CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(13)不動産証券化における資金調達
公開日:2018/04/20
デット(負債)とエクイティ(資本)
不動産の証券化では、収益を生み出すための仕組みを作る必要があります。そのためにはSPC(特別目的会社)に軍資金がなければ、何も始まりません。SPCはアレンジャーと協業して、不動産の所有者(オリジネーター)から不動産を購入し信託受益権などの有価証券を発行し投資家に販売しますが、設立した当初は資金がありません。そこで資金を調達することになります。
資金調達は、銀行や証券会社などのアレンジャーが中心になって行います。その方法は、一般の株式会社と同じ手法で、銀行融資や社債の発行、株式の発行があります。銀行融資は、当然のことですが返済する義務があります。社債も償還期限が来れば利率に基づいて債券の元本金額に利息を付けて返済しなければなりません。
銀行融資や社債発行で得た資金は返済義務があり負債(Debt)に相当することから、デット・ファイナンスと呼ばれます。一方、株式の発行による資金は会社が利益を出せば投資家に配当を分配しますが、調達したお金の返済義務はありません。会社の資本に組み入れられるので資本(Equity)を増やすための資金調達であることから、エクイティ・ファイナンスと呼ばれます。
そして、返済義務の「ある」ほうが「ない」ほうに優先して資金の返済を受けることになります。元金と利息を合わせた元利金の返済は、デット・ファイナンスが優先し、エクイティ・ファイナンスは後回しということになります。
メザニンは中二階の意味
資金調達も、近年はより多様化・複雑化しています。デット、エクイティの中間に位置するのがメザニン・ファイナンスです。メザニンとは英語で「中間」の意味。百貨店・デパートで見かける「M2」という表示は、中二階を指します。このMはメザニン(Mezzanine)の頭文字です。返済義務のあるデット・ファイナンスの部類に入りますが、返済順位に関して優先順位を付けて二つに分けたものです。
より優先されるものはシニアデット・ファイナンス。その次に来るのがジュニアデット・ファイナンスで、これをメザニン・ファイナンスと呼んでいます。エクイティ・ファイナンスも2段階に分かれる場合がありますが、大きくはデット・メザニン・エクイティの3層構造になっている、と覚えておきましょう。
メザニン・ファイナンス(メザニン投資)には、優先株や劣後ローン、劣後社債などがあります。優先株は、配当の支払いや万が一のデフォルト(倒産など)の事態に行われる残余財産の分配が普通株に優先して行われます。劣後ローンや劣後社債は、金利や利回りが高く投資家には魅力がありますが、他のローン(債権)に比べて返済順位やデフォルト時の配当分配が後回しにされるリスクが高いのが特徴です。
資金調達の3層構造
エクイティ投資のレバレッジ効果
レバレッジのレバー(Lever)は、「てこ」のこと。レバレッジとは、テコを利用するという意味になりますが、金融の世界ではときどき使われる言葉です。証券化では、デット投資(ファイナンス)を活用してエクイティ投資の利回りを高くすることを、「エクイティ投資のレバレッジ効果」と呼んでいます。
例えば100億円の不動産の場合を考えてみましょう。賃料収入から運用経費などを差し引いた収益額を不動産価格で割って得られる利回りを「ネット利回り」といいます。このネット利回りを5%とします。金利3%の銀行融資を70億円調達し、30億円は株式発行で調達します。年間の収益は5億円(100億円×5%)、融資の返済は2.1億円(70億円×3%)で配当原資は2.9億円(5億円-2.1億円)。利回りは9.6%(2.9億円÷30億円)になります。
これに対し、返済義務のあるデット投資を使わず、100億円を全額株式発行で賄う場合を考えてみます。金利は負担しないので経費をゼロと計算すると、年間の収益は5億円(100億円×5%)で、配当原資は5億円。したがって利回りは5%(5億円÷100億円)になります。つまり、デットあるいはメザニンでの資金調達の割合が多ければ多いほど、エクイティ投資をした投資家には、より高い利回りがもたらされるというわけです。
しかし、銀行融資などのデット投資による調達が多くなると、返済義務を負わないエクイティ投資の部分は少なくなり、万が一のデフォルト(倒産など)の事態には、デット投資のリスクが高まります。そうなると、返済困難や返済不能を嫌う金融機関は融資金利を上げてくるので、資金調達費用が増加することになります。このため、SPCやアレンジャーなどのアセットマネージャーは、デットとエクイティのバランスを的確に調整し運用する能力が求められます。
多様な商品を提供するために多様な資金調達手段がある
不動産の証券化で資金の調達が多様化しているのは、より多くの資金提供者から資金を引き出し、より多くの投資家に販売したい狙いがあるからです。SPCとアレンジャーがさまざまな手法で調達した資金は、その調達手段ごとに異なる証券化商品を生み出します。リスクを取りたくない金融機関には優先して返済し、リスクを承知でハイリターンを望む投資家には高い利回りを設定して商品を組成します。証券化商品の魅力は、こうした多様な商品群にあるといえるでしょう。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由