バックオフィスのデジタル化
当社では、「働き方改革」の取り組みによる長時間労働の削減や、より付加価値の高い業務へのリソースのシフト、ワークライフバランスの確立など、定型的で負荷の高い業務の自動化を目的に、RPA(*1)により従来の業務品質や効率を高め、事業の競争力強化に戦力的に活用することをビジョンとし、RPAへの取り組みを開始しました。全世界で猛威を振るい、私たちの生活や働き方に大きな影響を及ぼした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現により、テレワークが加速し、RPAを活用する必要性は一段と高まっています。
2020年には、出社を前提としない業務フローを確立させるなかで、RPAによって社内に残る多くの手作業の業務をデジタル化しました。時間や場所にとらわれない柔軟な新しい働き方の実現に向け、これまで以上にガバナンスを効かせながら、RPAの継続的な業務改善とさらなる生産性の向上に取り組んでいきます。(図1)
(*1)RPA(Robotic Process Automation):これまで人間がコンピュータ上で行っている定型作業をロボットで自動化する仕組み
図1:RPAロードマップ
当社では2016年からパイロット運用を始め、2017年7月にはガバナンス強化のため情報システム部内にRPAチームを設置し、情報システム部員の内製によるロボット開発を行ってきました。管理部門の定型間接業務代行ロボットや、情報システム部員の運用負荷低減ロボットをはじめ、その後は営業支援ロボット、最近では工場ものづくり部門やコンプライアンス強化支援のロボットなど、製作したロボット数は累計300体となっています。また、2020年からはグループ会社への展開を進め、当社だけではなく、グループ会社においてもRPAによるメリットを享受し、当社グループの業務効率化と生産性向上にも取り組んでいます。
情報システム部員の内製によるロボット開発は、開発を行う情報システム部門にとどまらず、グループ会社も含めた利用ユーザー部門と協働する開発活動とRPA導入後の継続的改善により、当社のDXデジタル人財育成にも一歩踏み出しています。今後もRPA内製開発のノウハウとナレッジを活かし、ガバナンスを効かせながら当社グループ全体の業務効率化や生産性向上を展開していきます。(図2)
図2:RPA導入と継続的改善
2018年10月にRPA開発部員を専任化し、個人情報や機密情報の取り扱いなど、よりセキュリティリスクに考慮した開発体制の強化と開発工期の短縮を進めてきました。2019年3月には、内製開発を進めるなかで気付いた脆弱性や開発運用上の課題をもとに、当社グループでのロボット開発運用の標準となる「大和ハウスRPAハンドブック」を第2版に改訂しました。その展開範囲をグループ会社にまで広げ、開発したロボット事例や開発指針、セキュリティリスクに対する注意点を記載し、さらなるロボットの品質向上に努めています。
また、2019年7月に開催した当社グループ向けカンファレンス「RPAサミット」後、当社グループへのロボット派遣の仕組みを構築し、2020年から本格的にグループ展開を始動しています。グループ会社が単独でRPAを導入する際の技術的やコスト面での課題を解決し、内製化によりこれまで蓄積した経験とノウハウを活用。ロボットが稼働した時間をロボットの時給と掛け合わせ、ロボットが働いた時間だけ費用を負担する従量課金サービスを実現しました。現在、グループ会社に対する支援・開発は6社となり、合計18体が稼働しています。今後もRPA内製開発のノウハウとナレッジを活かし、当社だけではなくグループ全体の業務効率化と生産性向上を展開していきます。
今後は引き続きロードマップに沿って、RPAとAIなど他のITテクノロジーとの組み合わせによるRPAの高度化を進めていきます。その代表的な事例であるRPAとAI-OCR(*2)の連携では、パソコンを使った作業の自動化に加え、文字データを自動で読み取りデジタルデータ化することが可能になりました。OCRと組み合わせることで、紙帳票からデータを抽出し、データ入力・集計・加工・アウトプットといった一連の業務を自動化しています。さらに、AIを搭載したAI-OCRは、文字認識率の向上や非定型帳票への対応などOCRの精度が大幅に向上しており、より一層の作業効率アップが期待できます。
RPAは、これまで人が行っていた定型業務の自動化が対象範囲でしたが、最近では基幹システムとSaaS(*3)間、あるいは異なるSaaS間でのデータ連携でも活用が広がっています。当社でも業務基幹システムとSaaSとの連携ロボットが開発の主体となってきており、RPAは個々のラストワンマイル(*4)の業務を自動化するだけではなく、AIやクラウドサービスと連携して、バリューチェーン全体の自動化を可能にするまで進化しています。
また、スピード感が求められるDX推進活動は、内製によるRPA開発の「関係者間の対話が社内中心であるため、コミュニケーションを迅速に行える」、「業務に精通した担当者と対話しながら開発を行える」、「開発のノウハウを集約・蓄積できる」といった利点を活かすことで効率的に進められます。人財育成の観点においても、開発者だけではなく、携わった利用ユーザーのデジタル人財育成にもつながっています。
さらに2021年からはCoE(統制部隊)(*5)とデジタルファクトリー(開発・運用部隊)を分けることで、さらなる開発スピードの向上に挑戦しています。
(*2)AI-OCR(Artificial Intelligence Optical Character Recognition):AI技術を取り入れた光学式文字読み取り装置
(*3)SaaS(Software as a Service):クラウドサーバにあるソフトウェアをインターネットを経由して利用できるサービス
(*4)ラストワンマイル:顧客にモノ・サービスが到達する最後の接点
(*5)CoE(Center of Excellence): ベストプラクティスとツールが配備された専門組織のこと
図3:RPA導入によって得られた効果額と業務削減時間
業務効率化とDX推進はRPAにお任せください
2017年の夏頃からRPAプロジェクトに参画し、RPAの試作を何体も作り、内製による短期間の開発が可能であることや、導入効果を定量で見える化できることなど、その有効性を繰り返し伝え続け、ようやく2020年に専任化の体制構築を実現しました。
私自身は開発経験がありませんが、ユーザーにより近い存在として、ユーザーと情報システム部の架け橋になれるよう、ユーザーとのコミュニケーションを大切にしながら、メンバーと共にRPAの推進展開に携わってきました。内製での強みを活かし、迅速かつ人と人とのつながりを大切にしながら、これからもユーザーにRPAの価値を提供し続けていきたいと思います。