大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

メニュー
コラム No.27-93

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 社会課題の解決を使命に、T2が創業株式会社T2 代表取締役 CEO 森本成城 × 北海道三菱自動車販売株式会社 代表取締役社長 下村正樹 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2024/01/31

自動無人運転に向けて実証実験を開始

秋葉:本日は、株式会社T2の代表取締役に就任された森本さんと前社長の下村さん(現 北海道三菱自動車販売株式会社 代表取締役社長)にお越しいただいての鼎談となります。最初にT2がどのようなことをされているのか、ご紹介していただけますか。

森本:T2は、2022年8月に三井物産とプリファードネットワークスで創設した会社です。会社をつくるにあたり、プリファードネットワークスの技術と三井物産が持つビジネスの知見、ノウハウ、ネットワークを利用して、社会課題の解決に貢献できないかと考えました。その時、日本の社会課題として見えていたのが物流であり、プリファードネットワークスの技術を使うのであれば自動運転でした。自動運転には乗用車と商用車がありますが、乗用車に関しては、OEMさんを初めとして色々なプレーヤーが既に取り組まれておりますので、それなら商用車でいこうと考えました。こうして自動運転、しかも高速道路という限定領域の中での輸送サービス、自動運転車両の開発ができないかというところで始まりました。
当初は三井物産のデジタル総合戦略部という、DXを司っている全社横断的な部署で始まって、その後事業として進めるため、営業本部のモビリティ第1本部に移りました。

秋葉:DX系部門の企画的な話で始まって営業部門に移るとなると、事業として成立するのかといった話になると思うのですが、そこはスムースだったのでしょうか。

森本:いろいろな議論はもちろんありましたが、社内ではそれなりにPOCやコンセプトがうまく進んでいたので、スムースにいきました。自動運転を開発している会社の多くがシステムを提供しています。一方、ロジスティクス事業までやるのがT2の特色で、システム部隊だけではできません。三井物産には世界でロジスティクス事業をやってきた知見もあるので、営業本部で進めるかたちになりました。

秋葉:限定領域というのがポイントですね。20年後30年後はどうかという話はいったん置いて、限定領域でやるという決断は事業生産性という観点から見たのでしょうか。

森本:時間軸で見ました。限定領域を越えて一般道に入ると、開発工数がとてつもなく増えてしまいます。しかし社会課題は目の前です。2024年問題もそうで、2024年で終わらずにますます大変になっていくことが目に見えています。そのため、早目に解決策を提供するために絞りました。

秋葉:すでに実際に走らせていますよね。

森本:今はまだレベル2※ですが、2023年4月に東関東自動車道で実証実験を行い、茨城県の城里サーキットでもいろいろな走行試験をしています。今後はサービス区間である大阪東京間、詳しく言うと町田から豊田間の高速道路で、レベル2の実験をしていこうと計画しています。

図:【参考】自動運転のレベル分けについて

国土交通省資料より

秋葉:レベル2の実験をする目的は何なのでしょうか。

森本:道路の情報、車体の動き方や位置を正確に把握できるのか、今後はトンネルに入った時の位置がずれないか等を確認しています。東名高速道路の秦野中井から御殿場を抜けるところまでのカーブや上り下りは、OEMさんの車両開発でも実験も行われているところですので、その辺のデータをとって、より安全に走行できる車を開発していきたいと考えております。

秋葉:ありがとうございます。続いて下村さんの関係をご紹介いただけますか。

下村:今日はお招きいただきありがとうございます。9月末にT2の社長を退任して、森本社長にバトンタッチしたので、もう少し自由な立場でお話ができたらと思っています。今は慶応大学大学院メディアデザイン研究所のリサーチャーとして、社会課題を解決するには何が必要かという研究を進めています。そういった意味もあって、T2で実務をやったこと、もう少し離れた第三者的な、俯瞰的な見方で、どういったことを進めていけば物流の2024年問題など社会課題の解決につなげていけるのか、お話しさせていただければと思って参加しました。

