国土交通省が「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ」を公表
公開日:2024/10/31
国土交通省はこのほど、グリーンインフラを促進するため、取り組むメリットなどをまとめた「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ」を公表しました。グリーンインフラの多様な経済効果における事例を示して企業の資産および不動産価値に好影響を与えることを指摘しています。
自然環境保護を通じた地域づくり
グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用などのハード・ソフト両面で自然環境が持つ多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取り組みのこと。「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ」(以下、「すゝめ」)は、国土交通省が2023年12月から今年6月までに5回開催した「グリーンインフラの市場における経済価値に関する研究会」における議論をまとめたものです。主に地域経済の活性化や水害リスク低減などグリーンインフラによる多様な経済効果について数多くの事例を通じて示しています。
また、グリーンインフラへの取り組みが価格・賃料・利回りなどを通じて企業の資産価値に好影響を与えることについても触れています。国交省がこうした報告書を公表した背景には、グリーンインフラに取り組むメリットを示し、都市開発やまちづくりでグリーンインフラがより多く展開されることを期待しているからです。
「すゝめ」では、地域経済の活性化の事例として新庁舎建設に合わせて隣接する放棄林の既存樹木を生かした緑地を整備した、三重県いなべ市の「にぎわいの森」を紹介しています。緑地内に商業施設やオープンスペース、散策路を配置するなどした結果、いなべ市の観光入り込み客数は開業前後で約2倍と増加。「にぎわいの森」利用者の約3割が市内の他施設にも立ち寄るなど地域の回遊性を高めています。
図:「にぎわいの森」開業前後における観光入り込み客数の推移
出典:グリーンインフラの事業・投資のすゝめ~経済効果の見える化を通じた都市開発・まちづくりにおける投資促進に向けて~(概要版)
(国土交通省 2024年9月 グリーンインフラの市場における経済価値に関する研究会)
「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ」は、環境保護に工夫を凝らした不動産(環境不動産)と、それによって生じる資産の価値(グリーンプレミアム)との関係についても、これまでの研究を基に紹介しています。米国オフィス市場でグリーンビル(環境配慮型ビル)は、より高い賃料が得られる可能性があるため、高コストの開発になったとしても投資家の投資意欲は低下しないことや、ニューヨークで街路の緑化度が非常に低いビル取引と比べると、(街路の緑化度が)高いビルは取引プレミアムで10%前後、賃料プレミアムで6~7%前後の差が付くとの研究結果を記しています。
生物多様性増進活動促進法が成立(2024年4月)
わが国では従来から、自然環境が持つ機能を活用して防災・減災や地域振興、環境保全に取り組んできました。欧米では1990年代後半から都市の緑化などによる雨水管理や気候変動対策などに取り組み、グリーンインフラを実践してきました。わが国では2015年の国土形成計画で「グリーンインフラ」という言葉が初めて盛り込まれ、2019年に国交省がグリーンインフラ推進戦略を公表、2022年の生物多様性条約会議などを経て今年4月、生物多様性増進活動促進法が成立しました。
企業の生物多様性の増進のための活動を促進する法律で、企業による生物多様性の保全地域「自然共生サイト」の認定を法制化したりします。国は2030年までに国土(陸と海)の30%以上を自然環境エリアとして保全する目標を立てており、「30by30」とも呼ばれています。
自然共生サイトの認定を受ければ、社有林や緑地を管理し持続可能な社会・まちづくりに貢献している会社であるとの評価を受けることができ、企業にとってブランドの向上にもつながるメリットがあります。制度の本格運用は2025年度で、現在は自然共生サイトの所有・管理者と支援者を繋げる「支援証明書制度」が計画されているもようです。この制度を利用してサイトの所有者は寄付などの支援を受けることができます。CO2の削減量(吸収量)を取引するJ-クレジット制度と類似し、「生物多様性クレジット」と呼ばれることがあります。
初期費用、効果測定など課題もある
グリーンインフラには課題もあります。自然環境を使うため、従来のグレーインフラ(コンクリートや金属などの強固な人工構造物)に比べて管理が難しく、生態系に負荷をかけないよう適切な設計や技術が求められます。またグリーンインフラは初期投資が高く、メンテナンスにも長期的なコストがかかることから、適切な管理を続けるための資金調達が難しい場合があるとされていますります。グリーンインフラを実行するための専門知識を持つ技術者や管理者が不足しており、適切に運用するための人材確保が最も重い課題との指摘もあります。
グリーンインフラの一層の促進のためには、国や自治体だけでなく、官民が協業して取り組むことが必要ではないでしょうか。企業自身が自然共生サイトを所有し運営する場合と、所有はしないが資金や技術提供するケースも考えられます。グリーンインフラを前に進めるためには、「生物多様性クレジット」のようなテコ入れ策が求められます。