脱炭素社会と不動産(13)廃棄物
公開日:2024/02/29
産業廃棄物の約2割が建設廃棄物から発生しているとの指摘があるように、不動産と廃棄物は密接な関係にあります。環境に配慮した持続可能な社会(=脱炭素社会)を形成するには、モノの効率的な再利用を進めて「資源」と「廃棄物」に着目する必要がありますが、近年は解体を前提にした建築や廃棄予定の建材を利活用する動きが注目されています。
産業廃棄物の2割は建築廃材
国土交通省の「建設リサイクル推進計画2020(案)」によると、建設産業における産業廃棄物の排出量と最終処分量は、いずれも約2割となっています。建物を新たに建築する場合は、それまでの建造物を解体して更地にし、新築工事に着手します。解体した建築廃材は大量多品種に発生するうえに、新築工事で使用する建材も余剰分が出て処分されます。細かく分類することが義務付けられているこうした産業廃棄物のほか、工事事務所を使うことで生まれる一般廃棄物なども、建設・不動産業界全体としてみれば無視できない量になります。また、国内の二酸化炭素(CO2)排出量の約3分の1は建設業を含む産業部門が占めており、建設機械や発電機に使われる燃料や電力がその大きな要因といわれています。
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出典:「建設リサイクル推進計画2020(案)」(国土交通省 2020年9月30日)より
ただ、わが国では、少子高齢化が本格化する今後、総人口が減少して一般廃棄物は減少する見込みといわれています。前述した国交省の建設リサイクル推進計画(案)によると、建設廃棄物の搬出量は1995年に約9,900万トンだったものが2005年に約7,700万トン、2018年に約7,400万トンと純減。また建設廃棄物のリサイクル率は、1990年代の約60%から2018年度には約97%と、先進諸国のリサイクル率としてはトップクラスに位置付けられています。
多いといわれる建設業界の廃棄物は減少し、リサイクル率も高水準にありますが、わが国では近年、地震や台風、局地的な豪雨災害が激甚化し、災害廃棄物と共に多くの建築廃材が発生。早期復興を阻む要因のひとつになることが少なくありません。これまで以上に廃棄物の排出量を減らし、一層のリサイクルに向けての努力が求められています。
サーキュラー建築と建材アップサイクル
そこで注目されるのが、解体を前提にした建築方法である「サーキュラー建築」と、捨てるはずの建材を利活用する「建材アップサイクル」です。サーキュラー建築は、オランダの建築家やデザイナーが2000年代に入って提唱し始めたといわれる建築手法で、持続可能性と資源循環を重視した建築プロジェクトを指します。解体することを前提とした建築で、イギリスの建築スタジオの手になるハニカム(六角形)構造の住宅・共有施設が事例としてよく取り上げられます。ハチの巣状をした形状のスペースは組み立て式のモジュールになっており、自由に追加できて解体も容易なのが特徴です。
サーキュラー(Circular)は循環するという意味で、サーキュラーエコノミー(循環経済)は、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みに加えて、既存の資源を有効活用して消費量を抑える経済活動のこと。廃棄物の発生抑止を目指します。
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出典:環境省 令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
建材アップサイクルは、本来捨てられるはずの資源や素材を使って価値の高いものに作り替えること。アップサイクル(Upcycle)は素材を生かして作る手法で、一度資源に戻して使うリサイクルとは似て非なるものです。最近は空き家問題が浮上する一方、古民家再生事業が盛んになっています。
2003年に自治体として初めて「ごみゼロ宣言」をして注目された徳島県上勝町のワイン醸造所は、廃材や古い道具を使って建てられました。アップサイクル素材を使ったリノベーションマンションなども登場しており、環境に優しい建築デザインは一種の流行ともなっているようです。
古民家再生そのものがアップサイクルとの指摘もあります。築100年の古民家を解体して出た建材を改めて組み直して伝統工芸品売場にしたり、博物館にするなどの動きが各地で見られるようになってきました。こうした活動ではベテランの木工職人や古民家の設計に詳しい大工といった「匠の技」が不可欠になります。建材アップサイクルは、家具や工芸など幅広い用途があります。古い箪笥や木彫りの工芸品などは、伝統を生かしながら現代風にアレンジして魅力ある製品に生まれ変わっています。
廃棄物を減らすことは、廃棄処理に費やすエネルギーを減らすことであり、CO2の排出削減に繋がります。また廃棄物を再利用したりすることは資源の節約・抑制になり、脱炭素社会実現に近づくのではないでしょうか。