CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(14)倒産隔離と真正売買
公開日:2018/05/31
不動産の証券化では、業務を適切に行うためのルールがあります。今回は倒産隔離と真正売買について考えてみます。
倒産隔離と真正売買と言葉だけ聞くと難解かもしれません。少し分かりやすく考えてみましょう。
厳格な契約や不正、不法行為を防止するためのさまざまな決め事が存在
不動産はビルであれ土地であれ、人の手で左から右に移せるような軽くて小さいものではありません。東京に住むオリジネーターが大阪にあるSPCに不動産を譲渡したとしても、譲渡契約の翌日に不動産が関東から関西に移転することはないのです。目に見える商品ならば、その場で現認して納品書にサインをすればいいですが、そうはいきません。
目に見えて所有権が移転したとわかる代物でないので、厳格な契約や不正、不法行為を防止するためのさまざまな決め事が、ほかの商取引にも増して重要になってきます。また、利害関係者が多く、その損益を巡っていろいろなトラブルが起きる可能性もあります。不動産の証券化や流動化においては、より複雑で大きな物件を相手にしているだけに、厳格な規則が求められるのではないでしょうか。
不動産や証券化を破たんリスクから守る
倒産隔離とは、企業が倒産しても、その企業が保有している資産に影響を与えないようにすることです。不動産証券化における倒産隔離は、譲渡された不動産や証券化のスキーム(仕組み)を破たんリスクから守る、ということになります。
こうしたリスク回避がなぜ必要かといえば、不動産証券化は不動産という資産が生み出すキャッシュフローの信用力を背景(裏付け)とした資金調達だからです。これが銀行融資や社債発行ならば、企業の信用力を土台にして資金調達するので、万が一の債権回収の相手は当事者である企業という明確な債務者が存在します。しかし不動産証券化では、不動産の信用力によって資金調達が成立しています。不動産に「金を返せ」と文句を言っても始まりません。だからこそ、倒産隔離によって不動産という資産や証券化の仕組みを破たんリスクからいかに切り離すかが重要となるのです。
証券化ではオリジネーターとSPCにそれぞれ破たんリスクがあるので、次の3 点が必要になります。
- (1)オリジネーターが破たんした場合に、資産である不動産やSPCが影響を受けないようにする
- (2)受益証券を発行しているSPCが破たんしない仕組みを作る
- (3)オリジネーターとSPCが実質的に切り離されている
倒産隔離措置がない場合のリスク
倒産隔離の措置が取られていない場合、オリジネーターが行ったSPCへの資産譲渡は証券化による資金調達ではなく、資産を担保とした借り入れという判断が下されます。担保融資になると、万が一オリジネーターが破たんした場合、不動産証券化の委託を受けたSPCは、他の債権者と同様の立場になってしまい、不動産から生まれた利益は破たん処理をする管財人の手に渡ることになります。すると投資家は配当どころか証券の購入資金すら回収できなくなります。
2001年に経営破たんした大手スーパー「マイカル」で、このケースに該当する事件が起きました。同社は会社更生法の適用を申請し、同社がオリジネーターになり、自社の20店舗をSPCに売却したうえで借りて営業を継続しました。マイカルは会社更生法の適用を受けて銀行融資などは金利減免の措置が取られましたが、管財人は「実質的には店舗を担保にした資金調達。SPCに支払われる家賃収入をカットすべき」と主張しました。
結果的には受益証券の配当になる家賃収入はマイカル破たんでも債権カットされず、証券化商品として初のデフォルトは免れましたが、ここで真正売買がクローズアップされました。
真正売買とは
真正売買とは、文字どおり「本当に売った(買った)のか」ということです。オリジネーターからSPCに本当に資産が譲渡され、正当に売買されたのかを確認する必要があります。前述したように、担保として一時的に譲渡された場合は借り入れの担保とみなして金融取引となります。そして、この場合オリジネーターが破たんしても譲渡された不動産や証券化の仕組みは守られず、倒産隔離はされなくなります。
マイカルの場合、同社が本当に店舗を売却したのか、SPCに真実の売買で不動産が移転して適切な賃貸契約が結ばれていたのかどうかが問われたのです。不動産をいったん売却してその後借りるという「リースバック」の証券化には、こうしたリスクが潜むとの指摘もあります。真正売買と判断するには、以下の3点を確認する必要があります。
- (1)当事者の意思(不動産の買戻し契約や修繕負担の有無など)
- (2)譲渡価格が妥当であること
- (3)5%ルール
5%ルールとは、オリジネーターがSPCに対して5%以上出資しないことを指します。オリジネーターがSPCに対して過度に経営に関与しているとすれば、何らかの形で利益が還流していることと同じになります。つまり、不動産を譲渡して売却益を得たうえに継続して利益にあずかるのであれば資産を切り離したことにならず、会計上はオフバランス処理することは認められません。投資家ではなく、オリジネーターが得をするような証券化スキームは認められないという、投資家保護のルールでもあります。
大事なのはSPCとの実質的な分離
SPCが破たんしてしまうと、証券化で生まれた利益は投資家に届きません。SPCを破たんさせないためには、兼業を禁止したり、倒産手続きを制限し、破産申し立て決議に取締役会全員の賛成を要する定款を定め、取締役の一人に公認会計士など中立的な立場の人を選ぶことなどが求められます。
倒産隔離で最も大事なことは、オリジネーターとSPCの実質的な分離です。倒産隔離は、関係者の破たんリスクからSPCを切り離すことが重要ですが、オリジネーターとSPCが形式的ではなく実質的に切り離されていることも重要です。5%ルールは、この分離を求めた最低限の決まり事ともいえるでしょう。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由