コラム vol.112
なるほど納得!土地活用の基礎知識
第5回【投資的条件から見た土地活用】
ホントにちゃんと儲かるの?
公開日:2016/02/25
投資として成り立つかの判断
第1回【土地活用概論】では、市場価格8,800万円の土地を、(1)借地権の底地(2)駐車場(3)コンビニエンスストア(4)賃貸住宅や賃貸マンションの4つのケースで土地活用を比較しました。
「融資を受けて手取り収入を最大化したい」「収入はそこそこでいいからローンを組みたくない」「それは、金額によるよ」など、ニーズは人それぞれですが、その判断をするには定量的なモノサシを持つことが必要です。
キャッシュフローの比較
モノサシが「キャッシュフローがいくらになるか」であれば以下のようになります。
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(1)借地権の底地として貸した場合
固定資産税年税額35万円×4.0倍=地代相場とすれば、地代収入は年間140万円で固定資産税を引いた利益は年間105万円。
20年ごとに更新料が更地価格の5%(仮)であれば、年額にして22万円。
合計で平均して年間127万円(10.6万円/月)の収入です。 -
(2)駐車場として貸した場合
駐車台数24台(とすれば) × 6,000円 = 14万4,000円(年間駐車料金173万円)。更地の場合は減額措置が原則受けられないので固定資産税は年額105万円。稼働率100%の場合の年間キャッシュフローは68万円(5.7万円/月)
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(3)コンビニエンスストアを建てて貸した場合
建築費4000万円(リースバック方式コンビニ本部負担)で年間家賃1080万円(売上予想次第)。
固定資産税140万円・建築協力金返済200万円を差引くと年間キャッシュフローは740万円(61.7万円/月) -
(4)賃貸住宅や賃貸マンションを建てて貸した場合
賃貸面積240坪で建築費1億9200万円(建築費80万円/坪)を全額年利1%30年返済で借入れし、査定賃料@0.6万円/坪・90%借上げ・運営費12%と仮定すれば、年間借上賃料1550万円・運営費200万円・返済740万円→年間キャッシュフロー610万円(50.8万円/月)
キャッシュフロー上は、コンビニエンスストア>賃貸住宅や賃貸マンション>底地>駐車場となります。
ただし、コンビニエンスストアであれば立地的な制限もありますし、撤退リスクもあります。賃貸住宅や賃貸マンションであれば空室リスクや建物修繕のコストも無視できません。
底地は事情が変わって現金化したいといった時の流動性を著しく損ないます。
投資を分析的にとらえるための考え方をいくつかご紹介しましょう。(詳しくは、私の著書「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略 詳細解説版」〈住宅新報社〉でご紹介しています)
そもそも、いくらの投資をしているのか
既に所有している土地の有効活用であれば、駐車場の舗装費用とか、賃貸住宅や賃貸マンションの建築費などが投資額となりますが、売却し、その現金で別の投資を行うという選択肢もあります。その場合、手数料や税金を払い、手元に残る現金が投資基礎となります。
そして、土地活用を行うことにより相続税などの税務効果があるのならば、その分は投資のコストから差し引くことができます。
土地価格(手取り)+建物価格+取得経費-(税務効果額)=総投資額
これが生み出す利益を仮に計算すれば、投資の規模が分かります。先ほどの例の8,800万円の土地であれば投資基礎は、売却経費350万円(売価の約4%)、譲渡税1,600万円(取得原価=売価の5%、長期譲渡、自宅利用なしと仮定)、ローン残ゼロと仮定すれば、6,850万円となります。
実際その投資から、いくらの利益が生じているのか
年間家賃収入が見込めても、稼働状況が悪ければその分収入は減りますし、固定資産税や維持管理費がかかれば、さらに実収入は目減りします。こうした要素を踏まえて、その投資が生み出す正味の収入(営業純利益=NOI)を知る必要があります。