秋葉:森本さん、実際にT2の社長就任の声が掛かった時はどんな気持ちでしたか。

森本:それまで三井物産で2輪や4輪の金融関係をやっていたので、あまり詳細は知らなかったというのが実際のところです。ロジスティクスにあまり目が向いておらず、触れる機会もあまりなかったので、自動運転は技術的に大変だろう、実現するだろうか、くらいのイメージしか持っていませんでした。2023年6月にT2と三菱地所さんが資本業務提携をして、7月末から8月初めに打診があった時にシリーズAラウンド(※)の話を知り、これはすごいと思いました。三井物産では、このような資金の集め方をして大々的に、しかも国益というところで真正面から挑戦して貢献しようとする事業があまりなかったので、そこからはプレッシャーに変わりました。プレッシャーと、あとはワクワク感です。T2を初めて訪問した時、下村さんや社員の方と話して、モチベーション高く盛り上がっていることを実感して、頑張ろうと思いました。

  • ※投資家が企業に対して投資(出資)をする段階のこと、エンジェル、シード、シリーズA、B、C…などがある

秋葉:実際に社長に就任されて2カ月ということですが、いかがですか。

森本:社内、業界、官公庁も含めて、いろいろな方々と実際に話すと、自分が調べていた以上にさらに考えられていて、かつ皆さん真剣です。ステークホルダーが実に多い事業で、通信もあれば、拠点もあれば、ロジスティクスもあれば、ドライバー管理では厚生労働関係もあって非常に広範囲です。株主、官公庁、専門家等、いろいろな方の意見に耳を傾けて、協力とサポートを得られなければ成し得ない事業だと思いました。その辺の関係づくりを意識してやっています。

秋葉:難しい仕事ですが、その分、楽しさもありそうです。

森本:楽しいですね。新しいものを作るところなので、自分の中で描けます。しかも1人でやるのではなく、パートナーと一緒に変えていくというチーム感が楽しいですね。

秋葉:T2が真ん中にいて、さらにそのど真ん中に森本社長がいて動いてくれると、余計に皆が集まってくる気がします。そこに課題感を持っている人たちが大勢いるので、どんどん動き回って、走り回ってほしいですね。T2という会社も、森本社長のことも知っている人がもっと増えれば、さらに協力者が増えてくると思います。

下村:なぜ森本社長だったのか。その答えは簡単です。社長を交代する時、後任として誰が考えられるのかを聞かれて、人から愛される人が必要と答えました。先ほど森本さんが言ったように、とにかくステークホルダーが多いので、その人たちから協力を得られないと、どんなに頭が良くても、どんなに総合商社という器で仕事ができても、すべてを壊してしまいます。人から愛されて、この仕事に熱意を持って、ビジョンを語って、仲間を募ってくれる人間でないとだめなのです。森本さんはそれにぴったりの人でした。年齢的にも今45歳なので、あと5年ぐらいかけて走り切ってもらいたいですね。

秋葉:下村さんはどのような経緯で社長になったのですか。

下村:運送会社経営の経験が大きかったと思います。さらに外部からの資金調達という重要な仕事があったことも、理由の一つです。商社は自分のお金で事業投資をすることは多いのですが、Early Stageで他社資本を集めることは多くありません。しかし私の仕事はM&Aと事業会社経営が中心だったので、資金調達の知識も持っていました。運送会社経営と資金調達という2つの要素を掛け合わせた人材がたまたま1人しかいなかったのだと思います。

秋葉:下村さんは、社長に就任した時はどのような気持ちでしたか。

下村:正直、勘弁してほしいなと思いました。最初はまるで自動運転がすべてを解決するような絵を描いましたが、物流の現場を知っていれば、それはあり得ないことです。一般道を自動運転車両が安全を担保して輸送実務を行うことは現時点ではほぼ不可能なのに、社内の議論ではさもできるような話がされていて、今のような限定領域、限定条件の下でしか自動運転は成り立たないということが整理されていませんでした。私は少なくとも物流が理解できているので、それは無理だと説得して、きちんとした絵に戻さなければなりませんでした。

