相続対策としての「短期対策」(5)養子縁組
公開日:2024/10/31
相続対策や相続税等の計算において、養子縁組は届け出たその日から効力が発生するため、即効性のある対策といえます。養子縁組により得られる効果で主なものを紹介します。
ただし、「相続対策としての『短期対策』(1)」でも述べたように、本来は、相続対策は、現状把握を行い、対策を立案し、十分にその内容を吟味してから計画的に実行に移すべきものであり、総合的に検討し、対策を行う必要があることを理解しておいてください。
法定相続人が増えることによる基礎控除額の増加
相続税の総額を計算する楊合に課税価格の合計額から控除することができる基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、養子縁組により法定相続人が増えることで基礎控除額も増加することとなります。
また、相続人が受け取った生命保険金等及び退職手当金等については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています。養子縁組により法定相続人が増えることで非課税限度額も増加します。
相続税の総額を計算する場合の累進税率の緩和
相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分に従って分け、各取得金額に累進税率を適用して計算します。したがって、養子縁組により法定相続人が増えることで適用される累進税率が低くなる可能性があります。
- 【ケース】
- 1.被相続人 父(令和6年3月死亡)
- 2.相続人 母と子1人
- 3.相続財産 5億円
- 4.遺産分割 法定相続分どおり相続する。なお、母の固有の財産はないものと仮定する。
- 5.養子縁組 子の配偶者を養子縁組した場合の効果の確認
図1
- 父が養子縁組をしていれば、第一次相続において1050万円、第二次相続では2010万円、通算相続税では、3060万円相続税が軽減されます。
相続税額の2割加算の不適用
被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)及び配偶者以外の人が、相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その人の相続税額は2割加算されることとなっています。しかし、養子縁組を行うと、養子は民法上の一親等の血族に該当することになり、2割加算の適用はありません。
ただし、被相続人の養子となった当該被相続人の直系卑属である孫など(代襲相続人である者を除く)については2割加算の対象者とされます。
図2
相続の一代飛ばし
孫と養子縁組をして財産を相続させると、相続税の課税を一世代飛ばすことができます。例えば、父から子へ、そして子から孫へ財産が相続される場合には、その都度相続税が課税されますが、父から直接孫へ相続させれば相続税の課税は1度で済みます(ただし、相続税額の2割加算の対象者となります)。
- 【ケース】
- 1.被相続人 父(令和6年3月死亡)
- 2.相続人 長男・養子縁組がある場合には長男の子・長女
- 3.父の相続財産と遺産分割
- 4.長男(令和7年5月死亡)の相続人 妻・子
- 5.長男の相続財産と遺産分割 長男固有の財産 1億円 父から相続した財産 相続税を控除した金額が残っていると仮定
- 6.相続税の計算
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図3:【父の相続税】
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図4:【長男の相続税】
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- ※1 父から相続した財産
・縁組なし(1億5,000万円-3460万円)÷2人=5770万円
・緑組あり(1億円-1820万円)÷2人=4090万円 - ※2 相次相続控除
・縁組なし(子) 3460万円×1/1×(1億770万円÷2億1540万円)×(10-1)/10=1557万円
(妻は配偶者の税額軽減後の金額が上限とされているため控除額は0円)
・縁組あり(子) 1820万円×1/1×(9090万円÷1億8180万円)×(10-1)/10=819万円
(妻は配偶者の税額軽減後の金額が上限とされているため控除額は0円)
- ※1 父から相続した財産
養子縁組と遺留分
遺産分割の対策として、財産をなるべく渡したくない相続人がいる場合に、遺言書を作成して他の方に渡すこととしておいても、遺留分により最低限は取り戻されてしまいます。養子縁組をすると、相続税法上は、法定相続人に算入される養子の数には制限がありますが、民法上は何人でも養子は法定相続人となります。そこで、養子縁組を行うことで、法定相続人を増やすと、1人当たりの遺留分の割合を少なくすることができます。
この場合、養親となる者の意思能力の有無を巡って紛争の発生を防止するために、養子縁組の届出書に養親本人の自署を求め、それが不可能なときには、届出書の作成に当たって養親の意思を確認するに足りる公正な第三者を立会させる等の配慮が必要です。
共同相続人の相続分ないし遺留分の割合を減少させようとすることのみを目的とする養子縁組は、法律上の親子関係を形成しなければならない特段の必要性はなく、民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当し、養子縁組が無効とされる可能性があります。養子縁組が相続争いの火種とならないよう細心の注意が必要です。
- 【ケース】
- 1.被相続人 父(令和6年3月死亡)
- 2.相続人 長男、長女
- 3.養子縁組 長男の妻と子を養子縁組
- 4.父の財産 4億円
- 5.遺言書による遺産分割(長女の遺留分に配慮した遺言書にしてある)
①養子縁組なし:長男3億円、長女1億円
②養子縁組あり:長男3億円、長女5千万円、長男の妻4千万円、長男の子1千万円
(注)長女の遺留分
養子緑組なし:4億円×1/2(総体的遺留分)×1/2(個別的遺留分)=1億円
養子縁組あり:4億円×1/2(総体的遺留分)×1/4(個別的遺留分)=5000万円 - 6.相続税の計算
図5
- ※実子がいるため、養子は1人と数えて基礎控除額を計算します。