相続対策としての「短期対策」(3)所有不動産の対策 小規模宅地等の特例の活用の検討
公開日:2024/08/30
小規模宅地等の特例制度は、大都市圏の宅地を相続する場合、相続税評価額が高く、これらの宅地を売却しないと納税できないような状況に対応し、生活に最低限必要な財産を守るために事業用や居住用の宅地など一定の宅地については、80%又は50%の評価減を行うことによって、相続税の負担の軽減を図る趣旨で設けられています。
この制度によれば、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業用として、または居住用として使用されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額は、その宅地等の価額(自用地、貸宅地、貸家建付地等として評価した価額)から、その価額に一定の減額割合を乗じて得た金額を減額した価額とされます。(図1を参照)
小規模宅地等の特例についての詳しい説明は割愛しますが、非常に大きな減額となりますので、この特例を適用できるかどうかは相続税に大きな影響を与えます。
図1
国税局ホームページより
相続直前対策(小規模宅地等の特例適用のチェックを行う)
相続する不動産が、小規模宅地等の特例の適用を受けることができるか否かは、相続税に差が出ますので、慎重に確認する必要があります。
生前に父の個人事業を子が承継している事例をもとに紹介します。その場合、父と子が生計を一にしているかどうかによって、特定事業用宅地等としての小規模宅地等の特例適用に大きな違いがありますが、この事例の特例適用の有無を判定し、その具体的な対策を解説します。
- ケース
- 1.家族関係 父・母・長男(父と生計別)
- 2.父の財産(相続税評価額)
- (1)現預金 2000万円
- (2)土地 1億2000万円(自用地・小規模宅地等の特例適用前)
・借地権割合60%
・地積400m2(路線価300千円/m2) - (3)建物 1000万円(A土地の上に存する自用家屋・時価及び簿価とも1000万円。固定資産税評価額も同額と仮定)
・建物は長男が父の営んでいた小売業を生前に承継し、父から無償で借りている。 - (4)その他財産 3億5000万円(小規模宅地等の特例の対象となる宅地等はない)
計5億円
この場合、以下に該当しますので、「特定事業用宅地等(400m2・80%減額)」「貸付事業用宅地等(200m2・50%減額)」いずれも小規模宅地等の特例適用要件を満たしていません。
- ①長男は相続開始前から父の事業を承継しているので相続開始後に事業承継するケースに該当しない。
- ②長男は父と生計別であり、父と生計を一にする親族の事業の用に供されていたケースにも該当しない。
- ③父と生計別の長男との間におけるA建物の貸借において相当な対価を収受していない(無償使用)ため、父の貸付事業に該当しない。
小規模宅地等の特例の適用を受けるための対策
(1)長男が父母と生計を一にする
同居している場合には、明らかに独立して生計を営んでいると認められる場合を除き、原則として生計を一にするものとして判定されます。別居しているときは、一般的には生計を別にしているものと判定されますが、別居親族に対する生計費の送金及び職業の有無や各種状況等を総合勘案して判定することとしています。そのため、生計を一と判定されるためには同居が最も簡単な手法といえます。
(2)長男が父へ建物の家賃を支払う
不動産貸付業等においては、相当の対価を得て継続的に貸付け等の行為を行うものについては小規模宅地等の特例を受けることができます。
「相当の対価」とは、その貸付け等の用に供している資産の減価償却費の額、固定資産税その他の必要経費を回収した後において、なお、相当の利益が生ずるような対価を得ているかどうかにより判定します。
「継続的に貸付け等の行為」の判定は、原則として、その貸付け等が相当期間継続して行われることが予定されているかどうかにより判定します。そのため、相当な対価である家賃を支払い、継続的に貸し付ける予定であれば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
(3)長男の小売業を法人化(資本金は長男が全額出資し代表取締役に就任する)
特定同族会社事業用宅地等に該当するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- ①出資要件(被相続人及びその親族等が50%超出資)
- ②役員要件(相続税の申告期限においてその法人の役員であること)
- ③所有要件(申告期限までその土地を所有)
- ④事業供用要件(申告期限まで事業の用に供する)
しかし、長男が父と生計を一にしていたか否か、父又は長男が法人の株主であったか否か(親族等が50%超出資していればOK)、又は長男が法人の株式を相続したか否かについては、適用要件とはされていません。以上のことから、特定同族会社事業用宅地等の適用要件に該当することとなります。
図2:対策別相続税額一覧表
※1 400m2×300千円×400m2/400m2×(1-0.8)=2,400万円
※2 400m2×300千円×(1-0.6×0.3)=9,840万円
9,840万円-9,840万円×200m2/400m2××(1-0.5)=7,380万円
※3 1,000万円×(1-03)=700万円
※4 400m2×300千円×(1-0.6×0.3)=9,840万円
9,840万円×400m2/400m2×(1-0.8)=1,968万円
※5 父は令和5年3月に死亡したものとして計算し、配偶者は法定相続分を相続し、配偶者の税額軽減後の金額である。
「相続対策としての「短期対策」(1)」でも述べたように、本来は、相続対策は、現状把握を行い、対策を立案し、十分にその内容を吟味してから計画的に実行に移すべきものであり、総合的に検討し、対策を行う必要があることを理解しておいてください。