秋葉淳一のトークセッション 第2回 技術開発を事業化し、日本の物流の未来を変えていく株式会社T2 代表取締役 CEO 森本成城 × 北海道三菱自動車販売株式会社 代表取締役社長 下村正樹 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2024/02/29
2025年からロジスティクス事業を開始
秋葉:T2は2025年から事業を開始するとお聞きしていますが、立ち上がりをどうしていくか、森本社長のイメージがあれば少しお話ししていただけますか。
森本:デジタルライフライン全国総合整備計画を推進するため、国がアーリーハーベストプロジェクト※という計画を進めています。アーリーハーベストプロジェクトの一つである「自動運転支援道の設定」では、2024年度に新東名高速道路の沼津-浜松間に100km以上の自動運転車用レーンを設定し、自動運転トラックの運行の実証実験を行います。また、2025年度までに全国50箇所、2027年度までに全国100箇所で自動運転車による移動サービス提供が実施できるようにすることを目指しています。それをまず国と関係者とともにクリアしていきたいですね。
それができてから、2026年ぐらいになるかもしれませんが、自動運転でのロジスティクスのサービスを行っていこうと計画しています。一方、2025年後半から2026年にレベル2での自動運転のロジスティクスのサービスを始めるに当たって、物流会社としてライセンスの取得をします。はじめはレベル2でも、ロジスティクス事業のオペレーションをまず回していく。ロジスティクス事業のオペレーションのクオリティを高めていくことと技術開発、この両方を高めてそれが合ったところで、2026年にレベル4での自動運転でロジスティクスのサービスをしていく。一方、はじめは安全安心が非常に大事です。当初1年間くらいは保安員に乗ってもらって進めることになると思います。
※「デジタルライフライン全国総合整備計画」(経済産業省)の中で、2024年からの実装に向けた支援策として、ドローン航路、自動運転車用レーン、インフラ管理のDXなどを支援する取り組み
秋葉:安全性は本当に重要ですね。何か起こると大きく報道されたり拡散されたりする可能性もあります。それでネガティブな印象がつけられてしまうと、全体としてもったいないですね。
森本:そうですね。T2だけではなく、こうした事業を進めていきたい業者全体にインパクトを与えてしまいます。やはり気をつけないといけないと思っています。
秋葉:先ほど言われたように、レベル2でロジスティクス事業、事業会社としてやっていかれるわけですから、会社として一番大事なことだと思います。技術提供会社ではなく事業会社だというところがやはりすごく大きいですよね。
森本:T2は技術者、エンジニアがメインの会社と外部からは見えると思いますが、私個人としては半々で、半分は技術、もう半分はオペレーションやビジネスというところだと考えています。ですから、大和物流さんや三井倉庫ロジスティクスさんなど株主の方には、そこも支援していただくという意味で入っていただいています。
秋葉:そこの考え方は相当大きいですね。最初の段階から事業会社としてやるという発想だったのですか。
下村:最初はとにかく技術を生かしたいということで、デジタル部隊が作り込んでいたので、技術を使って社会課題を解決したいと考えていました。しかし、サービサーとしてどうフィーを稼いでいくかを抜きにして技術開発だけをしても、絵に描いた餅に終わるので、そこはしっかりとしたサービスで作り込んでいく必要があります。森本社長が説明したように、自動運転輸送サービスを提供する運送会社になっていくという絵が正しい方向性です。逆にそれをきちんと株主様に説明することができたので、資金調達もできたのだと思います。
秋葉:時代の中で変わっていくことなのかもしれませんが、技術をつくる話と、別の実事業会社がそれを買って、使用料を払って、なおかつ事業が成り立つかという話は、意外とハードルが高いと思っています。今までのやり方で低い利益率で頑張っている人たちが、無人とはいえそれを購入して、固定費等を負担して、仕事を回していけるでしょうか。仮にそれができる会社があったとしても、約6万3000社ある運送会社のうち、購入してできる会社が何社あるでしょう。技術だけ進歩しても難しいと思うので、事業と並行してやっていることがT2の一番のポイントであり、圧倒的な強みだと感じています。
