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コラム No.53-77

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戦略的な地域活性化の取り組み(77)公民連携による国土強靭化の取り組み【39】地域再生のモデルケースを予感させる宇都宮ライトレール開業1年目の成果

公開日:2024/09/30

2024年8月26日、宇都宮ライトレールが開業から1周年を迎えました。年間の利用者数は475万人を記録し、当初予測の1.3倍と好調な滑り出しとなっています。開業当初は、計画通りの利用があるのか、投資の回収は大丈夫なのか、経済的な波及効果が見込めるのかなどの意見もありましたが、1年を経た現在、予想を上回る事業成果に注目が集まっています。

宇都宮ライトレールの概要

2023(令和5)年8月26日に開業した宇都宮ライトレールは、宇都宮駅―芳賀町間で開業したLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)路線です。国内での新たな路面電車路線開業は実に75年ぶり、新規建設・運用は国内初となりました。その背景には、他の地方都市と同様に、商業地や住宅地の郊外への膨張、中心市街地の空洞化があります。都市機能の拡散により、都市のスポンジ化(都市の内部に空き家、空き地等が、小さな単位で発生すること)、道路や下水道、公共サービス拠点といった社会インフラ整備コストの増大、輸送量が限られる公共バスやマイカーの急増による慢性的な交通渋滞といった問題を抱えています。
また、急激に進む人口減少、少子高齢化への対応として、コンパクトシティ化は避けられないことから、国も都市計画における規制を緩和する「都市再生特別措置法」(2002年)や「立地適正化計画制度」(2014年)を制定して、都市の再編に向けた支援を強化しているところです。そのような中で、宇都宮市はLRTの新設・導入によるネットワーク型コンパクトシティ化の計画を進めてきました。
宇都宮ライトレールは、構想から30年余りの時間と多くの建設費用を投下した都市再開発プロジェクトで、宇都宮駅東口周辺の市街地と郊外の住宅地域や商業地域、工業地域を結び、各地域住民の移動手段を確保することにより、慢性的な交通渋滞を緩和するとともに、道路等インフラ整備コストを削減する効果が期待されています。また沿線地域では、新たな宅地開発や商業ビル建設も進み、今後の人口流入も見込まれるため、LRT導入の経済効果は小さくないと言われています。宇都宮市では、2026年を目途に宇都宮駅西口方面にもLRTの延伸を計画しており、公共交通機関を軸とした大胆な都市デザインの再編は、地域活性化の起爆剤として、今後の動向が注目されています。

宇都宮ライトレール利用状況と利用者意識

宇都宮市では、2013(平成25)年より「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」を設置し、ライトレールの整備について検討を続けていますが、2024(令和6)年6月に公表された資料には、ライトレール開業による住民の行動や意識の変化に関するアンケート調査結果が掲載されています。
それによると、沿線内住民の「社交・食事・娯楽の頻度」は11.0ポイント、「中心市街地への来訪頻度」は16.0ポイント、「公共交通全体の満足度」は0.91ポイント、開業前に比べて増加しており、ライトレール開業は、住民の行動や意識にプラスの効果をもたらしているようです。特に沿線内住民の送迎の負担感では、「通院・介護での送迎」で7,1ポイント、「保育園・幼稚園等での送迎」で6.5ポイント軽減されたとの結果になっています。
また、ライトレール利用者に限った意識調査によれば、「公共交通全体の満足度」は約42ポイント、「通学目的利用者の移動に関する満足度」は約58ポイント、「通勤目的利用者の移動に関する満足度」は約19ポイント、「買物・通院などの移動環境の満足度」は約59ポイント、「子育て世代や車いす利用者などの移動に関する満足度」は約43ポイントと、開業前に比して大幅に改善しており、ライトレールの輸送能力や定時性、快適性などが、特にこれまで移動に不便や制約を抱えることの多かった住民に高く評価されていることが分かります。

宇都宮ライトレールがもたらす社会・経済効果

前述の委員会資料では、地域社会や経済への波及効果も公表しています。
まず、2012(平成24)年9月~2024(令和6)年3月の宇都宮市全体の人口は、2017(平成29)年をピークに減少傾向が続いている一方、ライトレール沿線で高層住宅の建設が続いている影響もあり、沿線内人口は約8%増加しており、志賀町についても8年連続で転入超過となるなど、沿線への人口集積が見られます。
また、2012(平成24)年1月時点~2024(令和6)年1月時点の宇都宮市の公示価格をみると、市全体では商業地で-6%、住宅地で-7%であるのに対して、ライトレール沿線では商業地で+6%、住宅地で+11%と上昇しており、工業地である志賀町においても、2018(平成30年)を底に地価は上昇基調にあります。
さらに、ライトレール沿線にある宇都宮市清原工業団地では,ライトレール開業前後に公表された立地企業の投資額だけでも1100億円を超えるなど、ライトレールがもたらす地域産業への経済波及効果も顕在化しています。
加えて、ライトレールが様々なメディアに取り上げられたことにより、地域の露出度が上がったことで、観光地や移住先として、あるいは投資先としての価値が確実に向上していると考えられ、将来にわたって生み出される地域への経済波及効果は決して少なくないことを予感させます。
宇都宮市では、ライトレールに接続する地域内公共交通との乗継利用の改善や、パークアンドライドを促進することで、今後も地域間連携をさらに強化する方針のようです。

宇都宮ライトレールは、開業1年目にして、LRTによる公共交通網整備を核としたネットワーク型コンパクトシティ構想の可能性を、国内外に認知させる成果をもたらしたのではないでしょうか。

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