PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(41)公民連携による国土強靭化の取り組み【4】デジタル化社会を見据えたBCP(事業継続計画)
公開日:2021/10/29
高度化する情報化社会にあって、データセンターの需要はますます拡大しています。一方、データセンターは、企業や個人の多様な情報(データ)を管理する事業であるため、BCPの観点から施設の分散化が求められています。また、IT機器や冷却装置を稼働させるために多くの電力を消費することから、近年の脱炭素化にも対応する必要があります。
データセンター事業の変遷と課題
インターネットの普及により情報通信技術が高度化し煩雑化するにつれて、各企業が自社管理していた情報システム運用を専門の事業者に委託する動きが拡大しました。これがデータセンター事業の始まりです。さらに、データセンター事業者は、各社に共通する電子メールやホームページ、ユーザー認証、データ管理と処理、ネット販売サイト運営や決済といった共通機能を提供するサービス、いわゆるクラウドサービスを展開することで、その国内市場規模は、わずか20年あまりで約1.5兆円に達し、2024年には約2.2兆円と予測されており(出所:2020年8月、IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社の発表)、今後もDX(デジタル化による変革)の中核事業として、IT企業、製造業だけでなく、サービス業、農業なども含め、全ての産業の根幹として、需要が拡大するものと思われます。
一方で、データセンターの立地や運用に関して、いくつかの課題も指摘されています。その一つが、不測の災害や事故に対するBCPの強化です。現在、国内のデータセンターは、通信回線の整備状況などから、その80%が首都圏や近畿圏などの大都市に集中しているため、国も、直下型地震等の災害や事故に備えて、地方への分散化を推進しています。また、データセンター事業がグローバル化し、国を超えた相互連携が拡大するに伴って、データセンターを活用する企業や自治体等の情報セキュリティに対する懸念も指摘されています。
これらの課題に対する解決方法として、中小規模のデータセンターを地方に分散し、その地域に立地する企業や自治体のデータを地域ごとに保管・管理・運用する、いわゆるエッジデータセンターの普及を目指す動きも出ています。
脱炭素社会がもたらすデータセンター事業の今後
データセンターは非常に多くの電力を消費する設備ですが、国は、2030年にはCO2等の温室効果ガスを46~50%削減、2050年までに実質ゼロを目指すとしています。
この目標を達成するためには、データセンターのさらなる省エネ化を行い、電力消費量を抑制することが必要です。しかし、デジタル化社会を支えるデータセンターの需要は、今後も拡大することが予測されるため、省エネ化には限界があります。そのため、脱炭素化に対応するためには、供給電力を再生可能エネルギーに転換することが一つの解決方法と考えられます。ただし、日本におけるデータセンターは、その80%が再生可能エネルギーを調達しにくい大都市圏に立地しており、また非化石証書等の環境価値を購入して対応するにしても、メガワットレベルの消費電力を対象とした場合、電力調達コストの大幅な増加となるため、実現は簡単ではないと思われます。これまでデータセンターは、通信環境や需要家の利便性に最適化する形で、大都市圏を中心に発展・拡大を続けてきましたが、BCPの観点以外にも脱炭素社会に直面することで、地方への分散・再統合化への岐路に立っています。
データセンター再編の動き
2021(令和3)年6月に閣議決定された2021年成長戦略実行計画によれば、「先端的な半導体の開発や立地支援を行い、低消費電力のデータセンターの分散配置を行う」とし、「高性能・低消費電力のデータセンターについて、新たに最大5か所程度の中核拠点と、需要を勘案しながら最大10か所程度の地方拠点の整備を推進し、国内における最適配置を図る」としており、デジタル化社会の実現に向けた国の動きが加速しています。近年の新たなデータセンターの動向をみても、2011年の東日本大震災直後から、小中規模ではありますが、BCPに配慮した分散・統合型のデータセンター事業に挑戦している事業者が見られます。注目されるのは、データセンターはIT機器類の冷却に電力の約40%を消費しているといわれており、それら事業者の多くは、その効率的な冷却を図る目的で、特に寒冷地である北陸や東北、北海道において事業を展開していることです。このような動きは全世界的なものであり、寒冷地で再生可能エネルギーが調達しやすい地域に分散する傾向があり、こうした動向が今後も続いていくものと思われます。
データセンター立地の重要な要素は、通信環境が整備されていることにあります。これまで国内のデータセンターが首都圏や近畿圏に集約されている理由は、海外からの通信回線(海底ケーブル)が大都市に集中していることにあります。情報インフラ整備は、派手さはありませんが、日本の経済成長にとって重要な戦略と言えます。世界的に脱炭素社会の実現が急がれる中、強靭な社会を構築するためにも、国と自治体、公民連携によるデジタル化社会に備えた地域インフラ整備が急がれます。