戦略的な地域活性化の取り組み(70)公民連携による国土強靭化の取り組み【32】アフターコロナで見えてきた観光地域づくり戦略の産業価値を考える
公開日:2024/02/29
2023年の訪日外客数は4年ぶりに年間2000万人を超え、インバウンド市場が急回復しています。2023年度の公表データを基に、観光地域づくり戦略について考えてみます。
予想を上回るペースでインバウンド市場が急回復
日本政府観光局(JNTO:独立行政法人 国際観光振興機構)、及び国土交通省観光庁が2024年1月17日に公表した、2023年度(暦年)のインバウンドに関するデータ(速報)によると、コロナ禍終息後のインバウンド市場は急速に回復しているようです。
まず、年間訪日外客数は、コロナ禍以前2019年と比較し、8割程度の2,500万人まで回復が進んでおり、特に10月以降の訪日外客数は2019年同月比100%を超え、右肩上がりで進捗しています。また、訪日外国人消費額は2019年比9.9%増の5.3兆円、一人当たり旅行支出額は21.2万円(2019年比33.8%増)と、過去最高を記録しました。
2023年に策定された「観光立国推進基本計画(第4次)」では、「質の向上を強調し、人数に依存しない指標」として、早期に達成する目標値を「訪日外国人消費額5兆円」「訪日外国人旅行消費額単価20万円/人」と設定していましたので、数値上は早々と目標を達成したことになります。
訪日外国人消費額に着目して、消費額増大の要因を探ると、平均泊数が10.2泊と2019年より1.3泊延びたことで、一人当たりの宿泊費が55.2%増加していることが目立ちます。その他にも、飲食費(2019年比38.1%増)、交通費(同45.1%増)、娯楽サービス費(同68.4%増)となっており、訪日外国人消費額拡大に貢献しています。背景として、円安による訪日外国人の消費マインドが高まっていることや国内物価上昇という影響もありますが、2023年度の調査結果を見る限り、観光立国を目指す日本の魅力は衰えを見せず、国内インバウンド市場が成長基調にあることは確かなようです。
なお、2023年12月の国別訪日外客数(総数273万人)では、韓国(78万人)、台湾(49万人)、中国(31万人)、香港(25万人)、米国(18万人)で74%を占めるなど、アジア、北米からの訪日客が主流となっているほか、豪州や中東からの訪日も増加傾向にあります。
訪日客は相変わらず大都市に集中
「観光立国推進基本計画(第4次)」では、コロナ禍でダメージを受けた観光市場を早急に回復させる必要性から、「インバウンド回復戦略」「国内交流拡大戦略」に目標を設定して集中した取り組みが実施され、前述のように成果は着実に出ていますが、そもそもの目的である「持続可能な観光地域づくり戦略」(観光振興が地域社会・経済に好循環を生む仕組みづくりを推進する戦略)への波及についても考察する必要があると思います。
行楽シーズンである10月期の都道府県別外国人延べ宿泊者数を見ると、東京都(シェア37.1%/2019年同期比68.5%増)、大阪府(同16.3%/33.7%増)、京都府(同11.6%/20.3%増)と、依然として3大都市への偏りが見られます。一方で、栃木県(2019年同期比23.3%増)、群馬県(同20.9%増)、石川県(同23.2%増)、長野県(同27.9%増)、山口県(同52.0%増)、徳島県(同20.9%増)、高知県(同76.3%増)、熊本県(同27.1%増)など、訪日外客数を伸ばしている地方都市もあることから、地域ごとのインバウンドに対する取り組み事例を精査することが、今後の地域戦略策定に有効ではないかと思います。
観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)への期待
「訪日外国人旅行者の意向調査」(日本政策銀行/日本交通公社、2023年)や「22市場基礎調査」(日本政府観光局、2022年)等によると、多くの訪日外国人は、日本固有の「自然や風景」「温泉」「日本食」に対する興味を持ち、満足度が高いようです。その意味では、地域観光地へのアクセスが整備されている関東や近畿の大都市に滞在する割合が高いことは頷けます。一方で、大都市以外の“観光ズレしていない”地方エリアへの訪問を希望する訪日旅行リピーターも少なくない中で、地方の観光情報発信が十分でないことも指摘されています。観光庁においても、「観光地域づくり法人(DMO)登録制度」を設けて、観光地域づくりの司令塔として、地域が一体となって地方誘客・旅行消費拡大を図る体制の整備を推進しています。
例えば、2018年に広域連携DMO(地方ブロックレベルの区域の観光地域づくりを行う組織)に登録された一般社団法人 九州観光機構は、九州各県、及び沖縄県、山口県を対象エリアとして、広報サイト「Visit Kyushu」を運営するなど、アジアや欧米、大洋州に向けて多言語によるSNSやWEBを活用した情報発信を行うとともに、旅行エージェントやメディアへのPRに力を入れています。また、国際サイクルロードレース「ツール・ド・九州」の開催を企画し、九州・沖縄・山口各県を自転車で巡る「ディスカバー九州」の取り組み等を各自治体と連携して進めるなど、多様な観光資源を持つ九州全域へのインバウンド誘客に力を入れています。
このような活動が奏功してか、米TIME誌で「2022世界で最も素晴らしい場所50選」に九州が選出されたほか、2024年1月には、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で「2024年に行くべき場所ベスト10」に九州が、ニューヨーク・タイムズ紙で「2024年に行くべき52カ所」に山口市が選ばれています。
観光地として日本の認知度が高まっている中で、インバウンドが急回復し、国の主要産業として成長しつつある今、広域な公民連携による地域活性化の重要な活動として、観光地域づくり法人(DMO)による地域観光開発の取り組みには、大いに期待したいところです。