サプライチェーン
秋葉淳一のスペシャルトーク お互いのビジネスが「シェアリング」というコンセプトで結びついたフレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × 株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰
公開日:2018/06/29
日本で初めての、普段着のレンタルサービスを立ち上げる
秋葉:「airCloset(エアークローゼット)」という、普段着に特化した、月額制のファッションレンタルサービスを日本で初めて展開されていますが、どのようなきっかけでビジネスを始められたのですか。
天沼:私どもの会社は、私のほかにもう2人共同創業者がいて、その3人で立ち上げたのですが、全員がインターネット・ITが大好き、なおかつシェアリング・エコノミーの概念が大好きでした。加えて、一過性のサービスではなく、人のライフスタイルをより豊かにするサービスをやりたいと思っていました。そこで、衣・食・住のどこかの領域でサービス展開がしたいと考え始めたのがきっかけです。
そして、ライフスタイルの課題を探り、人々の生活が豊かになるためには、たくさんのワクワク体験を提供することができればいいのではないかと思いました。ワクワク体験といっても山のようにあります。そのワクワク体験の中で、私たちは衣・食・住の衣、ファッションに着目をしました。
日々着る洋服に新しい発見や新しい出会いがあったら、きっともう少しワクワクしてファッションを楽しんでいただけるんじゃないか。でも、新しいファッションに、最近はどうやって出会うんだろう。そう考えたとき、「日常の中で自然と出会える機会はなかなかない」というのが答えでした。そうであれば、日々の生活はそのままに、リズムを変えることもなく、無理なく新しいファッションに出会えるような仕組みがつくれたら面白いということになり、ビジネスとして考えていった結果がファッションレンタルだったんです。
そして、「発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する」をミッションにして、会社を立ち上げました。
もともと3人ともコンサルタント会社の出身でしたので、このビジネスの立ち上げを検討しているときには、ITを使ってバーチャルでファッションとの出会いをつくるのはどうかとか、自分たちでは在庫を持ちたくない、とか、最初はそんなことも思っていました。
しかし、検討を重ねていくと、最終的にはお客様が「ワクワク体験を持つ」ということは、実際に洋服を着用してはじめて感じることであり、自分との相性や周りからの評価、そして自分のクローゼットにある服との着合わせがたくさんできることを知ってもらえたときにワクワクするのだと思い、レンタルサービス業に行き着きました。
秋葉:ちょうど天沼社長と出会う直前に、学生時代の友人の奥さんがスタイリストにお願いして、今まで自分が着ていたのとまったく違う服を着ているという話を聞いていました。髪型から化粧の仕方から何から何まで全部直されたそうです。その奥さんのことは学生のときからずっと知っているのですが、お会いしたときに、イメージがまったく変わっていました。実際にそういう体験をしていましたから、今のお話はよくわかります。
レンタルサービスでも、自分で選んでいたら、自分の守備範囲の中で展開していくことになるので、いつまで経っても変わりません。一方で、「選ぶ」という行為にスタイリストが入ることによってまったく違う発見になります。今までの自分が変わる可能性があるんです。それが広がるかもしれないし、まったく違う方向に行くかもしれない。そういう意味で、すごく面白いと思いました。具体的にはどのようなサービスになるのですか。
天沼:お客様からの目線でご説明すると、まず、ファッションのお好み、サイズ、好きな色味、スタイリストへのご要望も含めてご登録いただきます。基本的にはそれだけです。数日経つと、我々のスタイリストが洋服を3着選ばせていただき、ボックスに入れてご自宅にお届けします。それを好きなだけ楽しんでいただいて、気に入ったらそのまま買える仕組みになっています。そうではないものは、返送用伝票が入っているので届いたボックスに貼っていただきそのまま返していただくと、数日後にまた別のボックスが届きます。ボックスが我々とお客さんの間で行き来するようなサービスを展開しています。
秋葉:どのようなお客様が多いのですか?
