、地域活性化が加速することが期待されます。
スーパーシティ法の成立を受けて、2020年6月にスーパーシティ構想の実現に向け、内閣府およびスーパーシティに取り組む企業を中心に「スーパーシティ・オープンラボ」が設立され、2020年11月末現在、200社・団体以上が参加しています。また、2019年9月から、スーパーシティ構想の検討を進めている自治体等から、幅広く検討中のアイディアを募集する「自治体アイディア公募」が実施され、2020年10月現在で57団体が応募しており、スーパーシティの実現に向けて、産官学の活動が活発になっています。
スーパーシティ構想が想定するビッグデータの中には、既存情報以外にも、街頭・屋内監視カメラや自家用車載センサー情報といった、市民の基本的人権に関連する情報も含まれるため、今後、国民の自由とプライバシー保護に関する法整備の議論も進める必要があります。
とはいえ、コロナ禍の中、現状や予測把握の遅延、給付金・助成金手続きの混乱など、国内の情報基盤の脆弱さを経験し、また世界的なテロやウイルスによるパンデミックを防御する、あるいは都市人口集中を分散する意味でも、スーパーシティ構想の実現は日本には欠かせない戦略的施策であると言えるのではないでしょうか。