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コラム No.27-11

サプライチェーン

秋葉淳一の「CREはサプライチェーンだ!」 Vol.4 「新たなインテリア雑貨産業」を構築したニトリホールディングス

公開日:2017/04/01

ニトリとは

ニトリは北海道札幌市に本社を置く、インテリア(家具)業界の大手企業である。
創業から一代で大手インテリア企業に登りつめ、ホールディングス全体では2016年2月の決算で売上高:4,581億円、経常利益750億円。そして、29期連続での増収増益を達成している。
2016年11月時点で、全国418店舗、海外41店舗(台湾26店舗、米国5店舗、中国10店舗)の展開を実施しており、「2022年1000店舗、2032年3000店舗の実現」というビジョンに向け、出店が加速している。
「お、ねだん以上。ニトリ」というフレーズを聞いたことのある方(耳に残っている方)は非常に多くいるだろう。『多くのお客様に商品の[品質・機能・安さ]に感動していただけるように』と、『事業で必要なことはなんでも、自分たちでやる』ということ徹底してきた結果、「製造物流小売業」という新たなジャンルの企業へと成長してきた。
ニトリは販売価格から原価を求め、それに見合う原材料を探すプロセスを取っている。人材育成のための研修にも力を注いでおり、上場企業における教育費用の平均に比べ、4.5倍以上をかけている。日本におけるインテリア(家具)産業においては、製造・卸・小売、それぞれの中で競争優位を構築した企業はあるが、ニトリのように商品の企画・製造・物流・販売まで行う「製造物流小売企業」という事業モデルは特異である。

1972年に現ニトリホールディングス会長の似鳥昭雄氏が米国を視察した際に、一般大衆の“日常の暮らし”を支えている数多くのチェーンストアの存在を目の当たりにし、「日本人の住まいを、アメリカのように豊かなものにしたい」「いつかそのような店をつくりたい」「豊かな日常に貢献できる会社でありたい」と考え、1973年にはメーカーからの直接仕入に転換した。
1988年からは海外直輸入を開始したが、品質面での問題から、社員自ら商品を直すこともあり、多くのコストをかけることにはなったが、この経験が後に「必要なことは自分たちでやる」ということに繋がったという。
1997年にインドネシアで家具の自社生産を開始して、いよいよ製造小売への第1歩を踏み出した。
リーマンショックの前後においては、2008年5月からの1年間で1,300品目について4回の値下げ、2009年には人気商品400品目を15%~40%値下げしている。
2010年にはグループの物流機能を担う株式会社ホームロジスティクスを設立している。
ここで、「製造物流小売企業」が完成した。
我々消費者は、ニトリの出現によって、家具をファッション雑貨のように、気軽に買い換えられるものになったのだ。。

ニトリで実際に購入してみた

私事で恐縮だが、1年ほど前に息子が下宿をすることになり、私は以前から注目していたニトリで雑貨や家具を購入することにした。間違いなく職業病からくる興味である。雑貨は店舗で、家具はネットから購入することを決めて実行した。
店舗での購入では、品揃え、特にオリジナル商品の豊富さと値段の安さに驚いた。「これでは、同業他社は厳しいだろう」これが私の率直な感想だった。同業他社は、基本的に商品を仕入れて販売し、物流を委託しており、その実情を知っている私からすれば、自分たちでこれらをコントロールしているニトリの「現場」を見た結果として、それ以外に浮かぶ言葉が無かったのだ。自宅からも下宿先からも程よい距離に店舗があることも消費者にとっては有難い。ドミナント出店している企業の優位性を再認識した。
では、ネットで家具を購入した時はどうだったか。一般的にネットで家具を購入する場合にストレスを感じる可能性のあるプロセスは大きく2つ。1つ目は、商品の選択から購入までのプロセス、2つ目は、納入されてくる日時の精度である。また、家具は宅配されてきて自ら組立てる物、専門の配送便、設置を伴う配送便の3つがある。
1つ目の商品の選択と購入までのプロセスでは、かなりのストレスを感じてしまった。家具という物の選択においては、色はもちろん、サイズ、あるいはサイズ感が非常に重要である。色は、カラフルなものを除いたベーシックな物は数種類からの選択であり、下宿先の壁紙、床材とその色との組合せで考えれば、それほどストレスを感じずに選択することが可能だったが、サイズ感には悩まされた。置けるか置けないかだけであれば、単にサイズの話でしかないが、サイズ感は、部屋に置いた時の感じだからだ。商品情報と画像だけで、それをイメージすることは想定していたよりも悩ましい作業であった。それでも、この辺りのストレスは「改善の余地があるよなぁ」というレベルだった。最大のストレスはここからだった。
購入する商品が決まり、「さて、あとは決済するだけ」ではないのだ。納品日がバラバラだったのだ。配送方法は前に記述した3種類であるが、納品日の違いを合わせると6回に分かれて納品されてくる。今回は、追加や買換えでの家具購入ではない。下宿先という新しい生活の場で必要な物の購入なのだ。優先順位は、(1)何月何日以降で何月何日までに納品して欲しい(2)出来れば1日で全てを受取りたい。たしかに、価格や色・サイズも大事だが、この(1)(2)は外せない。よって、ここで商品選択からやり直しである。結局、納入日は3日に分かれてしまい、最後の1日は、希望の納入期間に入らなかった。顧客にとっての重要な利便性に「必要なタイミングで」がある。「はやさ」ではなく「タイミング」だ。この点においては、まだニトリに頑張ってもらえる余地があった。もちろん、価格が最重要、色・サイズ・デザインが優先というユーザがいるし、私自身も購入のシーンが違っていれば、タイミングに拘らないケースもある。
しかし、こんなストレスを忘れるようなこともあった。設置を伴う配送でのホームロジスティクスの方々の動きである。納入時間確認の電話から設置納品完了までの動きに全く無駄が無い。養生、搬入、設置、清掃、品質確認、礼儀まで素晴らしいものだった。これも職業病だが、細かく観察してしまった。

