脱炭素社会と不動産(5)防災・減災
公開日:2023/04/28
世界でも有数の地震国であるわが国では近年、台風上陸による集中豪雨や暴風など、地震だけでなく多くの自然災害が頻発しています。災害復旧時には大規模発電所からのエネルギー供給が断たれる一方、インフラ再建の復旧工事では多くの建築廃材が出て、撤去に多くのエネルギーを費やしCO2を排出します。脱炭素社会実現のための防災・減災を考えます。
不動産業界が担う防災の役割とは?
国連の調査によれば、1980年から2000年にかけての地震(マグニチュード5.5以上)発生回数でわが国は中国、インドネシア、イランに次いで第4位。2011年の東日本大震災以降も2014年の長野地震(M6.7)、2016年の熊本地震(M6.5)、2018年の北海道での地震(M6.7)など大地震が頻発しています。近年は地震だけなく集中豪雨や暴風による自然災害が毎年のように起きています。
地震や津波、台風などの自然災害は土砂崩れや河川・橋梁の決壊を生み、私たちの暮らしに甚大な被害を与えます。そして災害復旧のための建設工事は多くのエネルギーを消費します。脱炭素社会の実現に貢献するため、不動産業界が担うべき防災・減災の役割には、どんなことがあるのでしょうか。
まず、建物の耐震性や防火性を高めるための技術開発や普及に取り組むことが求められます。例えば「揺れ」のエネルギーを吸収して地震の被害を最小化する「トグル制震構法」や、火の通り道となる床や壁、天井などの枠組みで空気の流れを遮断して上層階への延焼を防止する「ファイアーストップ構造」などの技術があります。
地盤調査の強化も重要です。地盤の弱いところには建物を建てないというのが基本原則ですが、地震や洪水などの自然災害は地盤の状態によって影響を受けることが多いため、地盤調査に基づいた建築物の設計や土地利用の計画を行えば、地震や洪水などの災害リスクを低減することができます。地質調査は近年、レーザーを利用した3D計測やドローンを使っての高精度な空中写真や地形データを収集するデジタル化が進んでいます。
分散型エネルギーシステムの構築
地震や集中豪雨などの自然災害が多発するわが国では、自立した分散型のエネルギーシステム構築が喫緊の課題といわれています。大規模な災害が起きると大規模停電(ブラックアウト)が起きたり、送電線が故障したり、道路や橋梁が寸断されたりして補給路が断たれるなどエネルギーの安定供給が困難になるからです。
分散型エネルギーシステムは、地域に存在している太陽光や風力などの再生エネルギー設備、家庭においては蓄電池などがその代表例です。こうした分散型エネルギーは単体では性能に限界があり、広域に供給するエネルギーシステムには貢献できません。しかし一体的に運用できれば力を発揮することができるといわれています。
分散型エネルギーシステムで注目されているのは、コージェネレーションシステム(コジェネ)。2つのエネルギーを同時に生産し供給する仕組みです。現在は「熱電併給システム」が主流になっています。発電装置で電気をつくり、発電の際に排出される熱を回収して給油や給湯などに利用します。発電所で生まれる熱エネルギーは遠隔地の需要地まで運ぶことができませんが、需要地の近くで発電できるコジェネならば熱を廃棄せずに利用できます。再エネによる供給ですから、CO2排出量の削減にもなります。不動産業界では、再開発地域に都市ガスを燃料としたコジェネ・システムを構築して周辺の既存ビルにも電気と熱を供給している例もあります。
災害廃棄物の再利用とリサイクル
自然災害で被った河川や橋梁、その他建造物の現状復帰には、土砂やがれきなど建築廃棄物・廃材が山のように生まれ、その撤去とその処理に莫大なエネルギーを費やします。そのため、防災・減災の取り組みの中でも建物のライフサイクルにおける再利用やリサイクルを行う必要があります。
図:災害廃棄物由来の再生資材を活用している主な公共事業
出典:環境庁WEBサイト「災害廃棄物処理の再生利用について」
災害廃棄物は、再生利用しやすい金属類は分別して有料で引き取られることが多く、家屋解体による角材や柱材なども同様にリサイクルが行われています。しかしコンクリートくずなどは異物の撤去や粒度調整をしなければ道路の路盤材として砕石として利用しにくいといわれています。また、津波による災害廃棄物は塩分の問題や海底土砂の混入などの課題があります。災害廃棄物は主に公共工事に再生利用されていますが、利用拡大には民間の建築業者とのマッチングが重要でしょう。
連載第3回の『循環型社会』でも述べましたが、建設廃棄物は「がれき」類や廃プラスチック、金属くずなど多種多様で分別が複雑。処理方法も厳格で、コストを抑えるため不法投棄に陥るケースもあります。不動産業界は被災地での復旧工事においてもCO2排出を抑制するために廃棄物の削減や再利用、リサイクルに留意することが求められるのではないでしょうか。