バリューチェーンのデジタル化
当社は、建設プロセスを単にデジタル化することから今一歩ふみ込み、BIM(*1)情報を高度に利活用することで、建設プロセスの改革を実現すること、すなわち「建設DX」を実現し、2055年にグループ売上高10兆円を達成するための技術基盤を構築することを目的としています。
その第一歩として現在、製品開発から営業・設計・施工・維持管理までの情報が一元化されたBIMをプラットフォームとするデジタル基盤「D’s BIM」の構築を進めています。(図1)
図1:全社BIM・デジタル戦略
(*1)BIM:Building Information Modelingの略称
D’s BIM基盤構築の取り組みにあたり、①事業ごとにバラバラだったCADシステムをグローバルに対応した「Autodesk® Revit®(*2)」に統一すること、②各事業で別々に管理していた部品データベースを統合すること、③特に住宅での取り組みとして、お客さま1邸1邸のCADデータを同期した邸別建物データベースで一元化を図り、時間とともに不規則に変遷する工程間のデータの齟齬をなくすことなどの施策を進めています。
①のベースとなる汎用CADシステムの統一では、コンビネーションハウジングなど当社の強みを活かした共同提案や、今後不足することが予想される技術人財の確保、業務シェアが可能なシステム環境の確立を狙いとしています。(図2)
図2:統一CADシステム環境図
(*2)Autodesk、Revit は、米国および/またはその他の国々における、Autodesk, Inc.、その子会社、関連会社の登録商標または商標です。
住宅系事業では、全社的に実施している建設DXと歩調を合わせて活動しています。その基盤となるBIMデータを顧客情報およびものづくり情報と一元化することで、BIMデータの高度活用を実現し、競争優位性の確立を目指しています。
BIM導入前には前工程終了後に次工程へ情報伝達を繰り返す流れ作業方式でやり取りしていた仕様データを邸別データベースに一元管理することで、情報の信頼性を確保して高度活用が行える環境を構築していましたが、CADとの整合性をとるために「同期処理」が必要不可欠となっていました。
現在はBIMに対応した3次元CAD(Revit)をベースとして、住宅・集合それぞれの商品特長に対応したカスタマイズを実装し、全国展開しています。(住宅:DiMAS-J、集合:DiMAS-S) カスタマイズは、各種部品等の入力作業を補助する仕組みや部品の自動生成機能、法規チェックや構造計算結果の適正なフィードバックによる自動設計などに結び付けるための機能強化が主となっています。
また、 BIMの運用により設計情報のフロントローディングが起こり、企画設計部門における技術者の負荷増加が新たな問題となっています。この状態を解決するため、軽快な動作で高品質なプレゼンが可能なプレゼンCADツール(DiPres)を導入しました。これにより企画設計の前捌きができ、正確な見積もりや構造計算の必要なお客さまの物件に絞ってBIM化が可能となり、技術者の負荷低減を図ることができます。さらにプレゼンCADツールのデータをBIMに連携させることで、より一層の運用効率化を実現しています。
図3:バリューチェーン統合・改革 5年後に目指す姿
戸建住宅の取り組みとして、ビッグデータ(過去契約データ)を活用した売れ筋要素を盛り込んだ「ファストプラン」の運用を開始しました。過去に契約していただいたお客さまが実際に建築されたプランを分析し、売れ筋要素を盛り込んだプランを作成。そのプランをハイクオリティパース(図4)やWebVR(パノラマ)・感動動画でプレゼンテーションできます。これらを初期提案で活用することで、プラン合意までの時間短縮や初期段階での提案差異化を図り、決定率の向上および契約拡大につなげることを目的としています。
図4:ハイクオリティパース(内観)の例
契約後は、このデータをRevitに連動することで、DiMAS-Jの入力作業低減とデータ精度の確保を図ります。また、カラーシミュレーションやDIGボード(*3)への自動連携を行い、お客さまとの色決め作業が飛躍的に効率化できます。(図5)
(*3)DIGボード:内装を主とした顧客提案ボード(DIG:ダイワハウス・インテリア・ガイド)
図5:業務の流れとシステムフロー
D’s BIMでは、構造設計にて配置した柱・梁などの主要部材を、3D空間上に配置させたうえで各部材の接合状態を把握します。そして、商品開発段階で設計したルールに従って結合するための部材を発生させ、主要部材と統合することで部品を生成する仕組み(3D自動部品生成)を考案し、実現させています。これにより、管理品目点数が大幅に削減できるだけではなく、別注品の削減にも寄与します。(図6)
また、鉄骨部品と企画設計情報の重ね合わせが仮想3次元空間上でできるため、さまざまな干渉チェックが可能になります。
図6:3Dによる一棟組上げシミュレーション
図7:BIMにおける既存展開ツールの位置付け
国土交通省の令和3年度BIMモデル事業【先導事業者型】として「業務効率及び発注者メリットを最大限に創出する【役に立つBIM】の効果検証」が採択され(*4)、以下の検証を行いました。
全国にチェーン施設を展開する建物についてBIMモデルを標準化し、標準作成、提案などのフェーズにおける発注者メリットについて検証を行いました。(図8)
当社はこれまで、土地の有効活用を希望する土地オーナー様と新しい事業展開のための拠点を求めるテナント企業様、双方のニーズを結び付ける「LOCシステム」を展開してきました。その中で建物を標準化しているテナント企業様も多く、全体工期の短縮など土地オーナー様テナント企業様双方にとって大きなメリットが期待されます。
(*4)本モデル事業は大和ハウス工業株式会社が代表者として株式会社フジタとともに取り組んでいます。
図8:全国チェーン施設の標準化による発注者メリットの検証
ものづくりの効率化から事業DXへ
図面と仕様情報の同期を取ることで手戻りや失敗コストを削減する「邸別DB」を基盤として、技術部門が中心となってSCM改革を目指した「一気通貫BIMプロジェクト」から、さらに事業本部が主体となってフロントローディングに取り組み、VR技術やビッグデータ分析を駆使するデータドリブンな営業改革へつなげるDXプロジェクトへと進化してきました。
真の事業DXを実現するためには、単にシステム作りだけではなく、そのベースとなる設計要項等のデジタル化や、それらを使いこなすDX人財の育成も必要不可欠であり、それらに向けた取り組みもスタートしました。
まだ課題も多く試行錯誤の連続ですが、関係者全員一丸となって一歩一歩確実に進んでいきたいと思います。