大和ハウスグループが考える人的資本経営
昨今、人的資本経営への関心が高まっていますが、当社は社是に「事業を通じて人を育てる」として、人財を育てることを創業時から大切にしてきました。これは、決して変わることのない経営方針の柱です。しかし、世の中や人々の価値観は常に変化しており、これまでのやり方だけでは通用しないこともあるかもしれません。時代の変化・要請に応じながら、事業活動を柔軟に変化させ、持続的成長を実現するためには、変わらないことと、変えていくことをしっかりと見定めることが重要です。創業から築いてきた創業者精神(大和ハウスらしさ)は変わらないこととして継承・発展させます。一方で必要な組織・人財の変革は変えていくこととして、両立しながら進めていきます。
これまで当社は掲げた目標を確実に達成してきました。組織力、一致団結、やり切る力がパワーになっていたと思います。今後は、それに加えて、個の力や多様性が生み出す力を組織の力へとつなげていくことが必要です。人財を事業の根幹に据え、強みや独自性を未来に向けて、どう生み出し、繋げていくかを考えています。
新・理念体系を策定し、パーパスとの位置付けを整理
2022年に “将来の夢”(パーパス)を発表しましたが、社是や社員憲章の位置付け、関係性を明確にしてほしいという従業員からの意見等もあり、2023年度に理念体系を再構築しました。ようやくできたという思いです。
新しい理念体系は、“いつの時代も変わらない”「社是」「社員憲章」と、“時代に合わせて変化していく”「将来の夢」「大切にしたい価値観」の2軸で構成しています。「大切にしたい価値観」は、従業員が大切にする共通の価値観として、新設しました。多様性の概念、大和ハウスで仕事をすることが人生を楽しむための一つの手段として位置付けられるよう、従業員一人ひとりが内面にずっと持ち続けてほしい考え方を盛り込みました。
パーパスを起点に、企業文化や組織風土を醸成する
“将来の夢”を実現するためには、グループ全体への浸透が重要であり、その浸透プロセスには5段階の認知・理解・共感・主体化・行動化があります。最終的に自分ごととして行動することができれば、“将来の夢”が実現できると考えています。今は、「共感」に向けた方策を検討している段階です。グループ全体、事業本部単位でそれぞれ“将来の夢”の実現に向けての青写真を描く活動を行っています。さらには、各事業所では「ミライマチ宣言」を作り、地域における当社グループの在り方を考える活動を始めました。
2024年度は、従業員一人ひとりの意識への浸透をはかっていきます。2024年7月からは、新たに作成した「ENGAGEMENT BOOK(エンゲージメントブック)」を展開し、自ら考え行動できるためのツールとして活用していきます。一人ひとりが自分の内面や仕事に対する考えや思いを振り返り、自己開示して、今後の仕事につなげていくことを期待しています。また同時に、チーム内での対話を通じてお互いへの理解を深め、組織風土への変化も促していきます。こうした取り組みが、従業員のパフォーマンスの最大化につながっていくと考えてはいますが、すぐに成果が出るわけではありません。長く続けていくことが大切だと思っています。
流通事業本部は、“将来の夢”の浸透に向けた取り組みについて、先行して役員や事業部長を対象にワークショップを行いました。実のところ、最初は「パーパスで飯は食えない」という反応もありました。しかし、ワークショップを進めていく中で、事業を展開していくのは「人」であり、その「人」が同じ目標に向かって動いていくことの重要性に気づき、今では継続して行いたいという意見が多くあり、若手メンバーも含めた取組みへと広がっています。変化が見えるというのは、何よりうれしいものです。未来のために、自分のために、自分のありたい姿やキャリアアップを考えるきっかけにもなれば良いと思っています。
会社を良くしていきたいという経営陣の思いは強いです。意見交換が活発にでき、イノベーションが生まれやすいような組織風土の醸成に向け、“さん”付けの推奨や、TPOに合わせた服装の推進、社章の携行の取りやめを進めています。また、1on1ミーティングの実施を通じて、コミュニケーションが活発になったという声も聞こえています。未来に向けて少しずつでも着実に進んでいる実感があります。個の多様な力を組み合わせることで、組織がどのような化学反応を起こしていくのか、非常に楽しみです。
私のこれまでの経験から、人財に対する考え方や価値観、制度は各企業によって異なり、正解は1つではないと思っています。当社グループらしい方法を模索しながら、地に足をつけて、改革を進めていきます。
