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コラム No.27-56

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 日本版フィジカルインターネット株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × 明治大学 グローバル・ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆

公開日:2020/12/25

橋本:海外のフィジカルインターネットの研究で、必ず出てくるケースが鉄道の利用です。日本でもマルチモーダルとの接続をもう一度考え直してもいいと思います。そういった意味で、RORO船(貨物を積んだトラックやトレーラーを輸送する貨物船)があります。

秋葉:内航船は私もまさに今取り組んでいるところです。日本はこんなに海に囲まれているのに、それを活用できていないのはもったいないですよね。日本国内の輸送というと鉄道もありますが、どうしても大半の人は、物流のイメージはトラック輸送です。

橋本:コンテナ輸送がこれだけ発達したのは、シーランド(海上輸送と陸上輸送のマルチモーダル輸送システム)やエア(航空貨物輸送システム)との関係といった、マルチモーダルの枠組みの中にコンテナの仕組みが入って、世界的に雑貨の貿易ができる状態になったことが大きいわけです。マルチのインフラをどう使うかは、フィジカルインターネットの取り組みでも当然世界的に考えられており、日本でもそれを組み入れた発想が必要になると思います。

秋葉:トラックの隊列走行が技術的にほぼ確立されましたが、ビジネスの世界で事業化するという点ではどうなのでしょうか。自動運転になる、ならないは置いておくとして、隊列走行でメリットを出すためには、シェアリングされて積載効率が上がっていることが一つのポイントだと思います。隊列走行は4車両の隊列ができるところまで技術が確立できたそうです。私はそれを聞いて、「事業化するときには定時運航にしてほしい」と言いました。「1両から4両までを計画的で、あとはアジャストしながら、ダイナミックに変えられる定時運航にしたら、おそらく多くの人が荷物を乗せようと考えるでしょう。しかし、荷物が揃ったら動くという発想では、乗せようと思わないのではないか」という話をしました。

橋本:そこはまさに重要なところです。例えば、幹線を隊列走行したとして、上りと下りでバランスを取れるでしょうか。おっしゃったような定時運行ができるということは、相当な貨物量が出ていないといけない話です。そのためには、当該幹線輸送を利用する荷主を集めないといけませんが、定時運行ができないと荷主が集まらない。どちらが先か、ニワトリと卵の話になります。そこで、幹線輸送需要とエリア物流の貨物需要を組み合わせることが必要ではないでしょうか。今はだいたい150キロから200キロの間で中継地リレー輸送の取り組みが試行されています。中継にはサービスエリア(SA)等も使いますが、私は、その周辺の貨物も集荷してきて、乗せて当該SAや他の地域の市場で売るとよいと思っています。そういった工夫も相当な頻度でダイヤを組んだ定時運行を実現するためには必要ではないかと考えているのです。貨物を集めてくるところの工夫、あるいはそういったものを中継地から周辺のマーケットに販売するようなビジネスの仕組みを合わせていかないといけません。そのためには、あまりロットが集まらないような貨物も集荷できるように、ボックスに入れて、それこそ農産物から冷凍冷蔵商品まで、モジュール化して組み合わせていくと荷量が出るのではないかと思っています。貨物需要の発生の仕組みを合わせてやらないといけません。そこで混載の仕組みも作らないといけない。要するに、中間輸送の端末と幹線、両方をシナリオ化しなければならないのです。

秋葉:車だけ投資して用意しても、どうするのかという話ですよね。僕は、中継ポイントでドライバーも当然変わっていいと思っています。

橋本:地域の産業をどうするのかというところと結びついて、それを実現するための技術に何が必要なのかという議論に逆に落とし込んでいく必要があります。道具や技術、手段はいろいろあります、こんなシステムもあります、今はそういった議論が多いですよね。あれもできます、これもできます、人が足りないからロボット化とか、IoTの話があったり、隊列走行の話があったりするわけです。それぞれ道具としては有効です。「それを全部組み合わせて、出来上がった姿はどうなるのか?」を考えなければなりません。前に申し上げた通り、投資採算がどうすればとれるのかといった視点も重要でしょう。
かなり広い目で俯瞰してものを見て、日本の今の産業の課題は何なのか、地方と都市の問題、人口減少の問題はどうなのかといったことをまず先に考える。まずビジョンを考えて、それから仕組みのほうに落とし込む。それを実現するために、隊列走行、ロボット化、あるいは情報システム化をどのように使うかという実現可能なプランに落とし込んでいく、ということが大事だと思うのです。

