脱炭素社会と不動産(6)コンパクトシティ
公開日:2023/05/31
これまでの都市再開発や地域の町づくりは、人口流入を前提とした拡散型が大半を占めていました。しかしこうした都市・地域構造の形成は膨大なエネルギーを必要とするためCO2排出量の観点から見れば、脱炭素社会の実現には必ずしもプラスにはなりません。そこで都市をコンパクト化してCO2を抑制し、少子高齢化に伴う医療・介護ニーズなど公的サービスを行き渡らせるコンパクトシティが注目を集めています。
高齢化の進展でコンパクトシティに注目
コンパクトシティは、建物やインフラを集中させ、徒歩や自転車、公共交通機関などの交通手段を利用しやすくして車の移動を減らし、都市の持続可能性を高めるとともに、都市の魅力を高めて社会的・経済的な利益を生み出すことが期待されています。
よく似た言葉にスマートシティがあります。スマートシティは、都市のインフラ設備やサービスを最新の技術を活用して効率化し、住民の生活の質を向上させることを目的としています。ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)を利用して交通、エネルギー、照明など都市のインフラを自動制御したり、市民サービスを提供したりします。都市の持続可能性を高めるだけでなく、住民の生活の利便性や快適さを向上させる狙いがあります。
コンパクトシティが注目されるようになった背景には、大都市圏における高齢化の進展が急速に進んでいることがあります。国土交通省が2015年に発表した資料「コンパクトシティの形成に向けて」によると、東京圏における高齢者人口(85歳以上)は2010年の段階で79万人ですが、2040年には270万人と240%の増加率を予測しています。名古屋圏、関西圏も同様の予測が出ています。町田市では、2000年は高齢者2人を生産年齢10人で支えていましたが、2040年には高齢者2人を生産年齢3人で支える状況になると予測しています。
図1:大都市における高齢者人口の推移(2010年⇒2040年)
※東京圏:東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県
※名古屋圏:愛知県、岐阜県、三重県
※大阪圏:大阪府、京都府、兵庫県、奈良県
出典:国土交通省「コンパクトシティの形成に向けて」(2015年3月)
図2:町田市の人口構成の変化(推計)
出典:「Grand Design to 2030 MACHIDA」(町田市未来づくり研究所からの提言)
都市部での高齢化の進展は、医療・介護の需要増を生み、医療・福祉サービスなどが満足に提供できなくなる懸念があるのです。こうした状況下では在宅医療など地域包括ケアを実現して医療・福祉の望ましい配置を進めていくことが求められます。既に都市の郊外で暮らす人々を別の地域に移動・移住させることは難しく、また強制できるものではありません。そこで高齢者でも移動が可能な交通手段を再整備し、一定の地域にスーパーや病院などのサービス提供施設を集約させる都市開発が注目を集めているのです。
都市経営と交通網再整備
大都市の周辺にある市町村では、高齢化で生活環境が大きく変わっています。都心への通勤圏内にあるベッドタウン地域も、いわゆる団塊の世代のリタイアなど時代が移り変わり、地域の活力が低下して百貨店やスーパーの撤退が増えたり、バス路線の縮小・廃止などで公共サービス拠点へのアクセスが不便になったりしている地域があります。
こうした地域での高齢化は税収の落ち込みも顕著で、地方財政が厳しくなれば、老朽化したインフラ施設の改修も難しくなり、来場者の減少で商業施設も不振で撤退し、移動手段は自動車に依存して渋滞が慢性化します。
従来の公共サービスを提供することは困難になるので、都市のコンパクト化でサービス拠点を絞り込み、重要拠点を除いて既存の施設は閉鎖し効率化を図ります。地域に点在する市民サービスセンターのような個所を増やしたりして住民票発行など公共サービスの代替施設を増やします。こうして自治体財政の身の丈に合った公共サービスを維持していくのです。
交通網の再整備も重要な問題です。公共サービスの拠点を絞るので、アクセスの整備が不可欠です。縮小・廃止になったバスの復活は厳しいので、駅前や病院などへのルートには一定の時間帯を設けてバス優先レーンを導入したり、スマートフォンで呼び出すことができるオンデマンドバスを採用したりするなど試みが各地で広がっています。
環境改善だが資産価値の変化も
都市のコンパクト化では、バス路線の再整備や優先レーンの導入などによって自動車の利用が抑制されるので、排気ガスによる大気汚染の改善が期待できます。また各種のインフラ設備は重点個所に絞り込んで新築・改築や改修するので、エネルギー消費も従来に比べて減少します。また要所に緑地を設けたり農地を保全したりすることでより良い自然環境を維持することが可能になります。
コンパクトシティは、駅前など都市の中心部と役所周辺の公共サービス提供拠点を公共交通網で結ぶのが基本です。居住地域と環境保全の地域は区分されます。ただ交通アクセスの点で、どうしてもサービス拠点からの距離の格差が生まれます。このため拠点から遠い地区の不動産価値は相対的に低下することは避けられません。各自治体ではコンパクトシティ化のための都市再生計画プランを企画・立案して実行に移すべく動いていますが、地域住民の合意形成を含め、さまざまな課題が残っていると言えそうです。