多様な人財が、組織の力を強くする
キャリア採用比率は20%を超え、さまざまな経験をもつ従業員が増えてきました。当社グループらしいDE&Iを実現するためには、女性活躍に偏りすぎてはいけないと思っています。なぜなら、それぞれの経験を活かして、事業を通じて経験を積むことで成長できるということを性別に関わらず追求してほしいと考えているからです。しかし一方で女性の活躍できる場はもっと広げていきたいですし、活躍できるとも考えています。建設・不動産業は元来、女性が少ない業種ですが、価値観や視点を変えてみれば楽しさもあり、自分に合う仕事に出合えることもあると思います。
また、組織の力の最大化には、幅広い年齢層を有することも必要です。当社はシニア人財の活用については、2013年にいち早く65歳定年制を導入しており、65歳まではほぼ継続、65歳以上も半数が継続している状況です。技術職に限っては70歳までの雇用上限を撤廃しています。経験を積んだ技術職の知識は、課題に面したときに大変心強いものがあります。技術職の確保が難しい中、シニア人財の確保は多様性と人財確保の両面で得るものがあります。
高卒生の育成プログラムは、開始から7年が経ちました。高卒の新入社員を建築の専門学校に派遣して基礎知識を身に着けてもらう制度です。専門学校で建築の基本を集中的に学んで当社に戻ってくるので、専門学校修了後の配属先では大学卒の新入社員をリードしていただけるのではないかと期待しています。
人財教育の根幹となる人財育成ポリシーを策定
より戦略的な人的資本経営を進めるため、2023年10月に人的資本に関わる部門を再構築しました。また今回、人財開発を主に担当する人財・組織開発部が中心となり、新たに人財育成ポリシーを策定しました。今までは主な階層別でのプログラムを中心に体系化されていましたが、“将来の夢”を起点にプログラム全体を貫く根幹となるポリシーにしました。これに基づき、教育プログラムの棚卸し、対象者・実施時期等についての見直しを進めています。
なかでも今、最も注力しているのはミドルマネジメント層への教育です。2024年4月から、管理職全員が組織マネジメントの基本プログラムを受講しています。半年間基本を学んだのち実践、振り返り、コーチングやサーベイを行い、現状を客観的に見つめるという実践的なプログラムです。全員が受講を終えるのに4年間かかる見込みですが、自分の仕事と会社に誇りをもって取り組める人を増やしていきたいと考えています。さらには2024年7月から開始した学びのプラットフォームや、副業、FAなど、従業員がチャレンジできる機会は今後も増やしていきます。
職場環境整備に向けては、Well-being推進室が中心となり、DE&Iや健康経営を実現するために、障がいへの理解促進、男性の育児参画促進、女性のキャリア自律のための上司に対する教育、海外人財の教育・支援、健康施策など、さまざまなトライアルを進めています。また現在推進中の「シン働き方改革」は、DXを活用することで生産性の向上を目指しています。それに加えて従来の業務フローを根本的に見直すというアナログのアプローチの面も必要です。仕事の細分化や、役割の分散化、あるいは専門性のある人に任せる。人と仕事のマッチングも今後は重要になると思っています。
次世代人財の育成に向けて
事業を創る「経営人財」の育成は大きな課題の1つです。2020年度から導入している当社の次世代経営層サクセッションプラン「D-Succeed」は、将来の役員クラスへの登用を見据えた「キーポジション」に求められる人財要件を設定し、一定の評価基準に基づき対象者を選抜し、必要な知見や知識などを学んでいく仕組みとなっています。国内各拠点の要となる事業所長職に限定せず、エリアを統括する技術系部門長や工場長、本社部門長なども対象としており、職種や性別にとらわれず、幅広い経営人財候補者が育成、プールされています。また次々世代となる30代へのサクセッションについても並行して進めています。
私自身の経験から、管理職にはさまざまなことを経験して、失敗からも学ぶことで成長していただきたいですし、若手社員に向けては、「若手の時の苦労や経験は必ず未来の力になる」と思いますので、楽しみながらも一生懸命働いていただきたいと思っています。役職員一人ひとりが仕事を通じて成長し続けることで、変化していく世の中に対応する実力が備わっていくものと思います。
これからもすべての従業員と共に当社グループの“将来の夢”実現に向けて、さまざまな角度から取り組みを進め、企業文化や組織風土を醸成していきます。