脱炭素社会と不動産(1)DXからGXへ
公開日:2022/12/27
世界はいま、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにして地球温暖化を抑制する脱炭素社会の実現を目指しています。不動産業界では気候変動がもたらすリスクに備えると同時にビジネスチャンスとして活用することが重要との認識が広がっています。脱炭素社会における不動産及び不動産業界の役割や課題について連載していきます。
脱炭素社会とカーボンニュートラル
2011年の東日本大震災以降、度重なる自然災害に対して私たちは敏感になっています。台風の接近・上陸で河川の氾濫や土砂崩れが頻発する一方、猛暑や冷夏、暖冬などの異常気象も珍しくありません。こうした現象は温室効果ガス排出量の増加によって生まれる地球温暖化が大きな要因の一つと考えられています。
地球の平均気温が上昇すると海や地面から蒸発する水分が増加し、気温が1度上がると水蒸気の量は約7%増えるといわれています。水蒸気が増えれば雨量が増すので豪雨の発生が高まります。温室効果ガスのうち特に温暖化の影響が大きいのが二酸化炭素。石油や石炭などの火力を使うことで大量に放出されます。
わが国は2020年に「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という、カーボンニュートラル宣言を表明しました。地球温暖化防止の世界的な対策は1990年代から講じられてきましたが、国内ではこの政策目標が環境対策の指標になっている感があります。「脱炭素社会」は、地球温暖化の最大要因と考えられている二酸化炭素の排出量ゼロを実現した社会を指しますが、1997年の「京都議定書」が採択された時代には排出量ゼロは現実的ではなく、低く抑えるという意味から「低炭素社会」と呼ばれていました。
カーボンニュートラルは、二酸化炭素の「排出」と「吸収」によって両者の均衡を保つことを意味します。排出は石油や石炭などの化石燃料が燃える際に二酸化炭素が発生することを指しています。吸収は、二酸化炭素を吸収して酸素を作り出す植物の光合成を指します。排出した二酸化炭素を森林保全や植林活動を展開することで二酸化炭素を吸収して排出を抑制する。排出と吸収によって二酸化炭素量の均衡を保つことがカーボンニュートラルの取り組みです。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは何か?
地球温暖化への対策を展開することで社会改革を実現することをGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ぶようになりました。デジタルの力で企業の経営戦略を抜本的に改革することをDX(デジタルトランスフォーメーション)をといいますが、GXはその対象を企業レベルから国や世界全体に広げ、広範な環境改善によって経済社会システムを改革していくことです。具体的には環境破壊や異常気象による自然災害や、いわゆるプラスチックごみなど環境問題を先進的な技術で解決・改善し、持続可能な社会を実現する取り組みです。
GXが注目される背景には、以下の3点があります。
- (1)環境意識の高まり
- (2)米中2大国の方針転換
- (3)再エネ事業の収益性向上
大規模な自然災害や異常気象の発生は決して自然現象ではなく、温暖化など人為的な気候変動が大きな要因との認識が人々の間で広まっています。生活レベルではプラスチックごみの削減でスーパーのポリ袋有料化が浸透し、多くの庶民はマイバックなどで対応するなどプラごみ削減に賛同しています。ESG(環境・社会・統治)やSDGs(持続可能な開発目標)などの新潮流が定着し、多くの人々が経済発展と環境保護を両立させる必要性を感じているのです。
二酸化炭素の排出量で世界2位のアメリカはトランプ政権(2017年~2021年)時代にパリ協定から離脱、同1位の中国も経済発展を優先させて排出量抑制に消極的でした。しかし米バイデン大統領は就任後の2021年2月、パリ協定に正式復帰。中国も2060年までのカーボンニュートラル達成を発表しました。さらに技術の進歩で再生エネルギーの導入コストが低減したことで、化石燃料を大量消費する火力エネルギーの代替手段として可能性が広がりました。再エネはクリーンエネルギーながら生産コストが高く、導入機運が高まらなかったのですが、導入のネックとなっていたコスト問題に解決の道筋が付いたこともGXが注目される理由になったといわれています。
国策になったGX、議論の場と実行会議
経済産業省はGXを実行するために2022年2月、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて参画企業や金融機関、大学などが一定になって議論する「GXリーグ」の基本構想を発表。3月末時点で440社の企業が集まり、2023年4月から議論を開始します。
図:GXリーグ基本構想
出典:経済産業省 産業技術環境局 環境経済室(2022年2月2日)
また同年7月、内閣官房に「GX実行会議」を設置。国内でのエネルギー安定供給の再構築とそのために必要な方策を探り、脱炭素社会実現のための10年のロードマップ作成の議論を開始しました。不動産業界でも業界団体などが脱炭素社会実現のための長期ビジョンを掲げて積極的に取り組んでいます。