海外事業を成長の柱へと成長させ、現地に根差した価値を提供する
当社グループは2010年代より中国やASEANへ進出し、順調に事業エリアを拡大。現在は、米国を重点エリアに位置付け事業を拡大しています。2017年の米国戸建住宅事業会社のStanley Martin 社を皮切りにTrumark 社、CastleRock 社を連結子会社化し、北米でのエリア進出を着実に進めてきました。北米の住宅市場は、将来的な人口増加や経済の安定性が見込めることから、今後も成長が期待できます。
北米の3社は、創業時から住宅事業を基盤とした独立企業であることから、当社の企業文化と近いものがあると感じています。また3社とも地域に根差した地域密着型の事業展開を最大の強みとしています。各社の特長を活かしながら、共に歩んでいけるよう、定期的にミーティングを開催し、今後の事業戦略や各社の取り組みに関する情報交換など、さまざまな議論を重ねてきました。安定的な資金調達、技術支援、共同購買や、日系企業サプライヤーとの仲介など当社グループのメリットを最大限に活用し、グループ全体の成長につなげていきます。
北米以外では、ASEAN、オーストラリア、欧州などで、当社グループが創業以来積み重ねてきた工業化建築のノウハウや知見を活かし、地域特性に合わせたプロジェクトや事業展開を進めています。ASEANでは工場、物流を中心に一部レジデンスも手がけ、中国では大型マンション開発、オーストラリアでは戸建住宅や、賃貸住宅・マンションの開発を展開。また欧州では、Daiwa House Modular Europe社がオランダとベルギーに工場を有し、モジュラー建築による住宅を供給するほか、英国でのマンション開発も進行中です。
海外本部長として、将来的には、事業を多角化しながら成長してきた“大和ハウスモデル”を世界に広めていきたいと考えています。その足掛かりとして、北米では、戸建住宅事業だけでなく、マルチファミリー(賃貸住宅)やマンション開発、商業施設や物流施設など少しずつ多角化が進んでおり、“大和ハウスモデル”の基盤が整ってきました。各事業本部もしっかりと連携しながら、海外事業を成長の柱として育むことで、大和ハウスならではの成長モデルを構築し、現地に根差した価値提供を行っていく考えです。
人財とガバナンスが海外戦略の要となる
海外展開を強化するにあたっては、人財とガバナンスが欠かせません。人財に関しては、語学力と専門知識を兼ね備えた人財の育成、他業種経験者のキャリア採用による人財確保など、多方面から強化を図っています。また社員が自発的に手を挙げるFA制度もあります。加えて、2023年度にグローバル・トレーニー制度を技術部門から導入し、1年間、海外の現場で語学や文化、商慣習を学んだうえで着任することのできる制度となっています。2024年度からは営業職にも対象を拡げています。人財育成には、海外本部、事業本部、人事部門等が連携しながら、グループ全体で取り組みを進めています。現在は国内から派遣された駐在スタッフが多い状況ですが、将来的には現地採用を継続して行い、現地スタッフを増員することで、多様な人財を確保していきたいと考えています。
ガバナンスに関しては、引き続きRC(リージョナル・コーポレート)機能を強化していきます。法務や財務面などで、リスク・ガバナンスを強化する取り組みに加え、2024年1月からはコンストラクションマネジメント機能を付加しています。RC機能にコンストラクションマネジメント機能を付加することで、図面や原価管理、工程、品質に至るまで当社ならではの建設に関する知見を活かすことができます。設計から施工まで一気通貫で手掛ける当社グループの強みを活かせるよう、さらなる機能強化を図っていきます。
分裂と統合を繰り返して大きく強くなり、変化していく
フジタ、大和リース、大和ライフネクストの事業本部への参入という形の、いわゆる統合が2024年からスタートしましたが、事業の創出も含めて個々の強みを発揮できるよう、事業連携を進めていきます。私は、当社グループの歴史は「細胞のように分裂と統合の繰り返しによって成長を実現してきた」と見ています。戸建住宅事業で培った独自のノウハウやシステムを起点に世の中のニーズの変化に応じて新たな商品・事業を創出し、事業領域を拡大してきたのは、常に最適を目指してきた結果といえるでしょう。また、一度分裂した事業が最適解を見つけて再び統合していく場合もあります。だからこそ、BtoB事業、BtoC事業がお互いを補完する体制が構築されています。
会社経営において重要なことは、そのときに最適な方法を採用できるよう、バランスを取りながら事業を創出していくことだと考えています。将来を見据えて、その時に統合がベターだと判断すれば統合して力を蓄え、また議論をしたうえで最適化する。分裂して大きくなり、統合して強くなり、変化していくというのが大和ハウスの企業文化にはあるように思います。今後もバリューチェーンの再構築・強化を図っていきます。
CVCと社内起業制度による新規事業の創出