天沼:お客様は20代後半から30代、40~50代まで幅広く使っていただいています。レディースに特化しており、9割以上が働く女性、4割強がママさんというセグメントです。働く女性やママさんの共通項として、「忙しい」ということがあります。忙しくて時間がない方に我々のサービスをご利用いただいています。
彼女たちは本当に忙しい毎日を送られています。日々の生活の中で、ゆっくりファッション誌を見る時間がなくなった。ゆっくりテレビを見る時間が減った。ママになってそもそもショッピングに行く時間がなくなった。行けても抱っこひもをしたまま試着ができない。新しいファッションに出会ったり、新しい着こなしやコーディネートに出会ったりする機会が、そもそも減ってしまっているのではないかと感じました。そういった“出会い”をたくさんつくっていくことが、私たちの大きな目的です。お客様からも、「とにかくお得になった」という声もありますが、それよりも、「新しいファッションに出会えた」「これは自分では選ばないけど、着てみたらすごく私に似合うという発見があった」など、そういった声が多いです。
シェアリングは本質的
秋葉:そうしたファッションに対するニーズを「シェアリング」で解決しようとされているところが非常にユニークだと思いました。
私自身も、ロジスティクスの世界でシェアリングをするということをずっといい続けて、少しずつ形にしようというタイミングだったので、「シェアリングをする」ということが一つの共通項になりました。「シェアリング」を切り口に、ファッションレンタルとロジスティクスのソリューションプロバイダーとして、それぞれが、何が共通項かを探していくことができます。
また、現在の既存のプレイヤーが、シェアリングというキーワードで共通項を探そうとすることは、おそらくありえないと思います。私たちはまったく新しいプレイヤーとして業界を変えていこうとしていますし、誰もできていないことをやろうとしています。そういう意味では、私たちは起業家としてはスタートアップではありませんが、やろうとしていることはスタートアップですし、ベンチャーだと思っていますので、お互いすごく話がしやすいんです。
「これはチャレンジだけどすごく面白いと思うよ。だけど絶対ではないよ」ということも、お互い正直にいえるわけです。
天沼:我々のような、オンラインによるファッションのレンタル事業のスタートアップでは実際にものが動くので、サービス品質を高めようと努力すると、必ず物流が必要になってきます。そのために、オンラインビジネスのスタートアップにしては特徴的なのですが、我々は物流に特化したチームをつくっています。
通常のビジネスであれば、実際の倉庫での動きについては、基本的には委託して任せると思います。しかし、我々はそこを任せるだけではなく、実際にどれくらいの事業効率で倉庫が回っているのか、レンタルが返ってきたときの品質チェックの基準はどうするのか、など様々なサービス品質の項目について確認しています。
それだけではなく、実際に洋服のメンテナンスやクリーニングなどもしていますので、そういった業務のレベルを上げるためのチームを独自につくっています。さらに、先進的な取り組みとして、効率化のためのロボティクスの活用というものもあります。DPL市川でもご一緒させていただいているGROUNDの宮田社長はロボティクスの物流に特化されており、意気投合していろいろと話をさせていただきました。これから間違いなく業界の中でもガラッと変わる取り組みを考えているので紹介したい人がいるとおっしゃっていただいたのが、秋葉さんとの最初の出会いでした。
そのときに伺ったのがロジスティクスのシェアリングの概念です。そのときの率直な感想は、僕は最先端のことが好きなので、単純に面白いと思ったのはもちろんですが、それ以上に本質的だと思いました。私は本質的なものを目的にするのがすごく好きで、シェアリング物流はまさにその最たるものだと感じました。秋葉社長がおっしゃるようにチャレンジングな部分もありますが、使いたい人が使いたいリソースだけ使える仕組みをつくりましょうという考え方はとても本質的で合理的です。すごく真っ当だと思いました。
進むことが前提だから、意思決定は早い
天沼:倉庫移転も含めたお話になるということは、その日に思いました。なぜなら、我々のサービスは現状1箇所に集中して物流の管理をして動かしています。すべてのアイテムがコーディネートを組まれる可能性があるので、物流の拠点としては1箇所で管理をするほうが効率的だからです。もし、こういった話で我々がご一緒させていただくのであれば、倉庫移転も含めて大きく動くと思いました。
ところが、実はそのとき、倉庫移転をしてまだ1年ちょっとくらいのタイミングでした。普通に考えたら、通常3~5年はいるだろうという中での1年です。でもその日のうちに、一緒につくっていきたいという意思は十分にありましたので、調整をさせてくださいという話をさせていただきました。