日本版フィジカルインターネット

秋葉:世の中のニーズや困りごとと現実のギャップが広がったからこそ、そこをなんとかしようと、いろいろなテクノロジーが出てきました。個別で見ると、それはあるレベルにきたと思います。先ほどの隊列走行も、既存の技術にはなくて新たに開発したものは1個か2個しかないそうです。ほとんど既存の技術の組み合わせでできています。しかし、技術をどうやってインテグレートして一つのかたちにするかが重要です。当然ですが、それが事業にならないと誰もやりません。そのとき無駄な方向に向かないように、力をきちんと集めていきましょう、というタイミングがまさに今なのだと思います。だからこそフィジカルインターネットの考え方、概念が、すごく重要だと感じています。

橋本:そういう意味では、私は、日本的なフィジカルインターネットのアプローチというものがあってしかるべきだと思います。具体的な例でいうと、前にご紹介したTCを共有化したスーパーは、現場レベルでの困りごとを何とかしようとする試みから始まりました。もともとはドライバーの荷崩れ防止の取り組みから出発して、そこからだんだんと、センターのスペースをもう少し有効に使いましょう、入庫出庫の時間帯を組み換えていきましょう、トラックの回し方を変えましょうなど、現場の問題を解決していく中で実力を高め、次第にサプライチェーンの課題に取り組むようになっていきました。

秋葉:経営陣の方もロジスティクスの重要さに気づいて投資されたのでしょうね。

橋本:小売が変わると、卸やメーカーもそれに合わせようとしていきます。

秋葉:メーカーサイドから入るとプッシュ型にしかなりませんが、消費者に近いところからいくとプル側になりますから、そちらの影響のほうが明らかに大きいですよね。

橋本:今、特売をやっても大して儲かっていないということが数値化され、可視化されてあらためて気が付き始めました。ライバル店対抗の集客目的だけで行われたチラシ特売は需要変動の波をいたずらに起こしているだけという場合が少なくありません。

秋葉:前からわかっていたけど、恐くて止められなかったんですよね。

橋本:そうなんです。そこで経営者が割り切ればロジスティクス業務が平準化していきます。 日本的というのは、現場から一つ課題に取り組み、そこにデータの裏付けを付けて企業組織としての合意を形成していくもので、少し時間はかかりますが着実な方法といえます。それと「本来あるべき構造はこうだ」という議論を合わせてゆけばよりよいと思うのです。

秋葉:現場はどんどん工夫しますからね。

橋本:私は、日本における具体的な課題をまず整理して、あるべき方向というものを描いて、それに世界的なフィジカルインターネット・コンセプトをどうしたらうまく組み合わせることができるのか議論を積み重ねていって、工夫やアイディアを集結し、実際の行動計画を立てていくのがいいと思っています。

秋葉:日本版フィジカルインターネットですね。先生がおっしゃるように、きちんと議論をして、日本はこうやるんだと、世界に向けて言ってしまったほうがいいですよね。そのほうが日本国内もその方向に向いていくことができます。

橋本:クール便のISO取得もオールジャパンのチームで進展しました。特にアジアに対しては、そういった発信が大事です。

秋葉:アジアは日本が何をするのかを見ています。

橋本:日本のスタンダードを戦略的にアジアやインドに普及させる努力も必要でしょう。

秋葉:どこにどういうものがあったほうが、価値が上がるのか、先生や私たちが考えていかければいけませんよね。

橋本:フィジカルインターネット的な発想で考えると、当然、生産や物流の拠点の立地条件も変わってきます。そういったこともトータルでデザインしていかなければなりません。非常に領域が広いので、いずれにしても戦略的なアプローチが必要です。

