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コラム No.27-79

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 サプライチェーンマネジメント思考で全体最適を図る株式会社トーチリレー代表 神保拓也× 株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉 淳一

公開日:2022/11/30

「伝わる」は相手が主役

神保:私はよく「伝える」と「伝わる」は違うという話をします。物流業界はそもそも自分達が抱える課題や問題を外に「伝える」ということが苦手な業界だったのではないでしょうか。よく言えば専門性の高い業界なのかもしれませんが、外から見ると、何をやっている業界なのかよく分からない。これは企業内でも同じことが言えます。物流部門は、他部署から見ると何をやっているのかがわかりにくい。だから「物流部ってコストセンターだよね」と思われてしまいます。これは物流部が、自分たちが取り組んでいることや苦労していることを伝える努力をしてこなかったことにも原因があるように思います。
昨今、アマゾンの台頭や宅配クライシスの問題もあって、物流にスポットライトが当たるようになり、この業界内にも「伝える」ということに力を入れる人たちが増えました。しかし、「伝える」と「伝わる」はまた違う領域で、その間にある壁を越えないといけません。一方的に「伝える」だけでは不十分で、「伝わったかどうか」が重要なのです。今回の秋葉さんの書籍『ミライへつなぐロジスティクス~ミナミと学ぶ持続可能な世界』はまさに「伝える」だけでなく、「伝わる」ことを意識して書かれていると思いました。物流を「伝える」人は大勢いても、けっきょくは自分の島を出ず、自分の言語で相手に伝えていては伝わりません。「伝える」は自分を主役にした考えで、一方通行。「伝わる」は相手を主役にした双方向の考え方です。

秋葉:言われてみれば、私もこの拙著のなかで、ミナミを主人公にすることで、伝えるだけではなく、いかに「伝わる のかを考えたのかもしれません。

神保:この書籍が出版されたとき、秋葉さんは「伝える」ことが苦手な業界にいながら、「伝える」だけでなく、「伝わる」ことまで意識して書かれたのだと感じました。実は私が経営しているトーチリレーという会社で提供している「悩み相談サービス」にも同じことが言えます。一般的な悩み相談の現場では、相談に乗っている側が主役になってしまうことがあります。上司に「なんだかお前最近悩んでいるようだから、相談に乗ってやるよ」と言われたので相談したところ、気づいたら「俺が若い頃はそんなことでは悩まなかった」「俺は昔な・・・」と上司の自慢話や武勇伝を聞かされたことは、多くの方が経験しているのではないでしょうか(笑)。ですから私が人の悩み相談に乗る際に常に意識していることは、「自分の言葉ではなく、相手の悩みが主役である」という考えです。
そしてそれは「伝える」と「伝わる」の間にある壁を乗り越えるためにも必要な考えだと思っています。元々物流に興味がない方、よく分かっていない方々に、今の物流事情と今後の可能を、「伝える」だけでなく「伝わる」までどう持っていくか。そこに心を砕いた方でないと書けない本だという点で、秋葉さんの本は五つ星だと感じました。

秋葉:ありがとうございます。おっしゃったように、サプライチェーンや物流の解説書の多くは上から見ているものが多く、物流が主役ではありませんよね。

神保:多くの物流関係の書籍は、自分の言いたいことを伝えたら、あとは君たちが勉強して分かるようになってくれよといった感じです。入り口をそこから始めてしまうと排他的になります。物流のことを本当に分かってもらいたいのであれば、物流のことを正しく理解したうえで、「伝える」から、「伝わる」に視座を上げなければなりません。秋葉さんの本はそれをまさにストレートに実行した本だと思いました。

秋葉:神保拓也が、神保拓也の目で見て、神保拓也が感じたことを、神保拓也が整理して取り組み始める。過去の常識に固執したり頑固になるわけではなく、周りの話を十分に聞いたうえで、「こうしたい」「なるほど、こうしよう」と整理をしていって、実際に進んでいく。神保さんが実行していくエネルギーは、横で見ていて「これはすごい」と思っていました。
経営陣にいかに伝えるかという話がありましたが、私たちパートナー側からすると、会社の中をどう調整してもらうかはかなり重要でした。ここの調整がうまくいかないと、1カ月~2カ月、簡単に仕事がスリップしていくわけです。その突破力というか調整力というか、それを「伝える」から「伝わる」ようにすることができるかが非常に大きい。神保さんに理解してもらえれば、社内を調整してもらえる前提で次のプロセスに行けますから、ものすごく助かっていました。
実はこれはどこの会社の場合も同じで、お互いに「誰がキーマンなのか」という話なのだと思います。お客さんもこちら側を見て、「誰と会話をしたら調整できるのか」とずっと考えているわけです。

神保:秋葉さんのような役割ができる方もいないですよね。秋葉さんは噛めば噛むほど味が出る方だと思っています。最初は本の著者としての出会いで、ただただリスペクトしていましたが、付き合いが深くなるにつれていろいろな面を感じました。『ミライへつなぐロジスティクス~ミナミと学ぶ持続可能な世界』に高度物流人材という言葉が出てきましたが、秋葉さんはまさにその代表例だと思います。この本を読んで、高度物流人材という言葉を改めて自分なりに考えたとき、「全体最適をトッププライオリティに置いて物事を考えられるか否か」が1丁目1番地だと思いました。会社は部分最適の集合体で、部分最適の縄張り争いがいたるところで行われています。私たちがやっていることも、「調整役」というタイトルを付けられてしまうと、さまざまな手を使ってなんとか案件を通すようなことばかりやっているイメージになりますが、本来は「司令塔」のような役割なのだと思います。

