改正民法と賃貸事業 第1回民法の改正で変わる、賃貸住宅の契約(民法改正と不動産賃貸事業への影響)
公開日:2019/07/31
POINT!
・「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行されるため、不動産賃貸事業への影響が生じる
・修繕義務について、使用収益に関する賃料の減額、保証契約に関して等について、変更が生じる
2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が、2020年4月1日からいよいよ施行されます。この民法改正は、主に債権関係の規定(契約等)に関するもので、大掛かりな改正としては約120年ぶりとなります。そこで、今般の民法改正により、不動産賃貸事業において、どのような影響が生じるのかについて、主な改正ポイントを挙げて説明をしたいと思います。
賃貸住宅の修繕
(1) 賃貸借契約においては、賃貸人は目的物の修繕義務を負っています。この点に関して、改正民法では、修繕が必要となったことについて賃借人の帰責事由がある場合は、賃貸人が修繕義務を負わないことを明文化しました。これにより、旧法下では解釈が分かれていましたが、当事者間の公平の観点から、上記のとおり明確化されました。
(2) 上記改正の一方で、賃貸人が相当の期間内に修繕をしないときや、修繕の急迫の必要性があるときには、改正民法では、例外的に、賃借人においても修繕することができることが認められました。具体的には、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情があるときには、賃借人は目的物の修繕を行うことができるとされ、この場合、賃借人は賃貸人に対して必要費の償還を請求することができるようになりました。
もっとも、実務的にみれば、具体的にいかなる場合に賃借人が修繕を行うことができるのか、修繕の必要性や範囲、修繕の仕様・金額についてどのようにして認めるのかは、改正民法でも明らかではありません。そこで、オーナー様においては、個別の賃貸住宅の実情に合わせて、修繕を認める要件を契約書上明確化したり、賃借人による修繕について個別の許諾を得る旨を規定したり、修繕の仕様について契約書上で限定したりする等の対応が必要であると考えられます。
賃貸住宅の一部滅失等による賃料の減額
旧法では、賃貸借の目的物の一部が滅失した場合には、賃借人は賃料の減額を請求できるとされていましたが、改正民法では、目的物の一部について使用収益(物を利活用して利便を得ること)できなくなった場合、賃借人に帰責事由がないときは、使用収益できなくなった部分の割合に応じて賃料が当然に減額されるというルールに改正されました。すなわち、目的物の一部滅失の場合以外の理由で使用収益が一部できなくなったときには、賃料が減額されることになり、さらに、この賃料減額について、賃借人からの意思表示がなくとも、当然に賃料減額の効果が生ずるとされました。
もっとも、実務的にみれば、一部滅失の程度や減額割合については、改正民法においても具体的な規定は無く、また、判例の蓄積による明確な基準もないことから、紛争防止の観点からすれば、どのような場合に一部滅失があったといえるかを契約書上明記し、そのような滅失があった場合は、賃借人が賃貸人に通知し、賃料について協議し、適正な減額割合や減額期間、減額の方法等を合意するといった内容を契約書上盛り込みたいところです。
なお、改正民法では、賃貸借の目的物の全部が滅失又は使用収益不能となった場合には、賃貸借契約は当然に終了することも明文化されています。
保証
今般の改正民法では、保証契約に関する基本ルールが大きく改正されたため、賃貸借契約に付随して通常締結される保証契約についても、当然、影響を受けることになりますので、オーナー様においては、保証の変更に関しては、特に留意する必要があります。
(1) これまでは、特に保証人の責任について、上限額は定めずに、賃貸借契約に基づいて発生する一切の債務を保証するとしていたのが一般的であると思います。このようなタイプの保証を個人根保証といいますが、改正民法では、個人根保証について、極度額(保証人が負担する上限額)を書面で定める必要があるとされ、極度額の定めがない場合には、保証契約自体無効となってしまいます。
したがって、今後の契約書には、この極度額を明記する必要があります。なお、国土交通省住宅局住宅総合整備課より、極度額に関する参考資料が公表されており、家賃滞納による損害額に関する調査結果がまとめられています。極度額の具体的設定に関して参考になりますので、ご参照ください。
(2) 賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は終了せずそのまま継続しますが、改正民法における個人根保証契約では元本が確定することとなり、保証人は賃借人死亡時点の債務(滞納賃料債務等)のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となってしまいます。また、保証人が死亡した場合も、上記と同様に賃貸借契約は終了せずそのまま継続しますが、個人根保証契約の元本が確定するため、保証人の相続人は保証人死亡時点の債務のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となってしまいます。そのため、賃貸人としては、元本が確定すると、保証人に対してそれ以降に発生する債務分を請求することができなくなりますので、新たな保証契約の締結などを検討する必要が生じます。
そこで、実務的には、契約書上、賃借人又は保証人が死亡したときは、速やかに賃貸人に対して報告することを義務付けると共に、代替保証人の提供を義務付ける定めを設ける必要がありますが、これらの合意による対応にも限界がありますので、今後は、保証会社やオーナーリスク保険等の重要度がより一層増すと考えられます。
(3) 改正民法においては、賃貸人が保証人から賃借人の賃料滞納状況等について問い合わせを受けた場合には、賃貸人は、遅滞なく賃料の滞納額、遅延損害金等の情報を提供しなければならない旨が規定され、これを賃貸人が怠り、保証人が損害を受けたような場合には、保証人は賃貸人に対して損害賠償請求を行うことが認められています。
さらには、改正民法では、賃借人が法人であったり、個人事業のための事務所や事業用店舗として個人が借りるといった事業に関する賃貸借契約である場合に、個人が保証人となるときは、主たる債務者(賃借人)から保証人に「財務状況の情報提供」が必要になります。ここで提供すべき情報とは、主たる債務者の「財産や収支状況」、「主たる債務以外の債務の有無や内容」、「主たる債務への担保提供」等であり、保証人に対してこういった情報提供がなく、債権者(賃貸人)がその事実を知っていた、または知り得ることができた場合には、保証人は保証契約を取り消すことができるとされています。そのため、今後は、賃貸人においても、上記情報提供を確実に賃借人に履行させる必要がありますので、実務的には、上記情報提供の内容を契約書に明記するか、契約締結と同時に一定の書類を作成させた上、添付させる等の工夫を行う必要があるでしょう。
これらの改正点以外にも、敷金に関する規定が新設されたり、原状回復義務の内容を明確化する規定が設けられたり、その他の規定が新設されたりされていますが、いずれもこれまでの判例法理を明確化するものになりますので、賃貸住宅事業に関して、直ちに影響が出るものではないものと考えます。