秋葉:やり始めたら面白かったですか。

下村:課題が山積していて、眠れないぐらいのプレッシャーでした。法律を含めて、変わっていかないと自動運転輸送サービスが実現しないことが目に見えているわけです。一民間企業としてやれることは全部やって、最後にその壁を必ず超えなければいけないし、そのためには国も含めて変わってもらわないといけない。制度や人の考え方を変えるのは本当に難しいことです。それをやり遂げられるのかというプレッシャーから、ふと夜中に目が覚めて悩むこともありました。

秋葉:法律の壁や既得権の壁もあります。新しい事業を立ち上げるとなると、省庁のいろいろなところが絡んできます。その中で変えてもらわなければいけないことがたくさんあると思いますが、霞が関の各省庁は比較的理解を示して、変えていこうとしていますか。

森本:そうですね。デジタルライフライン全国総合整備計画(デジ全総)というものが出されて、それを元に経産省、デジタル庁、国土交通省も含めて、皆で協調してやっていきましょうという感じで、非常に協力的です。着任してからほぼ毎月各省庁と話をしていますし、警察庁、総務省、厚生労働省、法務省とも関係しているので、しっかりコミュニケーションを取ってやっていきたいと思っています。そういった話は現場でも盛り上がっていますね。

秋葉:それは事業としての話でしょうか。レベル2の今はそれほどでもないかもしれませんが、レベル4になるまでに変えてもらわなければいけないことがたくさんあるかと思います。そこは時間軸として合っているのでしょうか。

森本:時間軸として合っているかどうかはわかりませんが、例えば自動運転支援道のワーキンググループがデジ全総の下にあって、そこにもT2の事業開発の部門長がメンバーとして入っていますし、技術面でも技術開発部門長が入っています。民間事業のほうから適切に、時間軸も含めて意見を言っていくということは、引き続きやっていきたいと思っています。

半歩先を行って、今あるものを最大限に使いながら変えるものを変えていけばいい

秋葉:ここ数カ月、2024年問題について「どうしたらいいですか」という話をよく聞きます。業界的には数年前から言われてきましたが、ようやくここにきて2024年問題とその影響について取り上げられるようになりました。ただ、マスコミの取り上げ方が少し偏っているのか、自宅に物が届かなくことだけをイメージしている人が多いようです。しかし、宅配の物量は全体の3%くらいです。宅配の課題も直結しますが、それ以外のBtoBで動かしているところの影響が大きいということがなかなか伝わっていません。

森本:運ぶためにさらにコストをかけて、それが最終価格に反映されますからね。

秋葉:運べないということは、当然原材料も運べないわけです。そもそも製品になる前のものもつくれないということがなかなか理解されにくいようです。そういう意味でもT2、森本社長に走ってもらって、誰もがそれに気づいてほしいですね。
物流業界全体からしても、T2の取り組みはウェルカムなのですよね。

森本:全員がウェルカムかと言われれば、どうか分かりませんが、運送会社さんにCVC経由で出資していただいていますし、大和物流さんや三井倉庫ロジスティクスさんもそうです。やはり餅は餅屋です。三井物産とプリファードネットワークスさんが集まってもやり切れないところはあると思うので、3年前から運送会社さんとMOU(基本合意書)を結んで、どのような環境、オペレーションで走らせるのかといった検討はしています。支援していただいている業界の方がたくさんいるというのが答えになります。

秋葉:今の延長線上に答えがないことは皆さん前から分かっていて、それが目の前に来てしまっているのが現実だと思います。そこは期待感あるのでしょうね。

下村:おっしゃるとおりで今の延長線上に未来はないのですが、今の延長上に解を求めようとする人たちがいることも事実です。半歩先を行って、今あるものを最大限に使いながら変えるものを変えていけばいいのに、どちらか一方を選択する発想になってしまう。それがすごくもどかしいですね。例えば、スワップボディ(車体と荷台部分が脱着できるトラック)を使おうとしたら、既存の倉庫の導線では使えません。何かを変えるしか方法がないのに、何とかできないだろうかと、持っているものを守りたがる人がたくさんいます。けっきょく既得権益と一緒です。

秋葉:ある日ガラッと変わるという話では当然ないので、それこそイノベーターのような人たちが中で変えていくしかないと思います。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

コラム一覧はこちら

メルマガ
会員登録

注目
ランキング

注目ランキング