秋葉:はじめから一緒にやるというつもりで僕もお話をしました。繰り返しになりますが、我々もベンチャーだし、スタートアップだと思っています。だから、過去の関係を重視されたり、慣習的なことを気にされたりする方々が相手の場合、その説得にすごく時間がかかってしまいます。一方で、進むことを前提での会話であれば、やろうと思うかどうかの意思決定はすごく早くなります。やる前提の中でどのような課題を潰さなければならないのかという議論なので、そこはまったくスピードが違います。
天沼:実際に話が進み、商品が動き出すまでには、もちろん数ヶ月掛けて調整をしたり、相談させていただいたりすることはありました。しかし、「やりたいのか、やりたくないのか。やるのか、やらないのか」といえば、「やりたいし、やりましょう」ということでした。そこの思いは最初に感じたときから変わりません。
とはいえ、半信半疑でもありました。あの規模を持つ会社であるにもかかわらず、そこまでチャレンジングなものを打ち出して、実際にそういうものをつくるのだろうかと。本気でやるのであればぜったいに面白いし、我々も本気だと思っていたのですが、おそらく、このままの状態が続き、数年後経ってから、「またあの時の話でやりましょうか」ということになるのかなと、最初はそう想定していました。
ところが、実際に動いたときにはビックリしました。私の記憶が正しければ、その次の日にはやりとりをスタートして、驚くようなスピード感で動いていきました。会社の姿勢としてそういう動き方をされることがわかって、我々も本気で取り組みをしていこうと思いました。その結果、我々はどの社よりも早く全業務移転をさせて、すべてのアイテムを管理いただいています。
シェアリングするということは、コスト削減だけではなく物流品質のレベルを高める
天沼:そのときにもお話をさせていただいたのが、私が参画させていただくのであれば、機能、品質を上げていくというところがやはり一番コアな部分になるということでした。私たちも現場で起きたことをどんどん共有しますし、改善されたことも共有するので、機能を細分化したときに品質を上げていきたいのです。荷主という立場で色々な事業者様がいらっしゃいますが、その立場よりも、機能を進化させていくパートナーとしてご一緒させていただきたいというのが私の思いでした。
それには明確な理由があります。いわゆる一般的なアパレル業界の倉庫物流の必要機能で捉えると、洋服を管理する「ささげ」と言われている「撮影・採寸・原稿」の入庫作業、そこから「保管」をして「発送」する。基本的にはこの3機能です。返品は、機能として「持っている」「持っていない」は分かれるかもしれません。
一方でレンタル事業では、ささげも同じようにやっています。当然、保管もしてレンタル対象品の出庫もしています。ここまでは同じ機能が必要ですが、レンタル事業では、その上で、返品に関する検品機能を持っています。検品してから良品もしくはメンテナンス必要品に分かれます。メンテナンス必要品には、リペアをしていく機能、加えてクリーニングを徹底していく洗いの機能といったものが必要になります。それから再度検品をして、保管に戻ります。そのようにして出庫可能な状態に戻すので、機能が圧倒的に多くなります。おそらく、アパレル業界でもっとも広い倉庫・物流の機能を必要としているビジネスモデルです。
そこのひとつひとつの機能、クリーニング、メンテナンス、検品の精度の質を高めていくことは、私たちのサービスの質を高めるのとイコールなのです。これらの機能を絶対高めなければなりません。そこが一番大きい理由です。
私たちのサービス品質を高めるためには、シェアリングが絶対必要だということなのです。
秋葉:荷物を預かるだけではなく、レンタルサービスをやろうとすると必ず物が返ってきます。その返ってきた物をどうするかというところが、天沼さんたちエアークローゼットのビジネスを成功させる非常に大きな要素です。
また、Eコマースにおける返品率もこれからますます上がっていきます。ロジスティクスの観点から考えると、返品されてきたときにどうするかが肝になります。私は、数年前にヨーロッパでOtto社の物流センターで返品専用センターを見たときから、日本でも絶対に必要になると思っていました。誰もやっていないなら、私たちがこれを一番にやろうと思っていました。
返品に関する効率化を図り、なおかつ高品質で行うことを追及していくことが天沼さんたちの事業の中で絶対に必要なわけです。そこは必ずシェアリングできると思っています。
さらに、現在、エアークローゼットさんも含めて様々な会社とのコラボレーションが生まれようとしています。また、さきほどお話した返品専用の機能などはさらに別の会社から評価されて、出荷は自社でやるけれども返品機能はシェアリングを活用したいと複数の企業から要望をいただいています。それだけ、皆さんが返品対策の機能を必要だと感じ始めたタイミングなのでしょう。
