バリューチェーンのデジタル化
建設業界のリーダーとして、DXの推進により働く人にとって
さらに魅力的な仕事となるよう、
建設現場における働き方の抜本的改革に挑戦しています
デジタルと人の融合で「建設業の働き方改革」
当社は、将来の建設業界の技術者・技能者の減少を課題と捉え、2019年より「現場の無人化・省人化」をキーワードにデジタルコンストラクションプロジェクトを発足させました。第6次中期経営計画終了時の2021年度末には、建設プロセスのデジタル化推進により、生産性を30%向上させることを数値目標としています。
建設業界のリーダーとして、DXの推進により働く人にとって魅力的な仕事となるよう、建設現場における働き方の抜本的改革に挑戦していきます。また、かつての“3K”のイメージを変え、将来の建設業界を担う若い世代が「働きたい」「働きがいがある」現場を目指し、デジタルコンストラクションプロジェクトを通じて、その在り方を追求していきます。
当社では、現場関係者の施工情報共有や業務の効率化を目的として、施工担当者全員にスマートフォンやタブレットを配布し、全国の施工現場約2,700件に定点カメラを設置しています。また、住宅事業本部では全国の地区母店12カ所にスマートコントロールセンター(SCC)を設置し、各地区の現場状況の確認や災害時の指令拠点として活用しています。
2021年5月より、住宅事業本部・賃貸住宅事業本部で施工現場ごとの情報を一元化した「物件ポータルサイト」の運用を開始しました。このサイトでは、施工現場ごとの「図面」、施工現場に設置した「カメラ画像」、関係者間の「チャット」などのデジタル情報を一元化します。「管理者」「施工担当者」「協力会社」などの現場関係者は離れた場所から現場映像を共有します。さらに、スマートフォンやタブレットを利用することで、「打ち合わせ」「指示」「確認」がいつでも・どこからでも可能になりました。また、図面変更や安全などに関する重要な通知を関係者と共有し、情報の共有漏れや遅延を防いでいます。
定点カメラに関しても、これまでは各社のクラウドサービス単位で閲覧していましたが、データ連携を行い、複数の会社の現場映像を一つのマルチ画面で確認できる「統合ビデオ管理システム」の運用を始めました。これにより、用途に関わらず全国の施工現場の映像が集約・保存され、管理者・施工担当者・協力会社は統一された画面確認が可能になりました。(図1)
図1:統合ビデオ管理システムイメージ
これらのスマートコントロール基盤を活用することで、これまで以上に施工現場での業務効率や安全性の向上が図れるようになりました。例えば、複数の施工現場を兼任している戸建住宅の施工担当者は、すべての朝礼に参加することが物理的に困難でした。そのため、現場の職長に朝礼の指揮を依頼したり、随時連絡を取ったりすることで代用していました。しかし、遠隔にある複数の現場をオンラインでつなぐことで、現場と同時に朝礼を実施し、当社からの安全指示や作業間連絡調整など災害防止に向けた安全巡視事項の周知ができるようになりました。
また、これまでは本社部門にいる安全管理者の施工現場巡視による安全教育は、施工現場までの移動の負担によって実施時期や回数に制限がありました。しかし、カメラ映像による遠隔臨場によって離れた場所からでもペーパーレスで安全指導を行えるようになり、地方の施工現場と本社部門をつないだ「チームでの安全管理」が可能になりました。(図2)
台風などの自然災害が予想されるエリアに対しては、複数の施工現場の状況をカメラ映像で確認して不安全箇所を予測し、遠隔から物件ポータルサイトを通じて確認指示を出して関係者で共有します。また、映像記録や指示事項を保存することで、後日、安全確認の検証が可能になり、さらに適切な安全対策実施につなげています。今後は、気象庁や行政のハザードマップなどのオープンデータや蓄積された過去の災害被害データを連携させることで、自然災害予想エリアにある施工現場に対し、未然防止の観点からより精度の高い安全指示・対策の実施を目指します。
図2:安全管理でのスマートコントロール環境の活用イメージ
これまで施工現場の管理業務には勘と経験に基づく判断が多く存在し、適切な判断を下すためには多くの経験を積むか、経験豊富な技術者に確認をすることが必要でした。しかし、過去や現在稼働している施工現場情報を蓄積し、「ダッシュボード」による見える化・分析をすることで、環境変化に対応したスピード感のある判断を行えるようになりました。
例えば、施工現場で実施する朝礼時に、これまでの施工現場での災害情報をもとに、当日の工程や気象状況などに応じた「起こりやすい災害」を提示して、より的確な注意喚起を行っています。また、過去の現場での不足材データを収集し、「建物商品」「部品材」「原因」「起因部門別」などで分析し、その分析に基づいて課題解決に向けた施策立案や日々の業務確認を行っています。
今後、まずは「工程」「安全」「品質」「コスト」「環境」など、これまで散在している情報を一元的に把握可能にして、ものづくりのプロセスにおける生産性向上を目指します。最終的には、施工現場情報だけではなく建物データや経営データとも連携させ、ものづくりの現場と経営をリアルタイムに可視化し、データに基づく経営判断のサポートができる仕組みづくりを目指します。(図3)
図3:ダッシュボードを活用した施工現場の管理
デジタルコンストラクションプロジェクトでは、将来の技能者不足およびさらなる安全遵守や建物の品質向上を目指して、施工作業での積極的なロボティクスやIoT機器の活用を進めています。例えば掘削作業を行う際に、掘削深度の確認を人の目で行うことには危険が伴い、正確な掘削作業を行うためにはオペレーターの熟練した技術が必要でした。しかし、マシンガイダンスを活用することで位置情報とBIM情報を連携させ、オペレーターはモニター画面のガイドを確認しながら重機を操作できるため、熟練した技術が不要になります。今後はさらに重機を制御することで、計画通りの掘削深度で作業が自動的に行われ、施工作業の品質をデジタルデータで取得することが可能になります。また、そのデータをBIMに戻し、AIやビックデータ解析などにより維持・継続していきます。
デジタルコンストラクションプロジェクトでは、企画~施工現場から得られるさまざまな情報を収集・蓄積し、市場データや経営データと連携させてSCCで経営判断をしていく未来を描いています。
現在のステップ1では、設計BIMの完成、施工現場でのデジタルデータの収集、カメラを用いたSCCでの遠隔管理という位置にいます。ステップ2になるとそれらのデータを連携させ、ステップ3ではデータを融合させて分析・活用につなげます。
当社は今後もデジタルデータの融合による事業変革を目指し、建設業におけるDXを実現していきます。(図4)
図4:未来の建設現場イメージ
(*1)JIT:ジャストインタイム