何も対策をしないことが一番大きなリスク!空き家にさせない!「実家信託」※1のススメ 第2回 実家信託のキホン
公開日:2017/01/26
平成18年に信託法が改正されて、それまでは信託銀行や信託会社しか取り扱わなかった「信託」が使い易くなり、家族や信頼できる人の間でも活用できるようになりました。
1)信託の起源は?
信託制度の原型は中世イングランドに遡ります。「ユース」と言われる制度です。十字軍に参加する騎士が信頼のおける友人等に自分の財産(領地)の名義を信託し、出征中に騎士の財産管理を頼むために使われたと言われています※2。託された友人は領地を護り、そこからの収益を家族に与えます。
信託法の法律用語を使うと、ここで登場する、騎士(財産の所有者)を「委託者」、託される友人を「受託者」、利益を受ける家族を「受益者」と言います。この3つの用語は基本ワードですので、覚えてください。
騎士が出征してしまうと連絡は取れなくなるでしょうし、生きて帰って来られるかどうかわかりません。領地を友人の名義に変えてしまうことは、余程の信頼関係がないとできないことです。まさに「信じて」「託す」行為が信託と言われる所以です。
この「余程の信頼がないとできないこと」は信託において最も重要なポイントです。信託では、委託者(騎士)は受託者(友人)に絶対の信頼を置いています。もし契約当初から委託者が受託者を信じることができないのならば信託してはいけません。
受託者(友人)は委託者(騎士)の叶えたい望みや希望といった、一定の目的の実現のために、領地の管理または処分およびその他、その目的を達成するために必要な行為をします。
2)信託の仕組みは?
財産の名義だけを信頼できる人に変更して、実質的な財産権は別にするという「名義と財産権を分ける仕組み」が「信託」です。
箱に入ったケーキをイメージしてみてください。通常、所有者は財産の所有権を持っています。ケーキが箱に入った状態が所有権であり、名義と財産権は一体化しています。しかし、信託とは名義と財産権を分けること、つまり箱からケーキを出すことです。箱は名義でありケーキが財産権です。信託をすると名義が変わることで抵抗を感じる人が多いと聞きます。しかし、名義は空っぽになった箱でしかありません。その空っぽの箱を受託者が持ち、財産権であるケーキは受益者が持ちます。大事なのは箱とケーキのどちらですか?多分、ほとんどの方は「ケーキ」の答えが返ってくるでしょう。
当法人の代表司法書士河合保弘も「土地活用法律コラム」VOL073において、解説していますのでそちらもご覧ください。
3)信託のメリットは?
箱とケーキを分けることでどのようなメリットがあるでしょう?
所有者が生前に不動産の名義を変える場合に、今までは、「売買」か「贈与」の方法が主な手段でした。不動産売買ですと、不動産を買取る資金が必要になってきますし、贈与ですと不動産の贈与を受けた人に贈与税がかかります。売買や贈与などの「民法」の世界では、名義と財産権を分けることができないので、「名義だけ変える」ことは事実上、不可能です。しかし、信託ではそれが可能です。民法とは全く別の「信託法」という法律が主体になって制度がありますので、言わば「信託ワールド」という別世界に入ることになります。「信託ワールド」では、不動産を名義と財産権に分けることができてしまうのです。
4)信託の注意点は?
十字軍では、信託した財産から生じる利益は家族が受け取っていましたが、実家信託のスキームの基本は「委託者(元の所有者)=受益者」です。受益者を対価なしで委託者以外に設定すると、一括で信託財産が移転したと同様の贈与税がかかってきてしまうからです。
実家信託では受益者は実家の所有者である親なので、財産権の移転はなく、売買における対価の必要性や贈与における贈与税が伴ってこないことになります。
5)実家信託で凍結から実家を護る!
第一回のコラムでは、親の認知症や相続で、実家は「売れない」「貸せない」と言った凍結状態になる可能性が高いとお伝えしました。しかし、親が元気な間に信託で名義のみを家族や家族で結成した法人など(受託者)に変えることで、受託者が実家の管理、運用、処分が可能となり、凍結を防止することができるのです。しかも、名義変更にかかる税金もわずかで済みます。
概算ですが、1000万円の評価の土地を子どもへ信託した場合と贈与した場合の比較は下記の通りです(特例や軽減措置を使わず原則の税率で計算しています)。実家信託でシッカリと凍結しないよう、実家を護っていきましょう。
<信託> 4万円(登録免許税)のみ
<贈与> 合計227万円
内訳 20万円(登録免許税)
30万円(不動産取得税)
177万円(贈与税)
※1 「実家信託」は、司法書士法人ソレイユが商標登録出願中です。
※2 家族信託実務ガイド第1号「信託の歴史」(高橋倫彦;日本法令)p90,91参照