立地適正化計画で市街化区域の資産価値が大きく変化?
公開日:2024/07/31
国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の総人口は、50年後には現在の約7割、9000万人を割り込み、65歳以上の高齢化率は4割に上ると推計されています。このような急激な人口減少と少子高齢化社会を見越し、安心・安全なまちづくりをいかに行うかが、地域にとって大きな課題となっています。
立地適正化計画制度の創設
国は、2014年に「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」を制定し、「立地適正化計画制度」を創設しました。
「立地適正化計画制度」とは、地域住民が安心・安全に生活できる環境を集約整備し、医療・福祉・育児・商業などの住民生活に必要な機能や施設を利便性の高い特定区域に誘導・集約することで、人口減少下においても持続可能な都市機能を再構築することを目的とした制度です。市町村が主体となって、都市計画で区域区分された「市街化区域」に、「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」を設定し、区域内に必要なインフラを優先的に整備(コンパクト化)するとともに、それぞれの地域を結ぶ公共交通網を構築(ネットワーク化)する中長期的な計画を策定した上で、国がそのマスタープランの実現に向けて助成・支援するものです。
この制度により、その地域では持続可能な生活利便性の維持・向上、地域経済の活性化、行政コストの削減、地球環境への負荷の低減、居住地の安全性強化が期待できるとしています。2024年3月末時点で、747都市が立地適正化計画について具体的な取り組みを行っており、568都市が既に計画を作成・公表しています。
立地適正化計画制度が作られた背景
これまで多くの自治体では、都市の無秩序な開発を抑制し、商工業活動が行いやすく、十分な行政サービスが受けられる都市を目指して、都市計画法に則った都市計画を策定しています。具体的には、地域の開発を促進する「市街化区域」と、開発を抑制する「市街化調整区域」に区域区分し、「市街化区域」には地域の特性に応じて「住居専用地域」「商業地域」「工業地域」などの用途地域を設け、建物の容積率や高さ等を制限しています。
しかし近年、急速な情報化や国際化、少子高齢化等の社会情勢の変化に対応する必要性から、2002年に「都市再生特別措置法」が制定され、指定された都市再生緊急整備地域内においては、都市計画で規制されている用途地域や容積率、高さなどの規制を解除することで、公民の大規模再開発による都市機能の高度化が進められています。
一方、人口減少や少子高齢化が急速に進行する地方部では、医療・福祉・商業等の生活サービスの維持が困難となっており、公共交通ネットワークの縮小・公民サービス水準の低下、地域産業の停滞、企業の撤退、都市郊外の宅地開発や市街地の空洞化による低未利用地、空き店舗の増加、生活インフラの老朽化など、多くの課題が顕在化していることから、市街化区域内の「コンパクト+ネットワーク」化の推進が急務となっています。このことから国は、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」を制定し、「立地適正化計画制度」を創設するに至りました。
立地適正化計画制度推進で考えられる影響
前述のように、地域を将来的に持続可能な都市として維持する施策として、立地適正化計画は有効な制度と言えます。
しかし一方で、「居住誘導区域」あるいは「都市機能誘導区域」に、国や自治体が政策的に集約投資してコンパクト化する取り組みであることから、区域外の開発が抑制されれていくことは間違いないでしょう。
立地適正化計画は、移住等を強制するものではなく、あくまで誘導するための施策ですが、コンパクトシティ化が避けられない現状を考えると、今後10年20年の期間では、人口や都市機能の集約度に地域差が生まれ、土地等の個人資産の所在が区域内外かによって、従来の用途での活用が制限あるいは困難となるなど、その価値に大きな差が出てくる可能性があります。
そのため、これから賃貸住宅としての土地活用を考える際には、自治体が策定する地域計画に沿った土地活用計画を立てる必要がありますし、場合によっては、現在保有する土地を売却して別地域での賃貸住宅建築・購入を検討する必要性もあるでしょう。
立地適正化計画の取り組み状況と効果
各都市が策定している立地適正化計画は、地域の実情や直面している課題などにより多種多様ですが、いくつかのパターンが見られます。以下に、国土交通省が選定したモデル都市から、数例を紹介します。
石川県金沢市や熊本県熊本市では、利用客の減少等により経営難に陥っているバス等の公共交通機関を再編し、基幹路線周辺に住民の居住を誘導、路線の起点となる市街地のバスターミナル周辺等に民間企業の資金力や事業能力(民間活力)による再開発で都市機能の集約を計画しています。
長野県松本市では、市街地の公用地を活用、再編して都市機能の拠点を集約しました。また、区域外の老朽化した公営住宅を用途廃止して居住地域へ誘導する方針を示しています。
青森県むつ市では、用途地域外(白地地域)へ無秩序に拡大する住宅地を抑制するために「特定用途制限地域」を設定しました。また、用途地域周辺に「居住調整地域」を設定することで、市街地拡大を抑制し、除雪費や上水道管理費等の維持管理費の削減を図っています。
これらの事例は一部に過ぎませんが、国土交通省の資料によると、2020年までに立地適正化計画を作成・公表した都市のうち、「居住誘導区域」を設定した都市(対象380都市)の66.1%で区域内人口が増加、「都市機能誘導区域」を設定した都市(対象383都市)の67.9%で区域内施設数が維持または増加しているとのことです。また、2014年~2022年と2006年~2014年の市街化区域の地価変動率を比較すると、計画未策定都市の+9.9に対して、立地適正化計画策定済み都市が+12.5と上回っており、地価変動率の改善状況が良好であることから、立地適正化計画の効果が推察されます。
このように、立地適正化計画は各地域で着々と進んでおり、またその効果も現実化していることから、まだ具体的に取り組んでいない自治体も、追従していくものと考えられます。したがって、今後の土地活用を考えるにあたっては、日頃から地域計画や地域動向等の情報を収集すること、信頼できるパートナーに相談することが、さらに重要になりそうです。