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コラム No.27-98

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 マニュアルの枠を超えて社会を変えていく株式会社スタディスト 代表取締役CEO 鈴木悟史 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2024/06/28

リーンオペレーションを実現する

秋葉:今後のスタディストさんのソリューションと会社の進化についてどのように考えていますか。

鈴木:今、リーンオペレーションというキーワードを事業の中心に据えています。リーンとは、筋肉質で均整がとれたオペレーションができている状態です。 今まではマニュアルの会社イコールTeachme Bizだったのですが、これからはリーンオペレーションを実現する会社がスタディストです。 リーンオペレーションとは、まず手順が標準化されている、それに則って人材の育成ができている、日々の業務に必要な情報を正しく届けている、手戻りが起きないようにする。そのような要素に対応するソフトウェアないし付帯するビジネスサービスをトータルにホールプロダクトとして提供します。リーンオペレーションにしないと日本が衰退するのは確実だと思いますし、人の大移動が起こるでしょう。 入り口はTeachme Bizで、手順の標準化から始まります。ただし、Teachme Bizを入れても手順の標準化ができないお客様も多くいらっしゃるので、業務アセスメントもやり始めました。お客様の中に入って、日々どのような業務をしているかひたすら付箋に書き出してリスト化します。それを集計、データ化して、どれだけ工数削減余地があるかというところでご支援をしてから、Teachme Bizにステップアップする。この流れが王道になりつつあります。

秋葉:私もいろいろな会社に出入りしていますが、そこは大きなポイントで非常に大事だと思います。業務プロセスの標準化の重要性を知っている人からすると、そうやって整理することにまったく違和感はありません。しかし、業務整理の仕方を知らない人たちもいます。それこそずっとやってきていることを真似しているだけで、そこに違和感を持っていないので、業務プロセスを整理しましょうと言ってもどう整理していいか分からない。

鈴木:義務教育に入ってないからでしょうね。「このような状況を整理して図式化せよ」「これらの業務でどこが楽になるか考えよ」など、構造化思考を鍛える授業がまだ日本には多くありません。漠然とした状況から構造化する術を教えていない。

秋葉:確かに学校では教えませんね。私もいろいろな会社に出入りし、物流関係の資格認定に関わり、学校でも教えていますが、そこで気づいたのが、独自で分析した論文をまともに書けない人が非常に多いということです。一般論的な論文であれば、ChatGPTにプロンプトを与えれば、彼らが書いている論文よりも圧倒的にきちんとした論文が出てきます。私が論文を読む時は一般論で書かれているか必ずチェックするので、それで弾いてしまいます。 また、自己分析をしたり事業計画を作ったりする時に、とりあえずSWOT分析やクロスSWOTを書いたりしますよね。それで議論しているのを見ていると、だんだん細かい話になっていってしまう。俯瞰して見るという習慣がないのです。 鈴木さんがリーンとおっしゃるような、脳も含めた筋肉の使い方がされていないことが極めて多いですね。

鈴木:義務教育を変えたほうがいいのかもしれません。教えていないからできなくて当たり前なのでしょうね。そのような人たちに業務アセスメントの分析はできません。それができないとTeachme Bizに落とし込むことはできないので、そこからやってもらうしかありません。やるとすごく盛り上がりますよ。「その仕事に意味はあるの?」など、一つひとつの仕事にどのような意味があるかを話し合います。 先日はスーパーの惣菜のハンバーグのこね方で、ボウルとバットどちらで混ぜるか議論しました。ボウルでこねたらバットに移動する一手間がかかりますが、バットの中で混ぜてバットに並べていけば工程が一つ省けます。今までは、そんな議論すらなかったのがバットに決着して、それをマニュアル化して、全店共通でやることになりました。いきなりソフトウェアを入れて、きれいに業務整理をしてマニュアルが作れたらいいのですが、できないですね。

秋葉:動画マニュアルを入れるだけであればその話までいきませんが、その前に業務整理という話があるからできることです。やはりこのプロセスが重要で、人間の能力を発揮する場なのでしょうね。

鈴木:その前段ができるかどうかがスタディストと他社製品との圧倒的な違いです。マニュアルを作りたいわけではなく、お客様の業務を効率化したい。ここがリーンオペレーションのスタートなので、ここでこけてしまったら何も始まりません。

秋葉:今の仕事の仕方を含めて変えていかなければジャンプは当然できません。効率化をするなり、仕事のやり方を変えるなりして賃金を上げるしかない。

鈴木:必要人員を3割減らせば分配が増えます。例えば、付加価値を生んでいない本部機能はばっさり切ったほうがいいですよね。

秋葉:本当の意味での生産性をどう上げるかを考えないと、賃金を上げられません。例えば、10人いることを前提にして賃金が幾らという議論をしますが、このプロセスを逆にして、働く人の賃金を幾らにするためにはどうしなければいけないのか。発想の転換も必要です。

