不動産は生前贈与か相続か、法人化による贈与も含めて考える
公開日:2024/09/30
令和6年1月1日からの税制改正の影響もあり、財産を生前贈与として行うか、相続時まで待つかを検討する人も多いでしょう。特に土地や建物など、分割が難しい場合、生前贈与で名義変更することができれば、分割に関するトラブル防止にもつながります。ここでは、不動産を生前に贈与する場合について法人化する場合も含めて解説します。
不動産(土地や建物)を生前贈与するメリット
相続させたい相手に引継可能
生前に不動産の名義変更をすることで、被相続人が望む相手に、確実に不動産を引き継ぐことができます。逆に、生前贈与をせず、遺言書も作成していないとなると、遺産分割協議で、資産の相続分割について協議することになり、いわゆる「争族」となる可能性が高くなります。特に、不動産の場合は物理的に分けられないことが多く、相続人同士でもめることも多々あります。
さらに、分割トラブルを避けるために、単独の相続人を決めることができず、相続人同士で不動産を共有するケースもあります。この不動産の共有は、将来のトラブルの原因となることも多く、できる限り避けておきたいことです。不動産を生前贈与することができれば、こうした不安もなくなります。
相続対策
贈与税は、贈与が行われたときの評価額に対して課税されますが、相続税は所有者が亡くなった時点での評価額が基準になります。
つまり、将来不動産が値上がりする場合、評価額の低いうちに贈与することで、評価額の低いときの算定による贈与税となります。将来の値上がりが予測される場合は、評価額が低いうちに贈与した方が、将来の相続税と比較した場合、低くなることもあります。
また、家賃収入が続くと相続時の財産が増えてしまうため、結果として相続税額が大きくなる場合があります。ただし、単純にどちらが有利ということではなく、ケースによって異なりますので、税理士に相談しながら判断することが必要です。
認知症対策
被相続人である不動産所有者が認知症になってしまうと、判断能力の低下によって不動産の管理や売却などの手続き、遺言書の作成などができなくなってしまう場合があります。認知症になるかどうかは誰にも分かりませんので、被相続人の判断能力が十分あるときに、生前贈与を行うのも良い方法と言えるでしょう。
不動産の贈与税を軽減〔相続時精算課税〕
相続時精算課税制度とは、子や孫に財産を贈与しても相続時に精算する制度で、累計で2500万円までは贈与税がかかりません(60歳以上の父母又は祖父母などから、18歳以上の子または孫などに財産を贈与の場合)。ただし、相続が発生した場合には、生前贈与された分の金額も含めた相続税となります(評価は贈与時の価額となります)。
2024年1月からは、さらに、年間110万円の基礎控除が追加されました。基礎控除は、累計2500万円の特別控除には含まれません。
配偶者控除
20年以上の婚姻期間がある夫婦であれば、居住用不動産(またはその購入資金)の贈与があっても、2000万円までは贈与税の課税対象から除かれます。この制度は暦年課税と併用すれば、合計2110万円までは贈与税がかかりません。
不動産を生前贈与する際の注意点
資産の生前贈与を行う際には、注意しておかなければならないことも少なくありません。
まず、贈与税は相続税よりも高い税率が適用されることです。不動産の評価額が高い場合は、納税額がいくらになるのかを確認しておきましょう。多額の贈与税が発生したときには、納税資金が必要になりますので、不動産だけを贈与された場合は、特に注意が必要です。せっかく贈与された不動産を売却しなければならないこともありえます。贈与の時期や相続時に使える特例も考慮しておくとよいでしょう。
相続開始前7年以内の贈与にも注意が必要です。被相続人の余命が少なくなってきたと判断し、慌てて生前贈与を行うケースがありますが、相続開始前7年以内に贈与した場合、贈与した財産は相続財産に加算されるので注意してください。
また、相続税では、多くの場合に利用される小規模宅地等の特例が使えない場合がありますので、専門の税理士に相談しながら進める必要があります。
不動産登記に関しても、相続よりも名義変更などの費用が高いことも注意しておく必要があります。
法人化による贈与
これまで個人事業として不動産経営を行われてきた方にとっては、法人化することで、子どもへの贈与がスムーズに進み、税負担も軽減できるケースもあります。ただし、個人から法人へ資産を譲渡する場合、譲渡による所得税が発生する可能性があります。
役員報酬として資産を分散
法人の場合、役員として雇用すれば、役員報酬(給与)を支給することができます。相続人となる親族を法人の役員として雇い役員報酬を支給することで、実質的な資産の生前贈与が可能になります。生前贈与の場合、贈与税率は最大で55%になりますが、役員報酬は給与所得として扱われるため、所得に対して所得税はかかりますが、贈与税はかかりません。
