2021年から動き出す新しい住宅政策とは?(6)空き家の適切な管理の促進と除却、利活用の推進
公開日:2021/09/30
POINT!
・2014年に空き家問題が顕在化し、2018年の調査でも、空き家数は約849万戸と最高数を更新した
・今後、基本的な空き家対策は市町村が対応するので、人口減少社会における土地活用は、今まで以上に行政の街づくり計画の影響を大きく受けることになる
前回は、「居住者・コミュニティ」の視点から目標3「子どもを産み育てやすい住まいの実現」と目標4「多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり」について紹介しました。ある意味、ヒトの視点、ソフト面からの住宅政策でした。
今回は「住宅ストック・産業」の視点から、目標7「空き家の管理・除却・利活用」を中心に見ていきたいと思います。住宅というモノの視点、ハード面から住宅政策を確認していくことになります。
図1:「住宅ストック・産業」の視点
出典:国土交通省「新たな住生活基本計画の概要」
空き家の現状は?
図2は、2019年(令和元年)に公表された2018年(平成30年)版「住宅・土地統計調査」です。
この住宅・土地統計調査は5年に1度、西暦の1桁台が3と8の年の調査結果が翌年(西暦の1桁台が4と9の年)に公表される不動産分野の基幹調査です。公表された年の翌年に策定される、今回のシリーズテーマである「住生活基本計画」にも大きな反映を与える基幹調査となります。
言い方を変えれば、この調査内容を事前に把握していれば、一歩先読みできることになります。
空き家・空き地の問題が大きな話題となったのは、2014年(平成26年)に公表された2013年(平成25年)版でした。事実、それ以降、空き家等対策の推進に関する特別措置法、いわゆる「空き家対策特別措置法」が成立・施行され、空き家問題が顕在化し、現在に至っています。
図2:空き家数及び空き家率の推移 全国(1958年~2018年)
出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」
今回の調査でも空き家数は約849万戸と最高数を更新していますが、2013年(平成25年)版と比較しても、13.5%から13.6%と大きな伸びは示していません。
空き家問題が大きくなることに私自身が気付いたのは、その前の調査である2008年(平成20年)版の調査内容を見たときでした。2003年(平成15年)版と比較して空き家の増加数が約100万戸、空き家率も1%弱も増加していたからです。しかし、なぜか世間では騒がれませんでした。とても不思議に思えましたが、今考えてみると、世の中がリーマンショック後の景気回復期で住宅供給を増やしていた時期でしたから、この現実を大きく取り上げることが難しかったのだろうと考えています。
ただ、ファイナンシャル・プランナー(FP)として長期目線に立ち一歩先読みしたとき、(1)「人口が減少」していることによるニーズの減退、(2)「現役世代の収入(水準)が世代を経るごとに伸び悩み」、購入したくともできない世帯が増加していること、そして、(3)住宅建築するにあたり適正な土地=立地が減少しているにもかかわらず、住宅供給数はさほど変化がないことから、空き家はいやが上でも大きくなってしまうと確信し、注力することとしました。
同調査の世帯所有空き家について取得方法別の割合を見てみると、「相続・贈与」が52.2%と最も高く全体の5割以上を占め、築年数が古い住宅ほど顕著です。その影響もあり、今年2021年(令和3年)4月に相続登記の義務化など規定した所有者不明土地関連法規の改正がなされ、主な改正点は2年以内に施行される予定です。
図3:世帯所有空き家の建築時期 取得方法別空き家の割合 全国(2018年)
出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」
空き家への対応
実際の空き家の対応は、大きく2つしかありません。「(1)活用するか」「(2)除却する(=壊す)か」です。
土地活用などで活用するのであれば、長期的視野が必要です。このシリーズでもお伝えしているとおり、今現在のニーズだけではなく、将来を見越したニーズも加味する必要があります。想定される事業プランによって、建て替えなども含め、最新の設備を揃えることも一案かもしれませんし、補修や変更がしやすい必要最低限の設備で対応することも考えられるでしょう。
