大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

DXアニュアルレポート2023

バックオフィスのデジタル化

データ活用力強化

目的、ビジョン

データ活用の目的はビジネス貢献です。ビジネスへの貢献を最大化するためには、事業活動の最前線である現場においてどれだけデータ活用が浸透しているかが重要です。高度なデータ分析スキルやIT専門要員しか扱えないデータ基盤ではありません。現場を中心に幅広くデータリテラシーを習得し、最前線でデータを武器として戦える装備を整え、データを必要とする人が、必要なデータを必要な時に、安全に利用できる環境を実現することこそ、データ活用によるビジネス貢献につながると考えています。

ビジネスの当事者が自律的に「目的を達成するためにデータをどのように活用するかを発想し、自ら実践していく」状態を『データ活用の民主化』と定義します。それを実現するため、第7次IT中期計画では人・仕組み・データそのものを包括的に取り込んだ施策を展開していきます。

図1:「データ活用力」の定義

取り組みの全体像

データ活用というとビッグデータを使った機械学習やAIソリューションをイメージされる方も多いと思いますが、それだけではありません。日常の仕事が業務手順視点で組立てられているなら、視点をデータ中心に見直すだけでムダやムラが明らかになりますし、個人の工夫で行われているExcelワークもチームでデータの価値を享受するにはという視点にたてば違ったアプローチがとれます。データ活用力強化の取り組みでは大きく3つのアプローチを描いています。

図2:データ活用の3つのアプローチ

日常的に現場でデータが活用される状態は、現場のデータ活用力を向上させる施策だけでは実現できません。必要な時に必要なデータが利用できる、安心安全に利用できるという前提が必要ですし、そもそもデータが集積され利用可能なデータ資産として整理されていなければなりません。
正しいデータを集めるところから、ビジネス成果につながるデータ活用が当たり前になる状況を生み出すまで、何層もの施策を積み重ねることによって徐々に理想の状態に近づけていくことができます。

図3:取組みの全体像

昨今の主な取り組み

(1)統合データ基盤

社内に存在するデータ資産を円滑かつ安全に利用するためのデータ基盤を整備しています。これによってシステム境界をこえるデータ流通に統一ルールを導入し、データの流れをガラス張りにします。 データ活用の観点ではオリジナルデータを保持している個々の業務システムは基本的に業務トランザクションを捌くことに最適化されたデータの持ち方をしています。システムにとっては最適ですが、データを活用したい人から見ると非常にわかりにくく、適した形ではありません。この基盤にデータを活用したい人の視点で使いやすい形に整形したデータセットを用意し、現場でのデータ活用を促進する仕組みを提供します。
データ活用における当社の現在位置はまだ本格的なデータ“分析”基盤を必要とするステージまで到達していません。統合データ基盤はデータを安全に、効率的に、使いやすい環境を下支えする位置づけとなります。
現時点で主要なデータ連携プロトコルはリリースされており、新規ソリューションから順次適用を開始しています。2024年度までに初期開発フェーズを完了させ、プロジェクト体制から定常運用体制への移行を完了させる予定です。

図4:統合データ基盤の価値と波及効果

(2)データカタログ

社内に存在するデータ資産の所在を明らかにし、データを必要とする人が、必要なデータの有無を知ることができる状態を目指しています。これによりデータ活用のスピード向上を図るとともに、現場からデータを活用した新たな発想がでてくる土壌を作ります。現場でのデータ活用を阻害する大きな要因の一つが「どんなデータがあるのかわからない」ことです。常に誰かに聞かないとわからない状況では最初の一歩がなかなか出ません。データを見える化することでそのハードルを下げ、現場とデータの距離感を縮められると考えています。
情報システム部門、建設DX推進部とIT/デジタル施策の推進部門に対しては展開を完了しています。今後は現場部門に順次展開していきますが、むしろここからが本番だと考えています。

図5:データカタログによって実現すること

(3)現場でのデータ活用 伴走支援

『データ活用の民主化』を実現する一つのアプローチとして、事業部門を主体としたデータ活用の実践に取り組んでいます。具体的には専門知識がなくても利用可能なデータ分析プラットフォームを展開し、事業部門と情報システム部門が一つのチームとなり、掲げたテーマに対してデータを活用した仮説ー検証サイクルを回しています。現時点ではまだ情報システム部門からのしっかりとした伴走支援が必要なレベルですが、段階的に伴走支援の関与度合いを減らしていき、最終的には事業部門のみで完全に自走できる状態を目指しています。

効果、今後の展開

現場でのデータ活用伴走支援活動を通じていくつかの取り組みテーマで仮説構築→データ分析→アクション実施→フィードバックのサイクルが回り始めました。成果というにはあまりにも小さな一歩ではありますが、それでも前に進みだしたという事実が重要です。小さくても目に見える実績を積み重ねていくことで点が線になり、やがて面になるような大きな成果につながっていきます。

今後より一層の進展を阻害する大きな問題の一つが全社的なデータリテラシーの低さです。 伴走支援活動を通して直接協業する相手には必要なレクチャーを行ってきましたが、裾野を広げスピードを上げていくためには全体の底上げが急務になります。当社ではこれまでも全社員を対象としたDX研修などを実施してきましたが、データ活用をテーマとした同じような施策が必要だと考えています。

統合データ基盤やデータカタログについては現時点では仕組み先行となっています。業務要件を具現化する業務システムと異なり、全体の下支えをする仕組みは直接定量的な評価は難しいです。
ただ、下支えする仕組みが完成すると今までやりたくてもできなかったことが実現できるようになります。本質的な狙いはIT/デジタル施策の推進組織を楽にすることではなく、現場でのデータ活用促進にいかに寄与するかというところにあります。上述した現場でのデータ活用が軌道にのり、活発になるほど下支えする仕組みの価値も高まります。現場での取組みと支える仕組みは両輪となるため、取組みの進展に合わせて両方の視点で評価していくことになります。

DXの鍵の一つは“データを上手く使える力”

当社は一軒の家、一棟の建物といった分かりやすいリアルを扱い、アナログな競争環境で強みを発揮してきた会社です。一方でデジタルへの感性は鈍く、データを尊重する意識も組織としてまだまだ希薄です。数年前までは業界全体で同じ状況でしたが、この2~3年の間に各社のデジタルに対する向き合い方に明確な差が見られるようになりました。DXは単なるテクノロジー競争ではなく、一旦遅れをとるとそこから挽回するのは至難です。正しいデータの蓄積、データ活用しやすい環境の整備、データを活用できる人財の育成を進め、デジタルでも勝てる組織を目指します。

本社情報システム部データ分析室 室長 八木 希仁

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