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コラム vol.188
  • 土地活用法律コラム

何も対策をしないことが一番大きなリスク!空き家にさせない!「実家信託」※1のススメ 第3回 実家信託で実家を売却!

公開日:2017/01/26

1)寝たきりの親は実家を売れるのか?

現在は親が元気に実家(持ち家)に住んでいるので心配ないけれど、将来、高齢者施設のお世話になるかもしれないと思っている方は多いと思います。

しかし、親が施設に入った後に実家を売却して施設の費用に充てようと思っても思いがけないハードルが待ち受けている場合があります。

2)実家売却への大きなハードル

まず、親の判断能力が衰えたり、寝たきりになってしまうと親は実家の売却手続きができなくなってしまいます。だったら、親の代わりに子どもが印鑑を押せばいいと簡単に考えていませんか?

昔はできたかもしれませんが、今は親の財産を子どもが勝手に売ることはできません。認知症の親の実家の売却手続きを進めるには成年後見人を裁判所に選任してもらう必要があります。成年後見人は近年、子どもや配偶者などの身内ではなく司法書士や弁護士などの専門職が選任されるケースが多いようです。

しかし、成年後見人をつけても実家はなかなか売却が困難です。なぜならば、 被後見人(親)の居住用不動産を処分(売却、賃貸、抵当権の設定など)するには、必ず事前に家庭裁判所に「居住用不動産の処分許可」を得る必要があるからです。被後見人(親)の居住用不動産とは,「被後見人が現に居住している、または、現在被後見人は居住していないが、過去に被後見人の生活の本拠として実態があるなど、今後帰住する可能性のある居宅及び同敷地」のことを言います。実家は親にとって心の拠り所ですので簡単に実家を売却してしまうと親が受けるショックは大きいでしょうし、親が元気になっても帰る家がなくなってしまうなどの理由によります。ですので、親の介護費用が尽きるなど、余程の理由がなければ裁判所は許可を出してくれません。

なお、実家の売却が終わっても、成年後見人は親の判断能力が回復するか、親が亡くなるまで途中でやめさせることができません。多くの場合、専門職の成年後見人へ支払うための年間数十万円の費用は親が亡くなるまで続きます。

このように実家を売ろうと思ってもすぐに売却できずに空き家の状態が続くと、治安の悪化や地域の劣化、害虫・害獣の発生を誘引させますし、固定資産税等の住宅用地の特例が除外されて固定資産税が6倍になる可能性も出てきます。

生前に親から子へ実家を贈与してもらい、子どもが自由に売れるようにしておけばいいのですが、当コラムの第2回で記載したように多額の贈与税や流通税(登録免許税や不動産取得税)がかかってきます。

3)実家信託の活用

そこで、親に納得していただいた上で実家信託を組んでおくことをお勧めしています。

信託の仕組みは、当コラムの第2回にも書きましたが、「名義と財産権」を分けることですので、親が元気な間にあらかじめ実家の名義を子どもに変更して実家の管理、運用、処分を託しておきます。財産権の変更はないので贈与にはなりません。所有権移転をしても贈与税もかかりませんし流通税も登録免許税のみで固定資産評価額の0.4%(土地は軽減措置により0.3%)とかなり安くすみます。

もし、親が寝たきりになってから実家を売る必要ができても、子どもが名義人なので、すぐに実家を売却できます。財産権は親のまま変わりませんので売却代金は親の財産になり、介護費用などに使うことができます。また、親の生前に名義を変えるので、相続になっても名義を変える必要はなく、相続前後に関わらず、スムーズに売却できます。

4)実家信託の登記

ところで、不動産を「名義と財産権」に分けると言っても具体的にはピンと来ないかもしれません。不動産の登記をご覧いただくとご理解が進むでしょう。

1.贈与の場合

まずは比較として、親Aの不動産を子どもBへ「贈与」した時の登記をご覧ください。所有者Aが贈与によって所有権が移転し、所有者Bになっており、名義と財産権の双方が所有権としてBに移転していることを示しています。

贈与の登記記録例

権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
1 所有権移転 平成*年*月*日
第****号
原因  平成*年*月*日売買
所有者 **市**  A
2 所有権移転 平成*年*月*日
第****号
原因 平成*年*月*日贈与
所有者 **市**  B

2.信託の場合

次に親Aの不動産を、子どもBへ「信託」した時の登記を見てみましょう。AからBへ名義が変わっていても、Bの肩書きは「所有者」ではなく「受託者」ですし、「信託」の記載もあります。また、信託目録では、受益者がAと明記されています(委託者、受託者、受益者の関係については、当コラム第2回をご参照ください)。登記を見れば、信託している不動産ということが誰の目にも明らかになります。

信託の登記記録例

権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
1 所有権移転 平成*年*月*日
第****号
原因  平成*年*月*日売買
所有者 **市**  A
2 所有権移転 平成*年*月*日
第****号
原因 平成*年*月*日信託
受託者 **市**  B
信託 余白 信託目録第*号
信託目録 調製 余白
番号 受付年月日・受付番号 予備
第*号 平成*年*月*日
第****号
余白
1 委託者に関する事項 **市** A
2 受託者に関する事項 **市** B
3 受益者に関する事項等 受益者 **市** A
4 信託条項 1、信託の目的
委託者 Aは、財産の管理・運用・処分を目的として、Aの財産を受託者 B へ信託しBはこれを受託した。
本信託契約により、Aの判断能力が低下してもBが売却の必要性を認識したときに円滑にAの自宅である信託財産を売却できるようにすることがAの願いである。
2、信託財産の管理・運用及び処分の方法
(略)
3、信託の終了事由
(略)
4、その他の信託条項
(略)

5)親孝行を尽くしましょう

親が元気な間に早めに実家信託で対策をして、空き家にならないよう護っていくことが必要ですが、親に信託してもらえるよう親孝行を尽くして、親との信頼関係を十分に築いておくことが大切です。

※1 「実家信託」は、司法書士法人ソレイユが商標登録出願中です。

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