天沼:今後、我々のノウハウをご提供して、シェアして、一緒に高めていけば、一般のアパレル業界の企業が求める機能は当然含まれていますので、活用いただくことができます。さらに、もう少し広げると、オンラインのフリーマーケットのビジネスをはじめとする多くのCtoCビジネスの領域で、今いろいろな高度な機能が求められていますから、そういう企業にも活用いただけます。
もちろん、保管だけ必要な人もいれば、クリーニングだけ必要な人もいる。これだけ必要とか、これとこれの組み合わせだけが必要だという事業者さんもいるでしょう。そのときに、それぞれの機能が進化しているかどうかが非常に重要になります。これこそが、我々が参画する理由になるだろうと思っています。サービス品質を高めるという私たちが一番当たり前にやることと、今回のプロジェクトの品質を高めるということが一致しているのです。そこの目的が一致していなかったら、機能をただひたすら求めるような関係性になってしまうでしょう。そうではなくて、お互いに高め合う結果として、プロジェクトの成功とサービスの成功も見据えることができるというのは、私はすごくガチッときています。
秋葉:シェアリングするということは、コストを削減できるだけではなくて、実はみんなが物流品質のレベルを高めることができるんです。みんなが同じことをしていれば間違えることもないわけです。そうしたことも含めて、ロジスティクスの機能を、シェアリングという観点から見直す機会になっていくのではないかと思います。
第2回に続く
トークセッション ゲスト:学習院大学 経済学部経営学科教授 河合亜矢子
トークセッション ゲスト:セイノーホールディングス株式会社 執行役員 河合秀治
トークセッション ゲスト:SBロジスティクス株式会社 COO 安高真之
トークセッション ゲスト:大和ハウス工業株式会社 取締役常務執行役員 建築事業本部長 浦川竜哉
トークセッション ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎
トークセッション ゲスト:明治大学 グローバル・ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆
トークセッション ゲスト:株式会社 日立物流 執行役専務 佐藤清輝
トークセッション ゲスト:流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野裕児
トークセッション ゲスト:アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸
トークセッション ゲスト:MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征
トークセッション ゲスト:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介
トークセッション ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志
トークセッション ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
スペシャルトーク ゲスト:株式会社ママスクエア代表取締役 藤代 聡
スペシャルトーク ゲスト:株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰
- 第1回 お互いのビジネスが「シェアリング」というコンセプトで結びついた
- 第2回 まずは見ていただいて、シェアリングの世界を感じていただきたい
- 第3回 シェアリング物流のコアで、かつ本質的なところは、進化すること
秋葉淳一のロジスティックコラム
トークセッション:「お客様のビジネスを成功させるロジスティクスプラットフォーム」
ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
トークセッション:「物流イノベーション、今がそのとき」
ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役 佐々木 太郎氏
「CREはサプライチェーンだ!」シリーズ
- Vol.1 究極の顧客指向で「在庫」と「物流資産」を強みとする「トラスコ中山」
- Vol.2 「グローバルサプライチェーン」で食を支える日本水産
- Vol.3 「当たり前を地道にコツコツ」実現したヨドバシカメラのロジスティクスシステム
- Vol.4 「新たなインテリア雑貨産業」を構築したニトリホールディングス
- Vol.5 物流不動産の価値を上げる「人工知能」が資産価値を上げる
- Vol.6「ロボット」が資産価値を上げる
- Vol.7「人財」が資産価値を上げる
- Vol.8「ビッグデータ」が資産価値を上げる
- Vol.9 AI、IoTがCRE戦略にもたらすこと
「物流は経営だ」シリーズ
土地活用ラボ for Biz アナリスト
秋葉 淳一(あきば じゅんいち)
株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。