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コラム vol.517
  • 不動産市況を読み解く

2024年前半の新設住宅着工戸数の動向と年間の見通し

公開日:2024/07/31

新設住宅着工戸数の動向23年年間の振り返り

はじめに、2023年年間の新設住宅着工戸数の動向を振り返っておきます。
総戸数は2022年比で4.6%減少し81.9万戸、各月の前年同月比をみれば、プラスになったのは2カ月だけでした。大きな影響を与えたのは、「持ち家」(所有土地に自宅を建築)の新設住宅着工戸数の大幅減少です。前年比でマイナス11.4%(2年連続の2ケタマイナス)で22.4万戸、2021年12月から30カ月連続(2024年5月分まで)で前年同月比はマイナスとなっています。貸家の着工戸数は前年比マイナス0.6%で34.3万戸。月別にみても、概ね横ばいという状況でした。分譲戸建は前年比マイナス6%で13.7万戸、2022年11月から19カ月連続(2024年5月分まで)で前年比マイナスとなっています。
このように、2022年・2023年は戸建住宅建築の数字が大きく落ち込む状況が続きました。

2024年1-5月の新設着工戸数の状況

2024年1月からの新設住宅着工戸数は、引き続き減少傾向が続いています。詳細は後述しますが、自宅建築は前年同月比マイナスが続き、賃貸用住宅(貸家)は、概ね横ばいからやや増加、という状況です。2024年1-5月の新設住宅着工戸数(総計)は32万4741戸、2023年の同期間比ではマイナス4.1%となっています。

下の表をご覧いただいたうえで、以下各セクター別に解説します。

図:2022年1月~24年4月までの月別新設住宅着工戸数

国土交通省「住宅着工統計」より作成

2024年1-5月の「持ち家」着工戸数の状況

2024年も苦戦が予想されていた「持ち家」の新設住宅着工戸数ですが、前年同月比マイナスが続いています。1月~5月の全て前年同月比でマイナス、またこの間の月平均は1万6569戸、このペースでの年間着地見通しは19万8800戸となりますが、季節要因がありますので、20万戸程度は維持するでしょう。しかし、過去60年程度遡ってみても、最低の数字となりそうです。
これほど大きく減少している背景には何があるのでしょうか?
ほぼ個人の施工による「持ち家」の着工戸数の動向は、経済市況や人口動態が最も大きな要因となりますが、加えて所得の状況や金利動向も影響を与えます。2024年のローン金利においては、変動金利は横ばいもしくはやや低下、固定金利はやや上昇という状況です。個人所得は、名目賃金は上昇していますが、インフレを加味する実質賃金ではマイナスが続いています(2024年5月分まで)。このような要因を鑑みれば、人口動態(=単身世帯が急増)と物価上昇(=建築費の上昇)の2つが大きな要因と考えるのが自然でしょう。
国土交通省本データでは、調査開始以来、戸建注文住宅の事を「持ち家」と表記されていますが、本来、「持ち家」が示す意味は、「自己所有の住宅」という意味です。「持ち家」といえば、「戸建住宅」だったこともあり、この表記になったのでしょう。しかし、すでに、「持ち家の定番は戸建住宅」ではなくなりつつあるようです。

2024年1-5月の「貸家」着工戸数の状況

次に主に賃貸用住宅の「貸家」は、2024年1-5月の合計は、2023年の同期間に比べてプラス0.6%の13万9592戸と微増という状況です。
土地所有者による土地活用による賃貸住宅建築に加えて、投資家による賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛な状況が続いていることが背景にあると思われます。また、金利上昇懸念はありますが、投資家の方々は、現時点では「仮に金利上昇があっても、それほど大きな上昇はない」と捉えているものと思われます。
年間の見通しは、金利動向によるところが大きいですが、昨年並みの34万戸台前半で着地するものと思われます。

2024年1-5月の「分譲戸建」着工戸数の状況

2024年に入り、大ブレーキとなっているのが「分譲戸建」です。いわゆる「建売住宅」と呼ばれるものです。2024年1-5月の数字をみれば、前年同月比で全てマイナス。また1月を除く全ての月で2ケタマイナスとなっています。2024年の1-5月合計と2023年の同期間合計を比べると、マイナス12.6%となっています。
建売住宅の需要は比較的安価な住宅に集まりますが、郊外住宅地地価の上昇、また住宅建築費用の上昇により、デベロッパーの企業努力をもってしても販売価格が高くなってしまうようです。そのため、販売用戸建住宅の建築が少なくなっているようです。この傾向はしばらく続くでしょう。しかし、一方で、立地のよい場所に建築される分譲戸建は、高額でも売れているようです。年間の見通しとしては、12万戸台前半と予想します。

新設住宅着工戸数の2024年後半の見通し

最後に、2024年後半と年間合計の見通しについてお伝えしましょう。
比較的好調な「貸家」の着工戸数では、1-5月は23年比で微増。このペースとすれば、34万戸台の前半と予想します。ただし、2024年の秋には金利上昇可能性が高くなっていますので、その時のムードで減少可能性がありますが、影響は少ないでしょう。
次に「持ち家」は、建築工事費の上昇が続いていること、土地の一次取得者にとっては住宅地価格が上昇していること、その一方で実質賃金の上昇が追い付いていないことなどから、2024年後半も苦戦が続きそうです。このペースでは20万戸を切る可能性もありますが、減少ペースが緩やかになっている状況もあり、年間着地は20万戸台の前半と思われます。
2024年の年間の新設住宅着工戸数の総数は、「持ち家」と「分譲戸建」は低迷が続き、貸家は微増、そして「分譲マンション」は、需要は旺盛の一方でマンション適地不足のため減少、という状況が続きそうです。こうした傾向から見れば、合計80万戸には届かず79万戸台になる可能性が高そうです。

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