大和ハウスグループとTeachme Bizロジパッケージを共同開発

秋葉:昨年、スタディストさんと大和ハウス工業、大和ハウスプロパティマネジメント(以下PM)、フレームワークスで、物流施設の管理業務向けマニュアルリスト「Teachme Bizロジパッケージ」を共同開発しました。このシステムは物流施設を中心とした施設管理業務におけるマニュアル項目を155に分けてリスト化したもので、導入企業はリストとテンプレートに沿って画像や文字を入れるだけで簡単にオリジナルのマニュアルを作成できます。これにより物流業界全体で抱える人手不足の解消などに貢献することを目指しています。 このTeachme Bizロジパッケージについて、大和ハウスグループ側の思いを少しお話ししたいと思います。大和ハウスグループの物流施設をリーシングして賃貸に入ってくれるお客様には、大口のお客様も多く、大和ハウスプロパティマネジメントの効率化をどうするかという観点と、サービスレベルをどうやって上げるかという観点は外せません。物流施設は立地が一番大きな要素ですが、一方で立ち上がった建物は紋切り型で、どこのデベロッパーでもほぼ同じです。そこに入る価値や入った人に対するサービスがしっかりしたものでないとテナントに満足していただけませんので、そのためのサービスを考えなければなりません。 当然その中にはいわゆる物流的なコンサルティングもありますが、そのほかにも、施設の使い方をPMが説明するのか、張り紙をしてやってもらうのかといったことをマニュアル化しておきます。あるいは入居した人が例えば資材を購入したい時、電気工事を頼みたい時に、PMを介さなければいけないのか、直接連絡をしていいのかといったこともマニュアル化しておきます。それに誰でもアクセスできる状態にしておくと、入居者さんにとってもメリットは非常に大きいですし、PMの負荷も下げることができて、作業生産性を上げられるのではないかという思いがありました。

鈴木:私たちからすると、物流の事業者は多くの労働人口を抱えているので、これから人が減っていけば、スポットワーカーを多く使うようになっていくと考えました。そうなると「教える」必要がありますし、教えるということはペインが強く発生するので、業界的には必要性も高まります。Teachme Bizは空き箱なので、中身を自分で作っていかなければいけません。何から作るか考えた時、最初からラインナップが入ったものを作れば、お客様もスタートダッシュできるのではないかと思い至りました。

秋葉:最初から目次を用意しておくわけですね。

鈴木:ただ私たちは物流の知識がないので、秋葉さんとお話をさせていただいて、「物流業界だったらこんなラインナップがあったらいいよ」という表紙をつけて、初めからから入った状態でお客様にお届けしました。この秋葉さんとの取り組みが先行事例になって、今は宿泊業界でも同じような共同開発をしています。付加価値を生むところに人員を回すために、本部機能をスリム化して、バックオフィスのプリセットを作ります。

秋葉:先ほど業務整理の話が出ましたけど、真っ白な紙に仕事を書き出してみると皆戸惑います。それより最初から良い悪いを言える対象、叩き台がほしいですよね。

鈴木:そこなんです。要するに叩き台がないのですよ。そこは他社もやっていません。先日、マニュアルの表紙画像だけほしいと言われてダウンロードを始めたのですが、すごく伸びています。

秋葉:物流の業務プロセスをピクトグラムで表しているオシャレな表紙ですよね。

鈴木:表紙の画像を探すのもお客様からすると面倒なので、探すということを減らしたかったのです。それで、表紙の画像によって業務を連想しやすいようにしました。マニュアルのラインナップとして、小売、物流、宿泊、バックオフィスとやってきて、次は飲食をやりたいと思っています。

秋葉:Teachme Bizを使えば、現場の人たちがアップデートをしていくから簡単ですよね。

鈴木:ただ、それを認めない会社も多いです。本部が作って現場は見るだけという。最近は初期教育のニーズも多いですね。人がどんどん辞めていくので、その都度初期の教育に張り付いて教えることができなくなっているのでしょう。

自社で実践する

秋葉:スタディストさんのタイの管理業務は全部マニュアル化されているというお話でした。

鈴木:誰か辞めても現場はオペレーションが回るようになっています。タイだけでなく、日本でももちろんほとんどの業務がマニュアル化されています。

秋葉:自分でプロセスを組み立てられるという権限があれば、仕事に創意工夫ができて、さらにモチベーションも上がりそうです。マニュアルを使った人から評価もされます。「おまえ、分かりやすいの作ったな」と言われるのか、「業務を分かってないなと」言われてしまうのか。

