金利動向から見る「いま賃貸住宅を建築すべきか?」
公開日:2024/05/30
金利上昇の憶測が広まっています。賃貸住宅を建築する際に多くの方々が金融機関の融資(通称:アパートローン)を利用されますので、金利上昇は気になるところです。固定金利は長期国債金利上昇に伴い2023年後半から少し上昇しましたが、2024年5月時点では上昇から横ばい期に入っています。一方の変動金利は、いまのところ大きな動きはありません。しかしながら、2024年3月にはマイナス金利政策の解除が決定し、政府・日銀は異次元の金融緩和政策を通常の金融緩和政策に変更、そして徐々に金融政策を正常化させようとする様子がうかがえます。
ここでは、24年後半の金利の動向と建築工事費動向から「いま賃貸住宅を建築すべきか」について解説します。
金利の据え置きと円安基調
日銀金融政策決定会合が2024年4月25-26日に開催され、政策金利にあたる「短期金利の誘導目標」を現状の「0~0.1%程度」に据え置きと決定しました。一方で、マイナス金利を解除した前回会合で「これまでとおおむね同程度の金額(月間6兆円程度)」とした国債買い入れ額については、「減らす」ことが予想されていましたが、変更はないということになりました。円安が進む中で、「なんらかの円安対策があるかも」という予想に反して、「いまのところ、経済に大きな影響を与えていない」と植田総裁が記者会見で発言したことを受けて、為替相場はさらなる円安となりました。
2024年4月26日の12時すぎに「政策金利据え置き」決定の公表を受けて、午前中155円台半ばで推移したドル円相場は、一気に156円台を超える水準で取引されるようになりました(総裁会見中)。アメリカ経済が引き続き好調かつアメリカの利下げが行われない状況のため、翌日以降も円安基調が続くことが予想され、実際に4月29日には1ドル160円を超える水準となりました(その後、政府の為替介入があり155円台に戻りました)。
インフレ見通しは上昇
日銀は、年4回(通常1月、4月、7月、10月)金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を決定し公表しています。今回の2024年4月の会合では、この展望レポートが合わせて公表されました。
レポートでは、消費者物価指数(生鮮食品を除く)上昇率の見通しを2024年度は前年度比+2.8%(1月のレポートでは+2.4%、前年10月分では+1.9%)、25年度は+1.9%(同1.8%)にそれぞれ上方修正しました。今回から新たに公表した2026年度の見通しは+1.9%となっています。つまり、インフレ率の見通しを前回の1月時点より上方修正したということになります。為替の影響、原油価格上昇の影響などを加味したもののようです。
2024年後半に、金利は上がるのか?
ご承知のとおり、2013年から不動産市況が好調である最大の要因は、低金利誘導政策(金融緩和政策)によるものでしょう。超低金利がトリガーとなり、不動産へ資金流入が続いていることは間違いありません。しかし、年内に2回程度の利上げがあるという憶測が報道されています。
理論上の政策金利は、自然利子率+予想インフレ率で計算できます。このうち、自然利子率は、経済・物価に対して引締め的でも緩和的でもない景気に中立的な実質金利のことを指します。自然利子率がいくらかの判断は難しいものですが、内閣府が2023年に示した潜在成長率を自然利子率に適用すれば0.5%前後となります。これに、インフレ率見通しを2%として足すと理論上の政策金利は2.5%まで上昇してもおかしくないということができます。こうした視点から見れば、「今後金利は上昇しそう」という憶測が高まっているのも理解できます。
仮に政策金利がさらに上がれば、短期プライムレートが上昇し、借入における変動金利が上昇する可能性があります。一方で、国債金利が上がれば長期プライムレートが上昇、借入における固定金利上昇可能性が高まります。
賃貸住宅建築をはじめとする不動産投資においては、ほとんどの方が金融機関からの借入を行いますので、金利の上昇は月々の返済、つまり借入総額が多くなります。
