相続対策としての「短期対策」(1)対策後、短期間のうちに相続が開始すると、効果が期待できないもの
公開日:2024/06/28
多くの方が、相続発生の直前になって何も対策ができていないことに気づき、慌てたり、後悔されたりします。しかし、相続発生直前でも財産所有者の意思能力があれば、すぐにでも効果が期待できる相続対策が数多くあります。
このシリーズでは、本人の意思能力が認められる状態で1年以内に相続の発生が予想される場合に、すぐに実行が可能で、相続税等の税務対策が期待できるものについて紹介します。
ただし、シリーズで紹介する対策は、税務対策として効果が期待できる反面、緊急避難的なもので長期的な展望を欠いていたり、必ずしも財産の有効な活用に適した対策ではなかったり、税務対策に片寄りすぎているなどいくつかのデメリットがあります。これらの要素も併せて総合的に検討し、対策を行う必要があることを理解しておいてください。
第1回目では、相続対策を実行しても、対策後短期間のうちに相続が始まってしまうと、その対策の効果が期待できないものについて紹介します。
生前贈与加算の規定
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(令和6年1月1日以後の贈与から7年以内)に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の価額が加算されます。
3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算されますので、相続直前に相続人に贈与を行う場合は注意が必要です。
また、その加算された贈与財産に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税を計算する際に控除されることになります。
ただし、被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算する必要はありません。
- (1)贈与税の配偶者控除額に相当する金額
- (2)直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- (3)直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額のうち一定の金額
- (4)直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額のうち一定の金額
ただし、生前贈与加算の対象者は、「相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人」に限定されていますので、例えば、相続人でない孫へ相続開始前3年以内の贈与や、相続、遺贈や相続時精算課税によって財産を取得していなければ生前贈与加算の規定の適用を受けることはありません。
小規模宅地等の特例が受けられないケース
(1)新たに取得した特定事業用宅地等
相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)用に使用されていた宅地等のうち、その相続の開始前3年以内に新たに事業用に使用された宅地等(3年以内事業宅地等)については、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
ただし、相続開始前3年以内に新たに事業の用に使用された宅地等であっても、その宅地等の上に一定の規模以上の建物などがあれば、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
(2)新たに貸付事業の用に供した貸付事業用宅地等
相続開始の直前において、上記の事業以外、つまり不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業用として使用されていた宅地等のうち、「3年以内貸付宅地等」については、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
しかし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業用として使用された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等のその特定貸付事業用として使用された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しません。
また、被相続人が相続開始前3年以内に開始した貸付事業用の宅地等を相続によって取得し、かつ、その取得の日以後、引き続き貸付事業用に使用した場合、「新たに貸付事業の用に供された宅地等(3年以内事業宅地等)に該当しないものとする」とされています。
3年以内に土地や建物を取得した際の、取引相場のない株式等の相続税評価額
取引相場のない株式等の評価における「1株当たりの純資産価額」の計算を行う際、3年以内に取得した土地、または新築した家屋等については、相続税評価額によらず通常の取引価額により評価することとされています。
これは、課税時期の直前に取得し、「時価」が明らかになっている土地等及び家屋等について、わざわざ路線価等によって評価替えを行うことは、「時価」の算定上、適切でないと考えられることなどによるものです。
ただし、「開業後3年未満の会社等の株式」の価額は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することは、平成12年5月30日の東京地裁判決によって合理的であるとされました。
本来、相続対策は、現状把握を行い、対策を立案し、十分にその内容を吟味してから計画的に実行に移すのが基本です。また、紹介した内容のように、相続発生直前での対策が不可能なことがありますので、不動産や金融資産などの調査や資料収集など、対策に着手するまでの期間は最短でも3か月は必要です。さらに、対策に着手してからもかなりの時間を要します。
具体的な対策立案、実行可能かどうかの検討、実行順序の決定からその効果が期待できるまでには2~3年以上の年月が必要になることも多く、早期の対策が重要であることはいうまでもありません。