また、個人にかかる所得税は累進課税制度ですから、収入が多くなればその分の所得税が増加していきます。家族の中で、父親一人が不動産収入を得ているよりも、法人として受け取り、その収益の中から、役員として雇用した家族に給与として分配すれば、全体としての税負担は少なくなるでしょう。
法人の場合、給与は経費となりますので、賃貸住宅経営の利益を抑えることになり、資産の一部贈与と法人税対策の両方が可能となる場合もあります。
相続対策
資産管理会社を設立し、被相続人のすべての資産を資産管理会社に移した場合、相続税の対象となるのはその資産管理会社の株式のみになります。 非上場会社の株式の評価方法は様々あり、その評価方法によっては、移した資産総額の評価額よりも法人株式の評価が低くなる場合もあります。
資産を分割しやすくなる
資産を法人に移すと、資産が法人の株式に変わることになりますので、不動産と異なり資産が非常に分割しやすくなります。
不動産は株式や現金とは違い、分割して少しずつ贈与することは非常に困難です。しかし、不動産を法人の所有とし、その法人の株式を少しずつ贈与すれば、不動産を少しずつ子や孫に贈与していくのと同じことになります。さらに、暦年贈与の制度を活用し、毎年の贈与額を110万円以内にすれば、分割した法人の株式を、贈与税の負担なく移していくことも可能です。
ただし、これまでは、贈与者が亡くなった場合、贈与された財産の内3年以内のものについては相続財産として加算されていましたが、令和6年1月1日からの税制改正によって、令和6年以降に贈与される財産については、この期間が順次7年まで延長されるので注意が必要です。
株式の贈与と譲渡
株式譲渡と株式贈与の大きな違いは、株式譲渡が「売買」であるのに対して、株式贈与は「無償で与える」ことです。株式譲渡を活用した場合、売り手は譲渡によって資金を得ることになりますが、後継者の資金力が十分でないケースでは、うまくいく可能性は低くなります。
株式贈与では、後継者の大きな資金力は問題になりませんが、贈与税が発生しますので、贈与税の支払い義務は生じます。事業の存続という別の大きな問題もありますので、費用の面だけではなく、事業承継の観点から慎重に判断する必要があります。(事業承継の課税の繰延制度もあります)
株式の譲渡とは
株式の譲渡とは、自分の株式を無償で譲り渡すのではなく、所有する株式を有償で譲る、つまり売却するということです。上場株式の譲渡の場合は、資産を現金化したり、ほかの投資先に変更する場合が大半ですが、資産管理会社として法人化された場合、ほとんどが非上場企業のため、株式を譲渡することは、会社の経営権を買い手に売却することになります。
昨今、中小企業の事業承継方法として、M&Aが注目されていますが、株式の譲渡は、M&A手法のひとつです。M&Aの場合、第三者に譲渡するケースが一般的ですが、資金的な問題をクリアできれば、親族承継や社内承継のケースも少なくありません。ただし、株式譲渡を行った場合、譲渡者は株式売却の所得が発生しますので、所得税の支払い義務が発生します。
株式の贈与(無償の株式譲渡)とは
贈与とは、株式だけではなく、自分の資産を他者に無償で譲り渡すことです。譲渡の場合と同様に、自分が経営する会社の株式を贈与するということは、非上場企業の場合、資産の贈与という意味だけではなく、受贈者に会社の経営権を渡すことになります。つまり、株式の受贈者は会社の後継者となるわけです。
子どもや親族に贈与するということは、相続ではなく、生前贈与ということになりますので、株式という資産を得た受贈者には、贈与税が発生します(事業承継の課税の繰延制度もあります)。
贈与側が個人か法人かで課税は変わる
株式資産を贈与した場合、課税が生じますが、贈与の相手が個人か法人かによって課税内容が変わります。
個人への贈与 | 法人への贈与 |
---|---|
贈与者:課税なし 受贈者:贈与税 |
贈与者:みなし譲渡所得税 受贈者:法人税 |
個人から個人へ株式贈与を行った場合は、受贈者には贈与税が発生します。無償で贈与しているので、贈与者への課税はありません。ところが、個人から法人へ贈与した場合は、個人の場合とは大きく異なります。
個人が法人に株式を贈与した場合は、時価で財産の贈与を受けたとして、その受贈益は法人税の課税対象となります。贈与した個人も、贈与資産を時価で法人に譲渡したものとみなされるため、みなし譲渡所得税*が適用されます。*譲渡所得があるものとみなして課税される税金。株式取得費などの費用を差し引いた所得に対して課税されます。
法人化による贈与を含め、不動産の生前贈与は、相続時のトラブルを回避するだけではなく、認知症対策やスムーズな資産移転にも役立つ可能性があります。
ただし、ケースや条件によって、さまざまな注意点や解決すべきことが出てきますので、信頼できる税理士に相談しながら、慎重に検討し、判断する必要があります。