年間賃料収入-空室損・未収損-運営費=営業純利益(NOI)
総投資額と営業純利益(NOI)から、その投資のパフォーマンスを知ることもできます。「営業純利益÷総投資額=総収益率(FCR)」という計算式を当てはめ、相続税の税務効果を考えに入れない場合は、以下のようになります。
- (1)底地:127万円(NOI)÷6,850万円=1.85%
- (2)駐車場(稼働率100%として):68万円(NOI)÷6,850万円=0.99%
- (3)コンビニ:940万円÷(6,850万円+4,000万円)=8.66%
- (4)賃貸住宅や賃貸マンション:1,350万円÷(6,850万円+1億9,200万円)=5.18%
自分の出したお金は、どの位の効率でお金を稼いでいるのか
土地活用に伴う建築費を全額現金で出すこともありますが、借り入れにより資金調達することも少なくありません。その場合、次のような計算で「自分の出した投資基礎がどの位のお金を生むのか」ということがわかります。
- 1)総投資額-ローン借入=自己資本(Eq)
- 2)営業純利益(NOI)-ローン返済(ADS)=税引前キャッシュフロー(BTCF)
- 3)税引前キャッシュフロー(BTCF)÷自己資本(Eq)=自己資本利益率(CCR)
※所得税の税務効果も含めたより正確な判断をするために、実際は所得税・住民税・事業税をBTCFから差し引いた税引後キャッシュフロー(ATCF)を使って更に投資分析を行います。
4つの選択肢に当てはめてみましょう。
- (1)底地:127万円(NOI)÷6,850万円=1.85%
- (2)駐車場(稼働率100%として):68万円(NOI)÷6,850万円=0.99%
- (3)コンビニ:(940万円-200万円)÷6,850万円=10.80%
- (4)賃貸住宅や賃貸マンション:(1,350万円-740万円)÷6,850万円=8.90%
損益分岐点は何%稼働?
一方、その投資の安全性を測る方法もあります。例えば、全室や全台数が何割の稼働を下回ると赤字になるか、あるいは空きが出た場合に何カ月以内に次の借り手が見つからないと赤字になるかという損益分岐点は、「(運営費+ローン返済)÷満室賃料×100」という計算で把握することができます。これも、4つの選択肢に当てはめると、以下のようになります。
- (1)底地:(35万円+0円)÷140万円=25.00%
- (2)駐車場:(105万円+0円)÷173万円=60.69%
- (3)コンビニ:(140万円+200万円)÷1,080万円=31.48%
- (4)賃貸住宅や賃貸マンション:(200万円+740万円)÷1,728万円=54.39%
他にも、投資の効率や安全率を測る指標はいくつかあります。
投資の全期間を通じた判断
土地活用をする場合に、その活用を始めたあとの長期間にわたる運営や、最終的な出口(売却や解体)のことを考える人は少数派かもしれません。
土地活用=投資を行った場合、
- 1)自己資本の投資
- 2)キャッシュフロー収入の受け取り
- 3)税金の支払い
- 4)大小の修繕の発生・支払
- 5)立ち退き・解体、あるいは売却して税金とローン残を返して現金を受け取る
という歴史を刻んでいきます。
投資家として、最初に入れた自己資本(Eq)と同額の収入が無いとその投資をする意味がありませんし、それはあまりにも遠い未来に入ってくるお金であればその間に可能な再投資などの可能性やインフレなどの要素との比較なども必要ですから、投資の全期間を通じた判断をするためには、「全期間を通じて入ってきたお金が、今の価値に直して投資額と同額になるのは、何パーセントの利回り(割引率)か」というIRR(内部収益率)の計算をします。
本当に必要なのは・・
内部収益率(IRR)のほかにも、投資期間中に発生したキャッシュフローの再投資も反映させた修正内部収益率(MIRR)や、投資額・投資期間を揃えて最終的に得られる資本の増加で複数の投資を比較する資本蓄積法など、投資分析にはさまざまな手法が確立されています。しかし、本当に重要なのは投資=土地活用をされる皆様が、「何をしたいか」「なぜするか」という目標と目的に尽きます。そのための指標としての投資分析であるということを念頭に、知識の拡充を図っていただければと思います。