下村:今でも車両をリースするという声が出てきますが、使いづらいスキームに感じます。法制面でも整理が必要で、リースした車両で事故を起こした場合、誰の責任になるのか等、解決しなければいけない課題が存在しています。こういった点がまだ明確になっていないので、中小事業者にとって、自動運転車両の購入コストが高いからリースにするというスキームは成り立たないと思っています。
秋葉:事業会社がやってくれているからこそ、こういうやり方をすれば自分たちもできる、やれる可能性がある、という話になるのだと思います。物流倉庫でも、ロボットやマテハンを導入すれば人を減らせるとは言っても、入れられる会社や現場は限られています。未だにそれが現実なわけです。それ以上にハードルが高いことなので、やはり実事業会社がやるということは大きなポイントだと思います。かっこいいですよね。
危機感が共有され、課題解決に貢献したい企業が増加
秋葉:資金調達についてお聞きします。プレシリーズAとして12.5億円の資金調達を実施した後、シリーズAラウンドにおいて総額35億円の第三者割当増資を実施。シリーズA追加ラウンドでは7億円の増資をしたとプレスリリースで読みました。大和ハウスグループからも大和物流が参加していますが、出資している企業はどのような思いから出資しているとお考えですか。
森本:一番多いのは、運送業者とお付き合いのある株主様です。運送業者は今後2024年問題で大変になっていく中で、それをクリアしようともがいている。普段のお付き合いでそういった苦労を見ているので、関わっている事業者として何とかして支えていきたい、業界を支えていきたいという気持ちがやはり大きいのだと思います。そのような方がほとんどではないでしょうか。
秋葉:5年前だったら、同じ話をして同じように反応してくれたかどうか、私個人的には疑問もあります。「誰かが何とかしてくれるんじゃないの?」という空気がまだあった、というのが正直なところです。ここ2、3年で危機感のようなものがかなり浸透してきました。業界ニュースというより世の中ニュースに格上げされてきて、直接的ではないとしても、課題解決に貢献したいという会社が増えてきたと感じます。そのような人たちの行動の大きな表れとして、T2への出資になったのではないかと見ています。
下村:5年前からこの状況は分かっていたものの、まさにゆでガエル状態で、けっきょく誰かが何とかしてほしいと思いつつ、誰も何も動きませんでした。本当にこの状況はまずいぞと、皆心の底では分かっていたことを問題提起することによって、やっぱり今動かないとまずいよねと思う仲間が少しずつ増えていったのだと思います。私が資金調達をしていた頃も、もちろん民間企業なので、将来的には利益を出していくわけですが、「今何とかしないとこの国の物流がおかしくなってしまう」というくらいの危機感をストレートに株主側にお伝えして、それが結果として資金調達につながったのではないかと感じています。
秋葉:大和ハウスグループは社会課題に対する認識が強い企業です。もちろん、企業として収益性は重要なポイントですが、それにまして「社会のため、世の中のため」という意識で事業を展開している企業だと認識しています。大和ハウスグループの中で一番規模の大きい物流会社として大和物流が参加させてもらったのは、グループ全体としても大きなことだと思っています。大和ハウス工業は建物を建てることを主事業としてやってきて、その中でも物流施設は非常に大きなウェイトを占めています。物流施設をどうやって生かしていくかという、建物の中の話は私たちも含めてけっこうやってきましたが、ようやく建物と建物をつなぐところにも目がいき始めました。大和物流が出資したこともそうですが、グループ全体としても注目を浴びるという意味で非常に大きいと思っています。仲間に入れてもらってありがたいですね。
自動運転が労働生産性を上げ、付加価値を大きくする
下村:自動運転を実現するにあたって、土地の制約があります。日本の国土は狭いので、狭い土地を最大限有効化する発想が強いですが、それだけでは自動運転車両が発着する拠点として成り立たないという前提から作り込むようなアプローチしていかないといけません。
秋葉:土地を買ったら、賃料の取れる床面積をどれだけ取れるかという方向に行きますよね。
下村:それは当然なのですが、そこまで行っていいところとそこから先を考えないといけないところが明確になっていないと、今ある既得のビジネスに引っ張られてしまいます。
秋葉:運送事業者さんにとってすごく難しいのは、最終的には自動運転の車にしないとドライバーがまったく足りないことは分かっている一方で、そこに行き着くまでの間はドライバーを雇いたい。しかし就職先として考えた時、5年後はまだドライバーでいられるかもしれないが、20年後は自動運転でドライバーが要らないかもしれない。この問題はあると思います。
