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コラム No.140-4

CREコラム

脱炭素社会と不動産(4)生物多様性

公開日:2023/03/31

私たちは自然がもたらす多くの「恵み」を受けながら生きています。しかし乱獲や手入れ不足などで自然の恵みは徐々に減少し、生物多様性が危機に瀕しているとの指摘があります。生物多様性と経済活動や人々の暮らしに不可分な不動産との関係について考えます。

生物多様性にある3つのレベル

生物多様性とは、生きものたちが互いに繋がり合っている状態のことを指します。地球上には3,000万種もの多様な生物が生息するといわれ、数十億年という気の遠くなるような時間を経て環境に適応しながら進化してきました。個々の生命体は直接的あるいは間接的に支え合っています。生物多様性は英語で「Biodiversity」といいますが、「生きものの(Biological)」と、最近よく使われる「多様性(ダイバーシティ=Diversity)」を組み合わせた造語で1985年頃から使われ始めたようです。

生物多様性には「生態系」「種」「遺伝子」の3つのレベルがあります。生態系は森林や河川、湿原、干潟、サンゴ礁など個々の生き物が生息する地域を指し、種は動植物から細菌・微生物など多種多様な固有の生命体を指します。遺伝子は同じ種でも異なる遺伝子を持つことで姿かたちや模様、生態に独特の個性をもたらしています。

「自然の恵み」に迫る4つの危機

自然は私たちに多くの恵みを与えています。植物は人間と同様に呼吸し酸素を吸い二酸化炭素を出しています。また光合成でその逆の働き(二酸化炭素を取り入れて酸素を出す)もしています。森林は水の循環に大きな役割を果たしています。野菜や魚など毎日の食料をはじめ、木は木材として建築材になり、植物は紙製品や医薬品の原料にも使われます。

マングローブやサンゴ礁は津波を軽減する役割を担っており、適切に管理保全された森林や河川は安全な水の確保や山地災害の軽減、土壌流出の防止など私たちに安心な暮らしを提供しています。自然はまた文化や思想の根源にもなっています。例えば山岳信仰。人を寄せ付けない険しい地形を持つ山に対する畏怖は信仰として浄化され、自然崇拝として誕生しました。

しかし、こうした生物多様性(自然の恵み)を脅かす4つの危機が指摘されています。第一の危機は開発や乱獲による種の減少や絶滅、生息地・生育地の減少。個体数が絶滅の危機に瀕している植物や動物が商業目的のために過剰に乱獲されたり、埋め立てによって生息地を奪われています。第二の危機は里山などの手入れ不足による自然の質低下。森林や草地が利用されなくなったり手入れがされなかったりしたために生態系のバランスが崩れ、動植物が絶滅の危機に瀕しています。第三の危機は外来種の持ち込みによる生態系のかく乱。アメリカ原産のオオクチバスや北米から持ち込まれたとされるアライグマなどは、国内で天敵となる動物が存在しないため増加率が高く、生態系を乱しています。そして第四の危機は地球環境の変化による危機。いうまでもなく、温暖化によって海面温度が上昇して地球全体の気温が上がり、動植物の2割~3割は絶滅のリスクが高まっているとの指摘があります。

不動産にできる生物多様性の対応とは?

不動産の世界では、より高い利用価値を求めて多様な開発が進められています。事務所やテナントは業務効率を上げるためにオフィス街を形成する地域に集中し、物流施設は迅速な配送を狙いに交通アクセスの良い郊外の高速インターチェンジ付近に建設されます。経済合理性から見れば当然ですが、市街地の緑地は低減し、郊外の自然環境に変化が生じることは避けられません。人びとの暮らしには住居、経済活動には事務所やテナントは不可欠ですが、生物多様性を維持するためには人間の絶えざる営みの中で自然の恵みに対する脅威や危機を少しでも意識的に変えていくことが重要ではないでしょうか。

まずは初めの一歩を刻むことが大切です。近年はSDGsやESGといった環境意識の高まりによって、不動産開発の世界では高層テナントビル敷地内に緑地区画を設けたり、蜜蜂の巣箱を置いたりすることが増えてきました。物流施設においても、周辺の自然環境調査を実施して整備計画を進め、生態系に配慮して在来種を選定して植栽するなどの動きが出て来ています。

不動産と生物多様性の関係では、「一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)」が運営している「ABINC 認証」があります。ABINCは、湿地や草地を生かしながら緑地を造成したり、ビオトープ池のある緑地を利用した工場や、野鳥・チョウを誘致できる植生を配置した集合住宅など、自然を生かした建築物を認証事業所として認定しています。

前述した4つの危機(①乱獲・生息地の減少②自然の質低下③外来種の持ち込み④地球環境の変化)を食い止めるために、不動産業界ができることは少なくありません。環境に対する配慮は企業の社会的評価を向上させ、環境性能の高い不動産は商品価値を高めます。ひとは「イキモノ」に対する関心は高いものがあります。不動産における生物多様性へのアプローチは、多くの支持を集めるのではないでしょうか。

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