実家の相続(1)親が住んでいる実家を相続するということ
公開日:2022/07/28
POINT!
・実家を相続したときの選択肢には、子が同居、売却、賃貸、寄付等がある
・「家族信託」とは、家族に財産管理を任せる契約を事前に結んでおくもので、柔軟な資産運用が行える仕組みとして利用が広がっている
・財産を公益法人等に寄付する場合、要件を満たせば、この所得税を非課税とする制度がある
親の実家をどうするか
「親の実家問題」という話題をよく目にするようになりました。具体的な悩みとして、「両親が高齢化し、少しずつ体調不安が感じられる」「地方にある実家は交通の便がよいとは言えず、万一の際に、兄弟姉妹の誰も実家を相続して住みたいとは思っていない気がする」「放っておいてよいのだろうか。放っておくとどんな問題があるのだろうか」などといった思いを抱かれる人も少なくないでしょう。
放っておくと、いろいろな問題がありそうですが、具体的には何が問題となるのでしょうか。一つは、何も対策をせずに相続が発生してしまうと、高額の相続税が発生したり、実家の処分に苦慮したりする可能性があります。例えば保有資産の多くが不動産である状態で亡くなられると、思いもよらぬ高額の相続税が発生し、相続人の方が納税のために実家を売ろうとしてもなかなか売れない、といった事態が生じる懸念があるのです。
もうひとつ、高齢者の方は、突如として体調を崩したり、判断能力を失う時期がやってきたりする可能性があります。体調を崩して入院ともなれば、もろもろの意思決定や事務手続きが滞りがちになります。
家の所有者が判断能力を失ったと認定されると、その家は資産として凍結されます。家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらう等の対処が必要になります。
相続した実家の選択肢
遠くない将来に発生するかもしれない相続を控えて、実家をどうすればよいのか。いくつかの選択肢をご紹介します。
子が同居する
子などの親族と一緒に住んでいる家で相続が発生し、当該親族がそのまま住み続ける場合、一定の条件を満たせば、「小規模宅地等の特例」という税制優遇制度が利用でき、相続税の算定の際に課税遺産総額に算入される当該土地・建物の評価額が大幅に減額されます。
この場合、相続人の間で不公平感からくる争いを招かぬよう、すべての相続人が話し合いを行っておくことが重要です。
実家を相続したときの選択肢には、子が同居、売却、賃貸、寄付等がある「家族信託」とは、家族に財産管理を任せる契約を事前に結んでおくもので、柔軟な資産運用が行える仕組みとして利用が広がっている財産を公益法人等に寄付する場合、要件を満たせば、この所得税を非課税とする制度がある相続発生後に親族が当該家屋に居住するというケースもありますが、その場合は相続発生前の3年間、当該親族が家を保有していない、もしくは保有していてもその家に住んでいないこと等が特例適用の条件となります。
売却する
実家を保持したままで万一の事態を迎えた場合や相続税の支払いが不安である場合など、「生前の相続対策」の一環として実家を売却する、という方法があります。この場合、土地・建物の売却益から3000万円を控除した金額に譲渡所得税が課税される「居住用財産の3000万円の特別控除」という特例が利用できます。
ただし、遺産総額の評価の際、不動産は金融資産よりも相対的に低い評価額になる、という側面もあります。税制面から見た実家の売却に良いタイミングは一概には言えず、子が持ち家に住んでいるか否か、実家の築年数などにより異なります。ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家に早めに相談するとよいでしょう。
子の家等に同居して、賃貸に出す
交通の便がある程度よく、築年数もさほど古くない物件でしたら、お子さまの家等に同居し、今の住まいをリフォームして賃貸に出す、という選択もあります。昨今は「古民家」と呼ばれる古い木造家屋にも一定のニーズがあり、家賃収入が期待できます。
一方、お子さま側は、同じ家で親御さんと暮らすことになり、安心して親御さんの面倒をみられる半面、生活のリズムの違いから思わぬ家庭不和を招来する場合もあります。
さて、売却するにしろ、賃貸に出すにしろ、必ず知っておきたいのが、最近急速に普及している「家族信託」という制度です。ご自身が信頼する家族に財産管理を任せる契約を事前に結んでおくもので、柔軟な資産運用が行える仕組みとして利用が広がっています。
家族信託は民事信託の一種で、認知症に備えた財産管理で家族信託を活用するケースでは、基本的に本人が委託者と受益者を兼ね、子ども・配偶者等の親族が受託者となって信託契約を結びます。信託財産には不動産や現預金、金融商品などを設定可能です。
そして、財産の所有権を、「財産から利益を受ける権利」と「財産を管理・運用・処分できる権利」に分け、後者をあらかじめ親族に渡す契約を結びます。これにより、所有者が認知症になっても、受託者である親族が家を売却するなどの行為が行えます(売却代金は所有者に帰属します)。
寄付をする
あまり知られていないのですが、知っておいて損がないのが、「公益法人等に財産を寄附した場合における譲渡所得等の非課税の特例(租税特別措置法40条)」です。
個人が、土地、建物、株式などの財産を法人に寄付した場合には、これらの財産は寄付時の時価により譲渡があったものとみなされ、これらの財産の取得時から寄付時までの値上がり益に対して所得税が課税されます。
ただし、これらの財産(国外の土地など一定のものを除きます。)を宗教法人、学校法人等の「公益法人等」に寄付した場合に、一定の承認要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税を非課税とする制度です。
「土地や建物を譲渡して所得税を支払うくらいなら、昔からお世話になっているお寺や学校に寄付したい」と考える方には利用価値のある制度です。実務に際しては、国税庁に提出する書類が煩雑なため、税理士等の専門家に相談しましょう。
詳細は国税庁ホームページ「公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」をご参照ください。
実家の相続に際して、実際には家族構成、資産規模・資産構成、実家の土地の形状や交通の便など、さまざまな要素を鑑みて戦略を立てることが必要になります。
もちろん、広い敷地で、賃貸住宅経営としての収益性が見込まれる立地条件であるならば、賃貸住宅に建て替える等の選択肢もあるでしょう。
その際は、専門家のアドバイスやコンサルティングを受けることが必要です。
ただし、「不動産会社や税理士といった専門家に頼めばいい」ということではありません。土地や家屋の処分について、すべての不動産会社がノウハウを持っているわけではありませんし、すべての税理士が「資産税」と呼ばれる相続税・贈与税の申告に熟知しているわけではないのです。
不動産においては土地や家屋の処分についてノウハウがあり実績がある会社に、相続対策や申告処理においては資産税を専門としている税理士に、相談することが重要です。
最後に、「勘定より感情」という言葉をお伝えしたいと思います。税務対策は重要ですし、家賃収入や売却益も大事です。
しかしながら、最も尊重されるべきは、その家に住み、子どもを育て、見守ってこられた親御さんのお気持ちだと思います。
まずは、遠方の方も含めて、できればすべてのご家族で、ご本人に話を聞き、ご本人のお気持ちをしっかり受け止め、それを最大限に尊重した上である程度の方向性を確立し、専門家を決定、その後、具体的な対策に着手していただくことをお勧めします。