今回の金融政策決定会合では政策金利は据え置きとなりましたので、変動金利に影響がある短期プライムレートは、将来の利上げを見通した多少の上昇はあるかもしれませんが、しばらくは大きな変化はないでしょう。一方、固定金利に影響のある長期国債金利は、金融政策決定会合後は0.9%前後で推移しており1%は超えていません。今後も上昇する可能性は多少ありますが、ジワジワと上昇する程度だと思われます。
家賃上昇の可能性がいっそう高まる
金利が上がる影響はネガティブなことばかりではありません。「金利を上げる」という政策を取るわけですから、「経済の循環が徐々に好転している」と分かる数字が出ていることが条件となります。日銀では、「2%以上の安定した物価上昇見通しが見えてきた」と見ており、そして春闘では賃金上昇率(ベアと定期昇給合計)が5%を超え、中小企業においても4%を超えるような状況となっています(連合「2024年春季労使交渉における第3回集計結果」より)。
物価と賃金の上昇が顕著となれば、少し遅れて家賃も上昇の可能性が高まります。すでに都市部では住宅賃料の上昇基調が明確になってきました。「家賃は物価上昇に遅れて上昇する」のはよく知られたことです。また、賃金が上がれば、家賃に回すお金が増え、家賃上昇に耐えうる状況となり、好循環が生まれます。
金利上昇が仮に起これば、マイナスの要因として利息が増えることになりますが、賃料増額になれば、利息増額分によって相殺されることも考えられます。
円安が続けば、さらなる建築工事費上昇は避けられない
円安傾向は、ドル円相場では日本と米国の金利差が直接的な理由ですが、根源には「強いアメリカ経済」と「相対的に弱い日本経済」という構造があります。日銀も明確にしている「金利を上げる状況にない」現状は、「日本経済はそれ程強くない」ということです。日米双方の状況が続くならば、円安基調は今後も続くでしょう。そして、石油などの資源や多くの原材料を輸入に頼る我が国においては、円安は企業物価の上昇となり、ひいては消費者物価の上昇になります。つまり、これからしばらく「円安」が続き、「インフレ」基調はもう一段進む可能性が高くなり、我々の生活にも影響が出てくることでしょう。一方で、多くの売り上げを海外市場で創る企業にとっては円安がプラスとなり、株価は上昇するでしょう。
ちょうど「ウッドショック」が言われていたとき、輸入原材料の価格上昇が顕著となり、2021年の半ばから企業物価指数は上昇しました。海外でのインフレと石油価格や輸送コストなどが上昇したことが要因でした。この間もジワジワと円安基調になった為替相場と相まって物価上昇となり、消費者物価指数は2022年に上昇は拡大しました。そして、建築工事費も上昇しました。
原油価格上昇、海外での物価は高止まり、さらにこの30年で最も円安ですので、原材料費上昇に伴う物価上昇、そして建築工事費の上昇は避けられない状況といえるでしょう。
賃貸住宅投資はどうなる?
金利上昇は、短期プライムレート上昇につながり、ローン金利における変動金利上昇可能性があります。また、YCC(イールドカーブコントロール)撤廃に伴い、仮に長期国債金利が上がれば、固定金利が上昇します。ただ、こちらは過度に上昇すれば日銀が買い入れを行うことを明言していますので、大きな変化はないでしょう。そのため、金利上昇の可能性は高まっていますが、仮に上昇しても「少しずつ、ゆっくりと」という状況でしょう。
その一方で、家賃の上昇傾向はすでに顕著になっています。今後、もう一段上昇する可能性があると思われます。そうなれば、金利上昇分の一定割合を家賃で吸収することができます。
こうした状況で気になるのは、我が国の金利がそれほど上がらない状況が続けば、為替相場で円安が続き、その影響で建築工事費が上昇する可能性が高まることです。過去を振り返ってみても一度上がった建築費はなかなか下がりません。
賃貸住宅建築をお考えの方は、金利動向よりも建築工事費の動向を気にするべきかもしれません。今後も建築工事費が上昇すれば、「賃貸住宅建築費用は、いまが安い」という状況になるからです。