戦略的な地域活性化の取り組み(51)公民連携による国土強靭化の取り組み【13】地域共生社会に欠かせない互助的なセーフティネット
公開日:2022/07/28
少子高齢化が進む中で、一人暮らしの高齢者が増加しており、この高齢単身世帯では、2人以上の世帯に比べ、借家の割合が高くなっています。総務省の「平成30(2018)年住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯が居住する住宅全体では、持ち家が82.1%、借家が17.8%であるのに対して、高齢単身世帯では、借家の割合が33.5%と約3分の1となっています。その原因としては、高齢者が単身世帯となることで、住居の生活利便性や経済的な理由から、持ち家を処分して借家に転居する例が多いのではないかと言われています。
住宅セーフティネットの必要性が高まる
(公財)日本賃貸住宅管理協会の「家賃債務保証業者の登録制度等に関する実態調査報告書(平成30〔2018〕年度)」によれば、賃貸人の約8割は高齢者の入居に対して拒否感を抱いているとされ、その理由としては、家賃支払いや近隣との協調性、居室内での死亡や事故への不安が指摘されています。近年ではサービス付き高齢者向け住宅の供給が増加しているところですが、対象となる入居者は一定の所得や資産を有する高齢者が中心であり、低所得高齢者のニーズに対応できていないのが現状です。さらに、賃貸人の意識として、障がい者や外国人の入居に対して約7割、子育て世代に対して約1割が拒否感を持っているといわれ、借家への居住が制限される、いわゆる住宅確保要配慮者への救済が必要となっています。
このような状況に対して国は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の一部を改正する法律」を平成29(2017)年に施行し、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録を制度化し、登録住宅の耐震化やバリアフリー等改修や家賃低廉化、家賃債務保証料への助成を行うとともに、住宅確保要配慮者とのマッチング・入居支援を行っています。
しかし、賃貸人にとっては、住宅確保要配慮者の入居促進に積極的に取り組むメリットが少ないとされ、物件の登録が進んでいないのが実状のようです。
民間によるユニークな多世代型賃貸住宅
住宅確保要配慮者が社会的な課題となる一方で、空き家、空き室は増加しています。平成30(2018)年時点で、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は 13.6%で過去最高、その内の約半数6.9%は賃貸用の住宅となっています。(「平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」より)そのような状況の中で、神奈川県藤沢市に多世代型賃貸アパート「ノビシロハウス亀井野」が、2021年に開業しました。ホームページ等によれば、(株)ノビシロが運営する「ノビシロハウス亀井野」は、少子化やコロナ禍の影響で学生が減少し空き室が増え続けいていた学生向け賃貸住宅を買い取り、1階の4室を車イスでも生活できるようバリアフリー居室に改修、2階の4室は一般向けとしてリノベーションを行い、多世代で居住できるように企画された賃貸住宅です。
また、隣接して2階建ての建物が新築され、1階には入居者や近隣住民とのコミュニティスペースとしてカフェやランドリーを開設し、毎月カフェで健康面などの相談ができる「暮らしの保健室」を開催、2階には訪問看護ステーションのほか、訪問診療を行うクリニックの開業も予定されており、地域医療・介護の拠点としての機能を担っています。さらに、若い世代の住民が、他の住民のソーシャルワーカーとして日頃から声掛けすることを条件に、家賃が半額になるというユニークな制度を採用しています。その他にも、ITを活用した見守り機能を整備するなど、住民同士が世代を超えて高齢者や障がい者等を無理なく見守る工夫がなされています。同社では、同様のコンセプトで事業を展開する計画もあるとのことで、今後の動向が注目されます。
地域共生社会の構築に向けた公民連携
シ国や地域が持続的自立的に強靭であるためには、地域住民個々人が、自由闊達にその能力を発揮できる社会基盤が必要だと思います。そのためには、将来的な不安を地域でカバーする多層的なセーフティネットが不可欠でしょう。誰一人取り残されることなく、地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けるためには、特に医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制(地域包括ケアシステム)が重要です。
しかし、少子高齢化や公的財政面を考えると、「公助」(公的支援)や「共助」(保険や共済等)による大幅な支援サービスの拡充だけを望むことは現実的ではなく、地域住民が相互に助け合う「互助」の役割が大変重要になってくると思われます。その意味では、前出の「ノビシロハウス亀井野」は、地域住民による世代を超えたコミュニティを醸成し、空き家・空き室の増加、住宅確保要配慮者への対応といった地域課題を解決する取組として、優良な事例であると思います。地域には、まだまだ活用可能な公民の資源が眠っているはずです。今後も、身近な地域課題を解決するユニークなソーシャルビジネスの出現に期待したいと思います。