将来の成長の源泉となる新たな事業創出のための戦略投資に向け、2024年3月にCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)ファンドを設立しました。「既存のコア事業の深化・拡大」および「全く新しい市場・ビジネスの創出」という2つの観点から、「ア(安全・安心)・ス(スピード)・フ(福祉)・カ(環境)・ケ(健康)・ツ(通信)・ノ(農業)」を投資・協業の基本的なキーワードとしています。
また、社内起業制度「Daiwa Future100」も2024年6月から開始しました。募集を開始して僅か1か月ほどで500件近い反響あり、CVCとは違った形でグループ会社も含めた社員の想いを形にすることができる制度だと考えています。またこの制度は、新しい事業の創出だけでなく、次世代経営者の育成という狙いもあります。『100周年に売上高10兆円の企業グループ』という目標に向けた成長への道筋を考えれば、経営を任せられる人財プールは多い方がよく、本制度はまさに経営者育成の実地訓練になると捉えています。
根本的な改善を図り、現場が実感できる効果を創出する「シン働き方改革」
これまでも働き方改革は進めてきましたが、2024年問題を逆に好機と捉え、本当に現場が実感できる効果を創出するための「抜本的な改善」への取り組みに着手しています。まずは現場の名もなき声を拾うことからスタートし、現場へヒアリングしたところ、5,000項目もの要望が寄せられ、改革の必要性を痛感しています。問題点・課題について議論し、優先度の高い項目から、業務フローの改善を進めています。併せて、デジタルワークフローや生成AIを活用した、新たな働き方の創造も進めています。生産性を向上することで従業員の働きやすさの向上につなげていきたいと考えています。
社会価値と経済価値を創出する“攻めの環境戦略”
2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、当社グループが建築を手がける建物のZEH・ZEB化の推進、太陽光発電パネルの搭載、そして再生可能エネルギーの普及を進めています。建物が増えるほど新たに再エネが生み出され、社会の脱炭素化が加速していくと考えています。
2030年をマイルストーンに置いた取組みは順調に進捗しており、例えば、ZEH・ZEB化については、現時点で、かなり2030年の目標値に近づいています。海外では、エネルギーコストの相違や法令規制などの地域性があるため、日本とまったく同じ進め方で普及させることは難しいのですが、まずは北米における省エネ建築の現状を把握し、2030年の目標を明確化することで、戦略的にZEH・ZEB化を進めていきたいと考えています。
また、当社グループに対して鉄骨建築のイメージを持たれている方が多いのですが、2023年から社会の脱炭素への関心の高まりや木造建築へのニーズの高さを踏まえ、「建築物の木造・木質化」を強化すべく「Future with Wood Project」を始動しています。住宅系事業においては木造商品の開発販売をはじめとした取り組みはすでに進んでいます。一方、建築系事業における中大規模木造建築においては、設計施工ノウハウの蓄積、他構造や他社木造との差別化構築など、まだまだ伸びしろがあると考えており、木鋼ハイブリッドブレースといった鉄と木の双方の良いところを組み合わせた商品開発も進めています。建築物の木造・木質化により、カーボンニュートラルのさらなる加速、サーキュラーエコノミーの実現が進むだけでなく、中長期的には売上高数千億円規模の大きな事業の柱となることを期待しています。
環境貢献については、2023年度の「第5回ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の環境サステナブル企業部門で環境大臣賞(銀賞)を受賞しました。以前は、環境と経済は相反するものと捉えられていましたが、今は環境を良くすることが経済を良くするという考え方が主流になりました。これからは“攻めの環境”として、社会価値と経済価値を両立させる考え方がますます求められるようになると思っています。例えば、環境への取り組みを現場が事業として取り組める仕組み作りの一環として、2023年度から、ICP(インターナルカーボンプライシング)を活用した投資判断基準を設けており、収益性だけではなく環境への投資促進も図っています。
サステナビリティと事業活動の両輪で、企業価値向上を目指す
2024年1月に組織再編を行い、サステナビリティ統括部門を経営戦略本部に組み込みました。組織の再編に伴い、取り組むべき課題はますます多くなりました。新たな成長事業の創出、既存事業の改革をスピーディーに進め、事業価値をさらに高めるために、非財務資本の価値向上の取り組みも私の使命です。環境・社会といったサステナビリティへの取組みはもはやプラスアルファではなく、将来キャッシュフローを生み出すための重要な取組みです。外部環境を踏まえたうえで、サステナビリティへの取り組みを、事業活動と関連付け、一人ひとりが自分ごとと捉えて取り組むことが大切です。世の中の変化を柔軟に見据え、経営の軸がぶれることのないよう、リーダーシップを取り推進してまいります。引き続き、経済価値と社会価値を両立させ、企業価値向上を図ります。