売却や適正な管理ができない(管理責任が厳しく果たせない)場合、除却を検討しましょう。なかなかご先祖様から引き継いだ土地を手放すという決断がしづらいのは重々理解していますが、今後の生活を想定し、ご家族を含めたご自身の価値観に即して、その土地が必要か、不要かを判断してください。言い方を変えると、資産「自体」を重視するのか、資産「価値」を重視するのかという視点の違いです。
住生活基本計画に明記され、土地活用に影響のありそうな施策
例えば、住生活基本計画に明記され、土地活用に影響のありそうな施策は以下のとおりです。
- ○空き家関係の法制度の運用・手続き等を明確化し、市町村による空き家の実態把握を推進。所有者等による適切な管理の促進とともに、周辺の居住環境に悪影響を及ぼす管理不全空き家の除却等や特定空き家等に係る対策の強化
- ○地方公共団体と地域団体等が連携して空き家所有者のための相談体制を強化し、空き家の発生抑制や空き家の荒廃化の未然防止、除却等を推進
- ○空き家・空き地バンクを活用しつつ、地方公共団体と民間団体等が連携して古民家等の空き家の改修・DIY等を進め、セカンドハウスやシェア型住宅、一時滞在施設での居住、サブスクリプション型居住等、多様な二地域居住・多地域居住を推進
- ○市街地の更新が円滑に進んでいないが、地域にとって重要な場である中心市街地等において、地方創生や中心市街地活性化、コンパクトシティ施策等と一体となって、空き家の除却と合わせた敷地整序や、土地等のコーディネート機能を担うランドバンクを通じた空き家・空き地の一体的な活用・売却等による総合的な整備を推進
今後は、基本的な空き家対策は市町村が対応するので、人口減少社会における土地活用は、今まで以上に行政の街づくり計画の影響を大きく受けることになります。多様な形式の住宅が生まれ、シコウ(試行・思考・嗜好など)されそうです。
目標・成果指標から見えるこれから
土地活用に影響のありそうな成果目標は、以下のような形です。
- ・市区町村の取り組みにより除却等がなされた管理不全空き家数
9万物件(平成27年5月~令和2年3月)→20万物件(令和3~12年) - ・居住目的のない空き家数
349万戸(平成30年)→400万戸程度におさえる(令和12年)
住宅・土地統計調査(総務省)における賃貸・売却用等以外の「その他」の空き家を積極的に除却し、活かせるエリアであれば、活かせる建物は活かすという方向に進みそうです。また、脱炭素社会に向けた目標6を見ると、
- ・既存住宅流通およびリフォームの市場規模12兆円(平成30年)
→14兆円(令和12年)→20兆円(長期的目標) - ・住宅性能に関する情報が明示された住宅の既存住宅流通に占める割合
15%(令和元年)→50%(令和12年) - ・住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(平成25年度比)
3%(平成30年)→18%(令和12年)
となっています。
この指標は、地球温暖化対策計画(平成28年5月13日閣議決定)における目標、国家戦略に基づき設定したものですから、不可避だと感じています。
まとめ
空き家に関しては、近隣の自治会など同じ地域にいる住民や投資家、あるいは他の区分所有者と、その地域が置かれている現状や将来像などについて意見交換をしながら、将来的な方針など決めると良いでしょう。
今後、中古住宅が売買しやすい、そして貸借しやすい社会を構築するため、リフォームなどの関連産業も含めて支援していく流れになっていきそうです。
例えば、リフォームなど近隣の不動産関連事業者等と提携し、新しいサービスを模索できるかもしれません。そのサービスが入居者や地域のニーズと合致すれば新しい収入源として確立できるでしょうし、公共機関からのバックアップを受けられる可能性も出てくるでしょう。
これらの計画に基づき、個々のエリア、例えば、市町村単位で具体的な施策が進められるでしょう。いずれも、オーナー様や投資家にとってはコストや手間等、負担が増加することもありますが、さまざまなアンテナを張り、今後も情報収集に努めましょう。