鈴木:私はスタディストのマニュアルを作るように言ったことがないのに、毎日20個ぐらい更新されていきます。すごいなと、私が思っています(笑)。マニュアルは今、管理部から営業部、情報システム系などあらゆる部署で合計6500件ほどあります。人事部では、内定した人に対して用意する書類を伝えるのにTeachme Bizを使います。入社書類の書き方も含めて全部が入っているので、Teachme Bizを見ながら書類を準備できて、聞くということがありません。知らない人には聞きづらいし、何度も聞くのもはばかれます。そこまで徹底するとその都度対応することが極端に減るので、日本の人事部はTeachme Bizを使い倒したほうがいいと思います。内定者がやることは決まっていますし、Teachme Bizで教えられたら、相手も丁寧に対応してもらったということになります。ビジュアルベースで分かりやすいし、絶対にそのほうがいいですよね。 スタディストには、何か分からないことがあったらまずはマニュアルを見るという習慣があります。まずTeachme Bizにいき、なかったら初めて聞きにいく。「人に聞く」という時間はそれでかなり減少します。そういうことの積み重ねで効率化されたら、賃金の上昇にもつなげることができます。

秋葉:最初のスタートは「ファイリングされたマニュアルは不毛だ」から始まって、気づいたら「世の中を変えて、労働賃金を上げるぞ」になっています。

鈴木:そこまで来ましたね。私は、日本で8000万人社会は可能だと思っています。ドイツは人口が約8000万人で国土も同じくらいです。でもGDPはドイツのほうが高い。よく聞くのは、無駄なことをしないらしいですね。

秋葉:それは合理的だと思うし、感覚的なところで判断していないということなのでしょうね。

鈴木:日本人は労働人口がいたから丁寧にやりすぎてしまったのでしょうね。

秋葉:おもてなしがサービスという言葉になって、サービスはただといった捉え方をされているのもいけないことだと思います。

鈴木:この前物流センターを紹介していただいて、検品後の不良品の山を見せてもらったのですが、なぜ不良品なのかまったく分かりませんでした。

秋葉:ある線を超えてしまっているのでしょうね。あとは100%を目指したがる。99%からの1%を詰めるのが大変なことってたくさんありますよね。それをやりたがるのです。経済合理性で見たら99%でよしとしたほうが絶対いいわけです。コストの掛かり方に対して生産性が上らないことはデータで分かっているのに、そこに時間と金を使いたがる。

鈴木:やっぱり教育を変えるべきです。100点を取るように教えられてきましたからね。

秋葉:例えば物流の検品で、間違えて出荷をするケースが年に2回ぐらいあるとします。その2回のために、毎日全量検品するようなことが起こったりするわけです。それはどのタイミングまでに分かればいいかの話です。仕入れから間違って入ってきて、個別に間違っていってしまうのはいけませんが、出る時には分かります。当たり前ですが、足りなければ足りないことが分かりますから。だったら企業間取引の中の話でしかありません。

鈴木:この間、不良率が高すぎて良品が足りなくなったので、今までの不良品を良しとするという話がありました。しかもそのお金は誰も払ってくれないそうです。「それはどういうことだろうか?」と思いました。それではビジネスにはならないと思いました。

秋葉:検品は基本しない。だけど、不良品が多いあなたの会社の商品は検品しないといけないから仕入れ額を下げてくれという発想が必要です。それこそ思考を変えないといけない。

鈴木:日本は人口が減るのですから、それに対応する方向に持っていかないといけません。もう一つあるとすると、外貨を稼ぐことです。弊社はタイで展開しているので、円安はすごくいいことです。バーツで稼いで日本に持ってくると増えますから。一時的なトレンドかもしれませんが、外貨を稼いだほうがいいと日本企業はもっと思った方がいいですね。

秋葉:為替は常にこういうことがあるわけですから、そこも意識するという話ですね。

鈴木:日本のマーケットが8000万人になってしまうのであれば、海外に進出していかなければなりません。日本は安定で海外が成長という企業が増えたらいいですね。

秋葉:外に行くためにも生産性を上げることが重要です。

鈴木:標準化して、単純にして、いつ人が入れ替わってもいいように武装するという意味でITは必須です。タイでは日本の比ではないくらい人が辞めています。この前ある製造業のお客様のところで、最近は辞めなくなって離職率が20%くらいに下がったという話を聞きました。普通だと年間で4割くらいが辞めるそうです。その2割が入れ替わっても大丈夫なようにTeachme Bizを入れました。海外に進出した企業に対して「入れ変わっても問題ない」というところに私たちは貢献したい。そうしないと外貨を稼げません。製造業はどんどん出ていますが、日本のサービス業でも外貨を稼ぐようになってほしいですね。それを意識してリーンオペレーションを実現していきたいと思います。

秋葉:リーンオペレーションは、これからのキーワードになりますね。今日はありがとうございました。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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