サプライチェーン
秋葉淳一の「物流は経営だ」 Vol.2 進化するICT技術
公開日:2016/05/26
サプライチェーンマネジメント(SCM)が与えたインパクトとその変遷
ITからICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)と呼ばれる時代になり、情報通信技術の進化が買い物(ものの流れ)の概念をすっかり変えつつある。
日本で、サプライチェーンマネジメント(SCM)という言葉が使われるようになったのが1997~1998年くらいのこと。大手SPA企業がサプライチェーンの仕組みを構築したときは非常に先進的な考え方として、流通業界に大変なインパクトを与えた。
商品の企画設計を行って委託先の工場に発注をして商品をつくらせ、デリバリーのオーダーを出して箱詰めの指示も一緒に行い、工場から出荷する際の船もブッキングし、日本の港に入ってきたら通関を経て日本の物流センターに入る。
そこまでの流れを全部追いかけ、かつ需要の予測もする、というシステムを17年くらい前に構築したのだから、間違いなく最先端の発想とシステムだったのである。
しかし、当時の通販事業はまだ1店舗と同等の扱いに過ぎず、ネット通販用の商品は倉庫の端にまとめて置いておかれるような状況だった。
それが今や、店舗と通販の在庫を共用にして、通販のサービスレベルを一気に上げようとしている。たとえば、1店舗と同等に扱うということは、この店舗の在庫がなくなれば、他店舗に在庫があっても買い物をしようとしている店舗では品切れであり、買い物ができないということである。そう、店舗用には商品があるのに通販では在庫切れになっているため、お客様が必要な物を購入する際の利便性を妨げてしまう(もちろん、逆もしかりである)。
つまり、その当時に構築したシステム全体をリプレースして、通販のサービスレベルを一気に上げて新たな時代に対応しうる方法へと改革を進めている途上にあるということだ。
ITからICTへ。情報通信技術をいかに使いこなすか
ネット通販に着手しても、リテール分(店舗での販売分)と通販分とに在庫を選り分ける会社は少なくない。しかし、店舗数が多ければ多いほど、そこに無駄が生じることは明らかで、うまく改善していく必要があるだろう。
日本企業においては、商物分離※が基本的になされていないことが多く、会計メインの基幹系システムを用いて物流の管理を行うケースが多い。しかし、会計のための仕組みでは物流の現場で必要とされるスピードでデータの管理や分析を行うのは難しい。
※商物分離…流通は所有権の移転に関する取引流通(商的流通)と商品の流れ(物的流通)とに大別されるが、この2つの流れを分離することを商物分離という。これが可能となった背景には、各種の情報機器や情報システムの発達、運撒・保管・包装などの技術の革新、配送センター・倉庫などの機能アップがある。
たとえば、ある大手家電量販店を例に挙げると、ネット通販はもちろん、店で売れた量も含めて、5分に1回、売り上げや在庫のデータが更新されている。物流センターから店に補充すべきものも、ほぼリアルタイムで把握していることになる。ネット上も店舗でも扱いは一緒だ。つまり、会計のための話と物の数の話を明確に区別した仕組みで管理しているわけだ。商流自体が非常に複雑かつ多様化してきているため、こうした商物分離への流れは必然といえるだろう。
ロジスティクスを踏まえた物流のあり方
使い慣れた言葉でありながら、「物流※」という言葉の定義は難しく、「作業」をイメージする人が多いかもしれないが、そうした意識ではこれからの時代の波を乗り越えていくのは困難になるだろう。最近、よく使われる「ロジスティクス※」の観点から、多面的な理解が望まれるところだ。
※物流…一般的には生産の完了から最終消費者までの物的流れ(物流)を呼び、商品の供給者から需要者への供給についての組織とその管理方法、およびそのために必要な包装、荷役、輸配送と流通加工、ならびに情報の諸機能を統合した機能をいう。
※ロジスティクス…日本ロジスティクスシステム協会では「ロジスティクスとは調達と生産と販売を同時に視野に入れながら、顧客のニーズに適合するように、原材料や仕掛品や完成品の効率的な流れを、計画し、実施し、管理すること」としている。もともと「ロジスティクス」は兵站を表す軍事用語。
物流の現場に人手がかかることは事実だが、そこで人手を束ねる立場の人間が「システムのことはわからない」のでは話にならない。ICTへの理解は必須であり、それらを活用しながら、ロジスティクスの本来の意味である「戦争に勝つためにどうするか」、つまり、戦略や戦術を考える必要がある。
ICTを通して上がってきたデータを見て判断や分析ができること。それを現場から離れている本部に対して指示ないし説明ができること。そう考えれば、物流はもはや、営業、生産と並ぶ、もう一つの大きな柱であるといえるだろう。
トークセッション ゲスト:学習院大学 経済学部経営学科教授 河合亜矢子
トークセッション ゲスト:セイノーホールディングス株式会社 執行役員 河合秀治
トークセッション ゲスト:SBロジスティクス株式会社 COO 安高真之
トークセッション ゲスト:大和ハウス工業株式会社 取締役常務執行役員 建築事業本部長 浦川竜哉
トークセッション ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎
トークセッション ゲスト:明治大学 グローバル・ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆
トークセッション ゲスト:株式会社 日立物流 執行役専務 佐藤清輝
トークセッション ゲスト:流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野裕児
トークセッション ゲスト:アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸
トークセッション ゲスト:MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征
トークセッション ゲスト:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介
トークセッション ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志
トークセッション ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
スペシャルトーク ゲスト:株式会社ママスクエア代表取締役 藤代 聡
スペシャルトーク ゲスト:株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰
- 第1回 お互いのビジネスが「シェアリング」というコンセプトで結びついた
- 第2回 まずは見ていただいて、シェアリングの世界を感じていただきたい
- 第3回 シェアリング物流のコアで、かつ本質的なところは、進化すること
秋葉淳一のロジスティックコラム
トークセッション:「お客様のビジネスを成功させるロジスティクスプラットフォーム」
ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
トークセッション:「物流イノベーション、今がそのとき」
ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役 佐々木 太郎氏
「CREはサプライチェーンだ!」シリーズ
- Vol.1 究極の顧客指向で「在庫」と「物流資産」を強みとする「トラスコ中山」
- Vol.2 「グローバルサプライチェーン」で食を支える日本水産
- Vol.3 「当たり前を地道にコツコツ」実現したヨドバシカメラのロジスティクスシステム
- Vol.4 「新たなインテリア雑貨産業」を構築したニトリホールディングス
- Vol.5 物流不動産の価値を上げる「人工知能」が資産価値を上げる
- Vol.6「ロボット」が資産価値を上げる
- Vol.7「人財」が資産価値を上げる
- Vol.8「ビッグデータ」が資産価値を上げる
- Vol.9 AI、IoTがCRE戦略にもたらすこと
「物流は経営だ」シリーズ
土地活用ラボ for Biz アナリスト
秋葉 淳一(あきば じゅんいち)
株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。