サプライチェーンマネジメント思考

神保:私がサプライチェーンマネジメント思考と呼んでいる思考法があります。これは「全体最適思考」と読み替えられます。私はこの思考がすごく好きで、これが自分の軸の中に貫かれています。このように言語化したのはサプライチェーン業界に携わってからですが、元々そのような思考性が自分の中にあって、私が大切にしていた考え方はそういうことだと、後づけで名づけました。
僭越ながら、私が秋葉さんに親近感を感じるのは、秋葉さんがカウンターパートとして全体最適を見ている人だからです。全体最適を見ている人同士の調整はすぐに理解し合うことができますが、そこを見ていない者同士がする調整は縄張り争いになってしまいます。例えば、全体最適の思考を持っている人は、相手にとって耳の痛い話であったとしても、全体最適の観点から相手にそのことを伝えます。そして相手も全体最適の思考を持っていれば、最終的には話はすごくかみ合います。ところが、部分最適の思考で見れば、「なんでそんなことをあなたに言われなければならないのか」と、今回の秋葉さんの著書に登場する所長のファーストリアクションのようなことも起きてしまいます。
いつの時代も、どんな会社にも、憎まれっ子世にはばかるで、同じような人は必ずいます。何かを変革したいのであれば、そういう人たちも巻き込んでいかなければなりません。そうなると、全体最適の視点をぶらさずに貫いて、憎まれっ子たちに憎まれる役を誰かが買って出ないといけない。私は、高度物流人材とはそのような人間だと思うのです。その観点から、私は秋葉さんの凄みをすごく感じています。全体最適はどこにあるのかを常に考えて発言しているので、高圧的ではない柔らかい物腰、心地良いコミュニケーション。俯瞰的に物事を見る人でないとできないアドバイスや助言をしてくれて、さらに、人間的に深みのある面白い方ばかりを紹介してくださる。そして、紹介していただく方々と秋葉さんの間にはすでに信頼関係が構築できているので、話が早い。秋葉さんには、他に持っていったら絶対に断られるような、際どい案件をよくご提案いただいていました(笑)。

秋葉:私にとっても同じでした。同じ観点から課題を共有している人でなければ、スタート地点から違いますので、話がかみ合うことがありません。ソリューションの良し悪しの前に、視点を合わせること、これは本当に難しい。

神保:当時、緊急性が高いミーティングがたくさんある中で、私は秋葉さんとのミーティングは優先的にお受けするようにしていました。秋葉さんの提案内容は一見すると緊急性が低いように思えるものが多かったので、周りのメンバーは「なぜ神保さんは秋葉さんとのミーティングをこんなにも優先的に受けるのだろう…」と最初は不思議に思っていたと思います。しかし秋葉さんの提案は、いつも物流の未来を考えた上で今取り組まなければ遅きに失する可能性のあるものばかりでした。そういった意味では、将来の可能性の話ではなく、今そこにある危機についての話でした。そして多くの日本企業はそういった人たちのアドバイスに真剣に向き合ってこなかったがゆえに、今になって慌てて物流改革をやらざるを得ない状況に追い込まれているのです。そうなると、全体最適など考える余裕がなくなり、表面的な改革にとどまってしまいます。だから私が私の役割を果たすためにも、秋葉さんとのミーティングは必要不可欠な時間だったのです。

秋葉:現場にある喫緊の課題に対応しながら、かつ経営視点、つまりサプライチェーン思考を持つというのは、能力だけではなく、体力も気力も胆力も必要で大変なことだと思います。「私が私であるために」とおっしゃいましたが、まさにそこが「神保さんが神保さんたる所以」ですね。

神保:ユニクロは情報製造小売業という業態を目指していますが、ユニクロのサプライチェーン改革はとてもやりがいのある仕事でした。工場自体は自社で持っていませんが、ユニクロと共に育ってきた工場が海外には多く、生産現場から最後の店舗に到るまで、一気通貫で自社の意向を反映できる企業という意味で、SPAという業態はやはり素晴らしいです。この業態こそサプライチェーン思考が効果的に活かせて、取れ高も一番大きい。コスト削減効果としての取れ高も一番大きいでしょうし、何よりも、守りだけでなく攻めとしての取れ高も非常に大きい。つまり、攻めとしてのロジスティクス、サプライチェーンという考え方がとても活きる業態だと思います。

秋葉:大和ハウスグループの主力の事業は、建物を建築して提供することです。サプライチェーンの枠組みではないかもしれませんが、建築としてのDX、デジタルコンストラクションは、業界としても、建物を建てる企業グループとしても実現しなければなりません。デジタルコンストラクションと聞いて皆が何を思い浮かべるかというと、建築現場です。建築現場のデジタル化、自動化というところにいくわけです。しかし、建築現場でデジタル化、自動化を行うためには、まずは現場に物を送るというところをきちんとやる必要があるわけです。そこを無視して、一体何ができるでしょうか。
一方で、ロジスティクスへの追い風もあります。エネルギー消費量をどうやって抑えるか。今や、この課題に取り組まない企業はマイナス評価になります。取り組んでいることがプラスではなく、取り組んで当たり前になっているのです。建築現場、あるいは建った後に消費されるエネルギーも合わせて、エネルギー消費量を抑えて現場に物を送ることに対して取り組みをしない企業はマイナスの評価をされてしまうということです。私の周りにいる人たちはそれを理解していますが、残念なことに理解がまだ十分ではない人たちもいます。先ほど神保さんがおっしゃったように、「売上」を上げる事業本部、事業エリアが評価される評価軸に加えて、別の評価軸も考えていく必要があると思っています。長期のビジョンとして、すべてをセットでやらなければだめだと思っています。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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