調査結果に見る賃貸住宅のトレンドご入居者のニーズを理解し、賃貸住宅のトレンドをつかむ
公開日:2024/06/28
ご入居者が賃貸住宅に求めることは、時代やお住まいになる方によって大きく変わってきます。時代の変化を捉え、ご入居者のニーズに応えていくことは、賃貸住宅経営にとってとても大切なことです。
特に、2020年からのコロナ禍によって、テレワークやオンライン学習が一気に普及しました。通勤時間が大きく減少するとともに、在宅時間が増加したことで、ご入居者が賃貸住宅に求める機能も変化しました。
コロナ禍においては、通勤に便利な高い賃料の都心を離れ、家にいる時間を快適に過ごすための広くて設備が充実した郊外の住まいを望んだ人も少なくありませんでした。
今では、都心に戻る傾向もみられますが、変わらずテレワークを継続する人やファミリー層を中心に、郊外に住み続けるという選択をしている人もいます。
テレワークを行う人が多ければ、当然ですが、賃貸住宅に対するニーズとして、テレワークを行う広さやデスクなどの設備、静かな環境などが求められ、そうした機能がトレンドとなります。
年齢層によってニーズが異なる
賃貸住宅に対するニーズを理解し、それに対する間取りや設備、デザインを考えていくことは当然のことですが、ご入居者の年代や価値観によって、求める賃貸住宅は大きく変わることは理解しておかなければなりません。
株式会社クロス・マーケティングが行った「住まいに関する調査(2023年)意識編」から、年代の違いによる「住まい」に対する考え方の違いを見てみましょう。
賃貸の住まいに対する意識
よく言われることですが、「賃貸住宅は持ち家のように自分の資産にならない」という賃貸住宅に対する見方がありますが、20代と70代では大きく異なるようです。高齢者になるほど、「家は資産」という思いがあるようです。
また、「賃貸は経済的負担が大きい」という見方も、20代では極端に低くなっています。むしろ、若年層のほうが、「コストが安く済む」と考えているようです。さらに「収入の変化に合わせられる」という変化に対する柔軟性を評価している点も注目です。
つまり傾向的には、若年層のほうが生活に応じて変化が可能という点を重視し、資産的な意味合いはあまり持っていないことが分かります。
図1
株式会社クロス・マーケティングが「住まいに関する調査(2023年)意識編」より作成
集合住宅についての意識
分譲、賃貸含めた、集合住宅の持つ機能についての意識としては、全体的に「音」に関しては敏感に感じているようです。若年層に関しては不在時間が多いからでしょうか。音に関する意識は低くなります。テレワークを行う人にとっては、周囲の音の環境は大切な問題です。遮音性については、これからもニーズのポイントになりそうです。
また高齢者ほど、防犯上の問題やワンフロアでの快適性を求めていることが分かります。管理費や理事会などは、分譲マンションに特有の課題感だと思われます。
図2
株式会社クロス・マーケティングが「住まいに関する調査(2023年)意識編」より作成
立地:高齢になった時に住んでいたいところ
自分が高齢になったときに、どのようなところに住んでいたいかという質問に対しては、総じて「交通の利便性が良いところ」が上位にきていますが、年代によって、微妙に異なる結果が出ています。
20~30代は「治安のよい場所」、40~50代は「交通の利便性が良いところ」、60~70代は「医療環境が良いところ」が最多になっています。「治安」に関してはすべての世代で上位にあり、働き盛りの世代は通勤重視なのか交通の利便性を求めているようです。高齢者になると、健康面を気にしてか医療施設が近いということを求めるようです。
また、立地については、リモートワークの減少によって、通勤するビジネスパーソンが増加したこともあり、「駅から近い住まい」、「職場から近い駅」が好まれるようになっているようです。
図3:高齢になったときに住んでいたいところ(複数回答)
株式会社クロス・マーケティングが「住まいに関する調査(2023年)意識編」より作成
省エネルギーへのニーズが増加
電気料金の値上がりなど、光熱費に関する値上げが続いており、賃貸住宅においても、省エネルギーに関するニーズが高まっています。
2024年4月より「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が開始されました。この制度は、販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者等が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度です。
アットホーム株式会社が行った不動産のプロに対しての調査「環境に配慮した住まいにおすすめの条件・設備 2024」によれば、環境に配慮した住まいにおすすめの条件・設備は「複層ガラス」が1位、「節水トイレ」が2位、「太陽光発電システム」が3位でした。
いずれも省エネルギーに関することであり、ご入居者に対して不動産企業が省エネルギーに対する提案を行っている様子がうかがえます。
ただし、一般社団法人 環境共創イニシアチブによれば、2022年度の注文戸建住宅のZEH普及率は33.5%とある程度の普及は進んでいますが、建売戸建住宅は4.6%しか進んでいないという状況もあり、ご入居者の省エネ性能へのニーズは高まってきているとはいえ、まだ浸透している状態とは言えないようです。しかし、国を始めとして省エネを含めた環境保全への傾向が強まることは明らかであり、これからの賃貸住宅には欠かすことのできない機能であると言えるでしょう。
地域のニーズに合った賃貸住宅を
これらの調査データからも見てとれるように、省エネルギーに関する設備や機能は今後のトレンドとして注目を集めそうです。その上で、賃貸住宅経営を行う地域、立地条件が、若い単身者の多い地域か、40代~50代のファミリー層が中心か、あるいは高齢者が多い地域なのか、ご入居の可能性のある人たちがどのような人なのかを考慮することが重要になってきます。
ご入居者に求められる賃貸住宅のために、トレンドを追うことも必要な場合もありますが、地域や立地条件によって、望まれる賃貸住宅は変わります。オーナーの持つ賃貸住宅にご入居を希望する人たちが、どのようなニーズを持ち、賃貸住宅に求める機能を理解することから始める必要がありそうです。