今から自動運転比率が高まるまでの間、より一層、今以上にドライバー不足が顕著になり、社会課題になると感じています。そこに関して森本社長はどう捉えていますか。
森本:さらにドライバーが減少していく可能性は大いにあると思います。一方で、直前までドライバーを雇い続けておかなければなりません。新しいサービスをすると周辺事業ができて、その中には、切り替え拠点や遠隔監視、切り替え拠点から有人にして物流センターに運ぶお客様も出てくると思うので、そのようなところにドライバーを配置して、雇用を創出し、維持する。かつ長距離ドライバーは2~3日に1回しか家に帰れないという問題においても、当日に帰れるような環境づくりを目指していきたいと思っています。
秋葉:事業会社さんがやってくれることでそれが見えてきます。ドライバーになって、その先自分がどのような仕事に就くかというイメージを持って就職することができるし、そのためのスキルを身につけていくこともできます。
森本:倉庫を自動化するとなると、既存で働いている方が解雇されるのではないかと心配して、設備投資で揉めることがあると思います。そこで折り合いつけるために、例えば倉庫自体が儲かるようにして給与を上げていくなど、さまざまな工夫が必要です。
下村:人がより付加価値の高いところへ流れていくということが、今の世の中はできていません。省人化イコール人の有効活用であり、人のスキルを上げていくことだという流れをつくって、経営的にその方向へ進めて、人への投資もしていく。そこが欠けているので、仕事が要らなくなったら人も切るという発想で懸念する人がいるわけです。今人がやっている仕事が機械やシステムに置き換わったら、人にはより高度な作業を任せて、付加価値を創造していく。この流れを経営に浸透させていかなければなりません。補助金をつけたり、再教育やシニアの活用をしたり、政府もいろいろやっていますが、経営の大方針として流れを変えていくことが必要です。
秋葉:そこに対する教育に、お金と時間が確保されていないですよね。
下村:だから労働生産性が低いままです。労働生産性が低いのは悪いことだという認識を経営者は強く持つ必要があります。コストカットによる利益拡大がこの30年間行われてきました。そうではなく、労働生産性が上がって、付加価値を創造して従業員・社会に還元することが経営者としての誉れです。そこの成績表を見ないといけません。人の可能性を信じ価値創造を実現してくれる強いリーダーがいるといいですね。
秋葉:物流業界では「高度物流人材」という言葉が使われています。高度物流人材とはそもそも何でしょうか。自動運転や、センター内でロボットやマテハンがそれなりに使われるという絵の中で、高度物流人材に何を求めるのか。それに対してどのような教育をするのか。こうしたストーリーに合わせて進めていかないと、会社としても、拠点としても、労働生産性を上げていくことができません。
下村:日本の物流現場では、多くの場合、いろいろな創意工夫やコストカットで、最後になんとか利益率1%を確保しているような状況です。「付加価値が高いからこれだけ運賃をください」ではなく、「荷主からこれだけでやってね」と言われて、何とかコストを削って利益率1%を2%にするような発想なのです。それは違いますよね。
秋葉:そういう意味でも、新しい運送事業会社なのか、もう少し広範囲な事業会社なのか分かりませんが、模索しながらつくり上げていく先頭をT2に走ってもらえると、業界としても世の中としてもありがたいと思います。自動運転というと技術系の話ばかりになりがちで、そういう会社さんが多いので、T2が事業会社としてやるということに注目しています。それによって事業として成り立つかどうかだけでなく、周辺の業務も見直されて、そこに必要な人たちがどうあるべきか考えることになります。そのために必要な高度物流人材が定義され、教育もされて、しっかりフィーも上がっていく。そのようなモデルができるといいですよね。
最近は分かりませんが、数年前は、運送会社の人たちは他の業種の平均より年間の労働時間が2割多くて、年収が2割少ないと言われていました。そこからT2が、労働時間は少ないが、給料は他の業種の平均より2割3割増しもらっているということを実現すれば、働いている人たちが、自分のいる会社がそこを目指しているのかいないのかを気にするようになり、業界全体を変えられると思います。すごく楽しみです。