続・土地活用・不動産投資におけるトラブル第3回 家賃の増減額請求
公開日:2018/12/25
POINT!
・契約当事者は賃料の増減額請求ができると規定されている
・賃料増額請求は、一般的には、配達証明付内容証明郵便にて行うことが原則
・賃借人から賃料減額請求を受けた場合は、柔軟に判断
賃貸住宅を所有されているオーナー様の中には、古くから継続している借家契約における賃料が、相場と比べて安すぎるのではないかと感じ、賃料を増額したいと考えたり、逆に、賃借人から賃料の減額を求められたりする方もいらっしゃると思います。そこで、今回は、借家契約に関して、賃料の値上げ方法や値下げの請求を受けた場合の対処法について紹介します。
借地借家法による賃料増減額請求の要件
借地借家法32条1項によれば、(1)土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減、(2)土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動、(3)近傍同種の建物の借賃と比較して、賃料が不相当となった場合に、契約当事者は契約条件にかかわらず、将来に向かって賃料の増減額請求をできると規定されています。
この規定に沿えば、公租公課の増減、経済事情の変動、近隣の家賃相場の変動のような事情の変更があっただけではなく、さらに、従来の賃料を維持することが公平の理念に照らして不合理であるといえる状況が必要となります。そして、家賃の増減額請求については、その増減額請求者が増減事由となる上記事情変更等の主張・立証責任を負うことになりますので、不動産価格相場や周辺の賃料相場に関する資料等を事前に準備することはもちろんのこと、適正賃料の算定に関して不動産鑑定書や調査報告書等の専門家の意見を入手しておくことも検討する必要があります。
なお、賃料の増減額請求については、契約の条件にかかわらず、増減額請求ができると規定していますが、一定期間賃料の増額請求をしない旨の特約が存在する場合には、増額請求をすることはできません。他方、賃料の減額請求をしない旨の特約は無効となりますので、ご留意ください。
賃料増減額請求の効果
賃料の増減額請求権は、その意思表示が相手方に到達すると、到達した日から相手方の同意なしにその効力を生ずると解されています。このような性質の権利のことを形成権といいます。上記によれば、賃貸人から賃料増額請求する場合は、賃借人がその請求を受領したときから、借家契約における賃料は増額後の金額となりますが、実際は、事情変動の有無や適正賃料の金額について賃借人と争うことが多いため、当事者間で協議により賃料増額につき合意するか、合意ができない場合には最終的には裁判所の判断によって賃料増額の可否が確定することになり、確定に伴い事後に清算が必要となります。
賃料の増減額につき当事者間で協議が合意に至らない場合には、増減額を正当とする裁判が確定するまでは、増額請求を受けた賃借人は、賃借人が相当と認める額(=従前の賃料額)を支払えば足りるとされ、賃料減額請求を受けた賃貸人は、相当と認める額(=従前の賃料額)の請求を行うことができるとされています。そして、最終的に、裁判で賃料の増額が認められたときは、賃借人は従前賃料との差額分を賃貸人に追加的に支払う必要があります。他方、賃料減額が認められたときは、賃貸人は従前賃料との差額分を賃借人に返還する必要があります。これらの差額分の清算に加えて、この差額分に対する年10%の利息も併せて支払います。
そのため、賃料増額請求をオーナー様が行った場合でも、賃借人が増額請求に応じなければ、裁判手続で賃料増額が認められない限り、賃借人は増額前の賃料を支払ってくることになります。しかも、このような賃借人の対応は契約上の不履行と評価することはできません。そして、賃料増額が裁判手続で認められれば、賃借人は、増額請求を受けたときからの差額分に利息10%を付して、オーナー様に支払う必要があります。
逆に、賃借人から減額請求を受けた場合には、オーナー様は、裁判手続で賃料減額が認められない限り、減額前の賃料の請求を行うことができ、賃借人がこれに応じなければ、賃借人の契約不履行になります。そして、賃料減額が裁判手続で認められれば、オーナー様は、減額請求を受けたときからの差額分に利息10%を付して、賃借人に支払う必要があります。
賃料増額請求の手順
賃料増額請求については、先に述べたとおり形成権ですので、口頭での請求も可能ですが、いつ、どのような内容の請求を賃借人にしたのかが重要です。そのため、一般的には、配達証明付内容証明郵便にて賃借人に対して賃料増額請求を行うことが原則となります。
しかし、当事者間で賃料増額につき合意調整がつかない場合には、その後法的手続をとらざるを得ないものとなります。まずは、当事者間の話し合いによる賃料増額の合意を目指す必要があります。そうした場合、直ちに杓子定規に賃料増額請求を内容証明郵便にて賃借人に行うことが、戦略上妥当か否かは、十分に検討する必要があります。
配達証明付内容証明郵便によって明確な形で賃料増額請求をした場合には、賃料増額の効力発生日がその時点から生ずる可能性があり、その点メリットがあるといえます。しかし他方で、突如そのような郵便を受け取った賃借人の中には感情的になる方もいて、より対立が先鋭化して紛争を大きくさせてしまうというデメリットもあります。
これに対して、賃借人との関係性等を考慮して、まずは、相談ベースで賃料増額のお願いをして、その後の状況に応じて正式に賃料増額請求を配達証明付内容証明郵便等で行うという方法も考えられます。この場合、賃料増額の効果が生ずるのが後になってしまいますが、賃借人との合意形成にはプラスに働く可能性が大きくなります。賃借人との賃料増額合意が早期に成立すれば、結果として、賃料増額の最終的な実現が早まることが期待でき、オーナー様の利益にもなるでしょう。
したがって、賃料の増額請求を検討される場合には、賃借人との関係性、賃料増額に向けた立証材料の内容、増額認容の見込み、賃借人退去の可能性等を踏まえて、あらかじめ専門家に相談する等して、その方法についても検討されることをお勧めいたします。
賃料減額請求を受けた場合の対処
オーナー様は、賃借人から賃料減額請求を受けたとしても、直ちに減額された賃料額しか請求できない訳ではありませんが、以下の事情を踏まえて、対応を検討されることをお勧めいたします。
まず、減額請求に応じない場合には、賃借人が退去してしまうリスクがあり、もし、その後の賃借人の入居に困難が伴うことが予想される場合などは、柔軟に判断する必要があります。また、賃料減額請求においては、その事情変更や適正賃料額については、賃借人側に立証責任があり、オーナー様側で直ちに適正賃料についての不動産鑑定書等の資料まで入手する必要性は低いです。しかし、最終的に賃料減額が裁判所で認められるようなことがあった場合、差額分とこれに対する年10%の金利を支払う必要がありますので、この点のリスクについて、あらかじめ専門家に相談しながら判断していくのも有用でしょう。
賃料の増減につき当事者間で協議が調わないとき
当事者間で賃料の増減額の合意が成立しないときは、賃料の増減額を請求する当事者は、簡易裁判所に対して、賃料増減額の調停申し立てを行う必要があります。旧借家法時代は、いきなり訴訟を提起することが可能でしたが、現在の借地借家法では、訴訟前に必ず調停手続をしなければならなくなりました。
そして、上記調停手続で調停が成立しなければ、賃料の増額請求を求めて訴訟を提起することとなります。
上記法的手続においては、賃料の増減額を請求する当事者が事情変更や適正賃料額等の立証責任を負いますので、不動産鑑定士による不動産鑑定書等の専門家の意見書が必要になったり、裁判上の鑑定を行ったりすることになります。