ニトリにとっての物流の位置づけ

北海道から「製造物流小売企業」として、ドミナント展開しながら南下し、大成功を納めているニトリだが、オムニチャネルという奥の深い取組みに対しては、まだ改善の余地はあるが、そのなかで大きな要素を占める物流では、最近ではニュースに取り上げられるような動きを活発に行っている。以下では、そこにスポットを当ててみる。

図-1は、ニトリのホームページにあるニトリ読本のページである。第3章に物流改革とある。商品開発の次、店舗運営の前に位置づけられている。ロジスティクス、物流に関る人間としては嬉しい限りである。

(図—1)ニトリ読本(ニトリホームページより)

また、2016年度の決算報告資料の物流戦略の項目を見ると大型の3センター稼働について書かれている(図-2)2017年稼働予定の神戸物流センター(敷地面積:約32,000平米)、2018年稼働予定は、幸手物流センター(敷地面積:約106,000平米)、名古屋物流センター(敷地面積:約57,000平米)である。

(図—2)物流戦略(ニトリ2016年度の決算報告資料より)

さらに、2016年3月には、積み木型ロボットの「オートストア」を東扇島の通販配送センターで稼働させている(図-3)。「オートストア」は従来の自動倉庫と比べて高密度での保管を実現出来ること、入荷出荷の優先をコントロールする必要がないこと、出荷頻度の高い商品、低い商品の棚の入換え(ロケーション移動)を別プロセスで実施する必要がないことなどメリットが多くあり、従来の作業方法に比べて3から4倍の効率アップがなされている。

(図—3)オートストアイメージ(岡村製作所提供)

また、2017年1月にはGROUND社が国内で販売しているインド、GreyOrange社の「Butler」(図-4)(可動式棚搬送ロボット)を80台導入すると発表した。「Butler」は、Amazonで導入されているKIVAシステムと同様に、可動式の棚を搬送するロボットだが、優れているのはアルゴリズムで、入ってくるオーダーを常に見ており、ある商品が売れてくると認識すれば自動で手前に棚を搬送して、出荷時間を最短化することでスループットを向上させる。また、ピッキング後に可動式棚を元の場所に戻すのではなく、商品の回転率を見て保管場所を決定する。

(図—4)Butler(GROUND社提供)

私たちフレームワークスはGROUNDと資本業務提携をしており、我々が考えている次世代物流センターの一端が、このニトリの取組みにより、世の中に知られることになったのは喜ばしいことだと思っている。

ニトリの課題と今後

前述したように、オムニチャネルへの取組みの深堀も一つの課題であるが、店舗数がさらに増えて、ネット通販での売上も延びれば、総物量、物流トランザクションは比例して増える。これを如何にコントロールするかが大きな課題である。海外にも出店しているニトリにおいては、これをグローバルで実施しなければならない。また、取扱商品が家具からインテリア雑貨までと、形状が多岐にわたることも考慮すべき大きな項目である。そして、人手不足への対応も急務である。たしかに、大型の物流センターとロボットにより、その一部は解決されるが、それだけでは十分ではない。まだまだロボットが人間の作業の全てに代わることが出来ないのが現実であり、人間とロボットの共存する倉庫内オペレーションの構築が重要である。まだ実現されたことの無いオペレーション構築である。

人手不足は倉庫内だけではない。ヤマトのニュースでも問題になっているが、配送に関るドライバー不足にも手を打っていく必要がある。私が納品して頂いた方々のようなドライバーを確保し続けるためにも。

ロジスティクス目線だけで見ても課題はあるが、『多くのお客様に商品の[品質・機能・安さ]に感動していただけるように』そのために『事業で必要なことはなんでも、自分たちでやる』として、実行し、成長してきたニトリの今後に期待している。
そして、出来れば私もこの課題解決を一緒に実行したいとも思う。

トークセッション ゲスト:学習院大学 経済学部経営学科教授 河合亜矢子

トークセッション ゲスト:セイノーホールディングス株式会社 執行役員 河合秀治

トークセッション ゲスト:SBロジスティクス株式会社 COO 安高真之

トークセッション ゲスト:大和ハウス工業株式会社 取締役常務執行役員 建築事業本部長 浦川竜哉

トークセッション ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎

トークセッション ゲスト:明治大学 グローバル・ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆

トークセッション ゲスト:株式会社 日立物流 執行役専務 佐藤清輝

トークセッション ゲスト:流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野裕児

トークセッション ゲスト:アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸

トークセッション ゲスト:MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征

トークセッション ゲスト:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介

トークセッション ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志

トークセッション ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和

スペシャルトーク ゲスト:株式会社ママスクエア代表取締役 藤代 聡

スペシャルトーク ゲスト:株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰

秋葉淳一のロジスティックコラム

トークセッション:「お客様のビジネスを成功させるロジスティクスプラットフォーム」
ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和

トークセッション:「物流イノベーション、今がそのとき」
ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役 佐々木 太郎氏

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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