秋葉:少し前に、今時点と将来での65歳以上の人口割合についてのニュースがありました。消費人口は全体として少し減るもののそれほどではありません。ところが、労働人口はそれよりも圧倒的に早いスピードで減っていきます。日本版フィジカルインターネットが日本できちんとできたとするならば、東南アジアでもすでに人口減少が始まっている国もありますし、そういったところに対して日本ができることがあると思います。

橋本:グローバル標準戦略の面で見ますと、GS1(流通コードの管理および流通標準に関する国際機関)やEPC(GS1標準の識別コードの総称)の問題もあります。日本は流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)でやっていますが、これは日本だけの話です。DXの推進が課題になっていますが、ビジネスは国境で切れているわけではないので、やはり今後は世界の商取引の常識を取り入れていかなければなりません。ただ、クール便のISO標準化のように、日本の良さもたくさんあります。日本の良さをうまく発信して、その仕組みをアジアで展開して仲間を作る。そこにも戦略性が必要です。今、中国がすごい勢いで国際標準の取得に傾注していて、ここはまさに国を挙げて戦略的にやっています。

秋葉:今は日本でしかやっていないようなことでも、ある程度グローバルスタンダードに近づけられることもありますよね。東南アジアの国々は島が多く、国土が縦長の国もあることを考えると、日本が苦労したことが生かせる場がたくさんあると思います。

橋本:ロジスティクスのワンパッケージのようなものを作って、SDGsに資するようなエネルギーや情報のシステムを輸出していく。そういったグローバルな戦略もありますよね。日本の問題はレガシーのシステムが多すぎることです。そこをどうするか問題になりますが、途上国の場合、電話網がないところにいきなり携帯が入るのと同じように、何もないところからいきなりジャンプします。

秋葉:ないからこそ一気にいくわけですよね。

秋葉:フィジカルインターネットを日本の中に作っていこうと考えたとき、食品のためのフィジカルインターネット網があったり、アパレル雑貨のための網があったりすると思います。そのとき、一つのグループが網を作っていれば大丈夫かというと、おそらくそうではない。いくつかのチームが、競い合いも含め、取り扱いが違う中で網を作ることによって、本当の意味での網羅性ができるし、何か起こったときにも対応できる。網が重なることによってできる、というイメージを私は持っています。

橋本:その共通基盤は何かという議論が必要ですよね。無論、業種によって物流は異なる面が非常に大きい。しかし、例えばドライバー不足に対応するために、自動車業界は自動車業界でパレットの標準化や共有化を考える、食品は食品で考える、ということが進んだとします。必ずしもフィジカルインターネット的な発想でやっているわけではないので、早いうちに戦略的なシナリオを作っておかないと、バラバラにいろいろなことが始まって、あちこちで部分最適化が起きて、シームレスなネットワークではなく、結局、ジャングル状態になってしまいます。そこは、国レベルでイニシアチブを取って、業際の議論をしていただきたいと思っています。

ロジスティクスはダイナミックに変化する

秋葉:先ほど予測より計画だという話がありましたが、フィジカルインターネット網に乗せるものをいかに計画的に流していくか、という話ですよね。特にオムニチャネルについては、消費者からするとまったく無意識に利用しているのが現状だと思います。例えば、秋葉がこれを買うときにはインターネットで買う、ということではなく、ネットで買うときもあるし、お店で買うときもあります。どのようにエリアを切るかという話は別にして、エリア内で生活している人たちが1週間で消費するもの、1ヶ月で消費するもの、1年で消費するものはほぼ決まっているわけです。そのエリアに対しては計画的に供給をしていって、最後が「お店に届けますか」「個人の家に届けますか」ということでしかないですよね。エリアを切ったとしても、隣のエリア同士アジャストすることによって補正がかかれば、計画誤差については、隣り合うエリアの中ですべて解決していくだろうと思います。

橋本:私は、フィジカルインターネットというのは前にも述べましたが、結局、ネットワークのパイプライン在庫制御だと思っています。動態的な在庫管理になるので、途中まで運んで需要の状況によって変えるといったダイナミック制御が可能になります。それによって在庫の配置も分散化し、エリア在庫が共有される方向になっていくと考えられます。ただし、これは正確にモノと情報が紐付けされていないと動きませんし。消費者に対しても、「今ここに商品がありますけどどうしますか」という選択をしてもらうことが大事です。

