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コラム No.53-82

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戦略的な地域活性化の取り組み(82)公民連携による国土強靭化の取り組み【44】地域経済に大きな影響を及ぼす産業用地開発。経済産業省が「地域未来投資促進法を活用した土地利用調整の事例集」を公表

公開日:2025/02/28

地域経済にとって企業を呼び込む産業立地は重要な政策です。その基盤となるのが地域産業用地の確保と整備にありますが、産業用地開発は立地する産業によって特性があり、また多額の資金と時間を要する事業でもあります。特に近年では、産業構造や国内外の社会情勢によるサプライチェーンの変動が激化しており、企業等のニーズに合わせたタイムリーな産業用地の開発が求められています。

地方の産業立地を支援する「地域未来投資促進法」

近年の深刻な人口減少/少子高齢化の進展、大震災や気候変動による大規模災害の頻発、国際紛争の激化、国家間の政治的な対立と地政学的なリスクの増大、新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの停滞、急激な円安傾向など、産業界を取り巻く環境は激変しています。企業においても、ここ数年、生産拠点の国内回帰や国内生産体制強化の動きが活発化しているといわれています。
経済産業省は2017年に「地域未来投資促進法」(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律)を策定、地域に経済的効果を及ぼす「地域経済牽引事業」を実施する際、所定の手続を経ることで土地利用調整時に「適切な配慮」を行い、規制を緩和して産業用地開発の迅速化を促進しています。
そして、2024年7月に、経済産業省は「地域未来投資促進法を活用した土地利用調整の事例集」を公表しました。
代表的な事例として、2024年に熊本で稼働を開始したJASM(TSMCの日本子会社)の半導体工場があります。熊本県及び熊本市は、2024年に「半導体関連産業の集積に向けた産業用地整備方針」を策定し、周辺地域を半導体関連産業の集積推進エリアとして、民間活力を活用した官民連携による産業用地の整備を図っており、「地域未来投資促進法」を活用した関連企業の用地開発を推進しています。
その他にも、都道府県や市町村の基本計画で、特定産業の重点推進区域を設定し、土地利用調整計画及び事業者による地域経済牽引事業計画を策定したにもかかわらず、産業用地ストックが十分ではない、あるいは周辺に適地が確保できない場合に、「地域未来投資促進法」を活用して、これまで転用が難しかった農用地区域をやむを得ず転用して土地利用調整区域を設定した事例が、全国に多々見られます。

産業構造の変化と産業用地開発の変遷

日本で産業立地が国策として活発化したのは、高度経済成長期に入った1950年代からだといわれています。1962年には「全国総合開発計画」が策定され、太平洋ベルト地帯と呼ばれた臨海地域に産業用地インフラを集中的に開発し、重化学工業を立地させることで、高度経済成長を牽引しました。しかし一方で、大都市への人口の過密化と農山村部の過疎化による地域間格差の拡大や、工業地帯での公害など社会問題が発生、1970年代にはオイルショックにより重化学工業が大きな打撃を受けるなど、産業立地の過度な集中の解消、産業の分散配置が意識されるようになり、1972年には「工業再配置促進法」が策定され、臨海部から内陸地へと産業用地開発を分散させる動きがありました。
1980年代に入ると、産業の中心は、それまで経済成長を牽引してきた重化学工業などの重厚長大産業から、電気機械などの軽薄短小産業へと産業トレンドが移行し、さらに産業のグローバル化の進展に伴う国際競争の激化から、知識集約型産業拠点による国内新産業の育成が必要となりました。国も1982年に「テクノポリス法」を策定し、「産・学・住」が調和したまちづくりを目指して、国内に研究開発型産業立地拠点を分散する政策をとっています。
しかし、1990年代にはバブル経済が崩壊し国内経済が悪化、急速な円高も相まって、国内企業が生産拠点を海外へ移転し海外市場へ進出する動きが強まったことから、国内産業用地開発の低迷や空洞化が引き起こされ、現在まで続いています。経済産業省の資料によると、国内の産業用地のストック(分譲可能用地)は、2001年には約18,000haあったものが、2021年には10,588ha、2022年には10,096haへと減少し、過去30年で最小規模となっています。

産業界の大変動を地域再生の好機とする施策

国内外での産業界の大変動は、地域にとっては企業誘致による再生の好機ともいえます。しかし、日本国内で企業を受け入れる産業用地は不足しており、特に財政基盤の弱い地方においては、用地不足により産業立地の好機を逃してしまう恐れがあります。また、自治体等の工業団地開発には、農地転用などの手続きや調整、道路や工業用水道等の整備で、一般的に5年程度の時間がかかるため、開発期間が見通せないことで企業側から敬遠される傾向があるといわれています。そのような状況を打開する施策として、「地域未来投資促進法」は大いに有効であると思います。
「地域未来投資促進法」によって、都道府県/市町村が策定した「土地利用調整計画」に基づき、民間事業者や官民連携型事業者が作成した「地域経済牽引事業計画」が都道府県の承認を受けることで、産業用地への転用が原則認められない第一種農地の転用や市街化調整区域についても、一定の条件を満たせば、生産施設や物流施設、販売拠点などの建築を目的とした開発許可が可能となります。これにより、事業体(民間事業者やデベロッパー、自治体等)にとってタイムリーな用地の確保・整備が見込め、地域にとっては企業誘致の機会損失を低減化することができます。

「地域未来投資促進法」を活用した産業立地は、地域再生の好機であり、今後とも積極的な運用が期待されます。一方で、農業振興、環境保全の観点からは、農地の産業用地転用には慎重さも必要だと思います。今後も、地域産業の特性を勘案しつつ、世界情勢や産業構造の変化に対して、官民連携による柔軟かつ迅速な対応が求められます。

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