秋葉:「本当に今必要ですか?」と。「2日後に来るなら別にいい」ということも出てくると思います。

橋本:それによってプライシングが変わってもかまわないわけです。

秋葉:例えば、セールをするとき、決済は今だけど、モノも今でなくてはいけないのか疑問なのです。今欲しいから買っているわけではなくて、今安いから買っている人たちがいくらでもいるわけです。今はそれが一体で、決済されたら一生懸命売っているので、そのときだけ物流のトランザクションが跳ね上がるという事態が起きます。そこが選択できたらだいぶ違うのではないでしょうか。

橋本:状況による選択可能性の拡大という意味では、働き方まで変わるかもしれませんね。法制度の問題があって今はできませんが、給料のデジタル支払いという話があります。働き手としても、自分の時間で仕事をして、そこがきちんと紐付けされて、その分がウォレットに入る、ということができるようになります。決済がデジタル化されると、先ほど運賃の即時決済の話をしましたが、売掛・買掛というようなことが次第になくなっていき、リアルタイム決済になっていきます。お金の流れはものすごいスピードで変わっていくので、おそらくビジネスのサイクルも変わってくるでしょう。秋葉さんがおっしゃるように、実際にものが必要なのは今なのか1週間後なのか、それは選択の問題になります。今すぐ持ってきてほしい場合には、その分のコストを払えばいいわけです。

秋葉:そのサービスに対してフィーを払うという話ですよね。

橋本:そこまで議論されて初めてオムニチャネルの話ができるわけで、単に店舗から届けましょうというだけの話ではありません。その辺がなかなか理解されないですよね。

秋葉:印刷会社がオンラインで受け付けて、納期によって値段を変えるという仕組みも生まれています。今までなかったことです。すべて同じ価格で、できるだけ頑張って短納期で頑張りますという世界でしたから。

橋本:私は、それが運送でも起きてくると思っています。マッチングで「今これだけのスペースがあるけど、このスペースを使って何か運ばない?」という話が出たとき、ダイナミックにもののキャパシティーの取引ができるようになると、それを利用した店づくりやビジネスができるようになって、そうなれば資源がうまく使えるようになるのではないでしょうか。ロジスティクスというのはビジネスと一体化しているので、ロジスティクス資源を有効に使うというビジネスのセンスをより多くの経営者が持てば、相当変わると思います。

秋葉:今、大きな変換点に来ていますよね。網を作るとき、どういう利用の仕方にするかは別として、建物がないと始まらないのは事実です。そこで仕分けるのか、積み替えるのか、ドライバーが変わるのか。いろいろあると思いますが、「網の結束点」としての拠点なのだと考えています。

橋本:おっしゃるとおりです。私は、DC(ディストリビューションセンター)が共同TC(トランスファーセンター)化するのがフィジカルインターネットだと思っています。そこを柔軟に積み替えながら動かせば、ネットワーク全体の中での拠点と在庫の位置づけが変わっていきます。ライフサイクルで見ても、時代や社会の環境変化に応じて、使い方を柔軟に変えられるような仕組みになっていないといけません。そこでやはりシェアリングの方向になります。物流センターの自動化についても、保管は所有権の問題があるので、それぞれの区分保管でも当面はよいとして、出荷作業のところは共有でまったく問題ないわけです。

秋葉:全然問題ありませんね。通った分だけお金を払ってもらう。そこは通行料をもらうような話ですから。

橋本:そう考えたほうがいいですよね。そのあたりのビジョンをどこかで示していくことが必要です。 ビジョンがあって初めて具体論が出てくるのに、先に具体論が出てきてしまう。目的と手法がひっくり返ってしまうのはよくあることですが。どこでビジョンを考えたらいいのか難しいところですよね。

秋葉:技術的には進んできたからこそ、いろいろな組み合わせが起こり得ますし、それがあちこちにいってしまう可能性もあります。この1~2年でそういったことが起きるのではないかと思っています。もしかしたら、あちこちにいってしまう一つに私たちがなってしまうかもしれません。気づいたら真ん中にいなかったという話も起こりうると思っています。

橋本:そういうことにならないように考えなければいけないところです。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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