2024年地価公示を読み解く 地価上昇は全国へ波及
公開日:2024/04/19
2024年(令和6年)分の地価公示が3月26日に国土交通省より発表されました。 好調な不動産市況が続く中で地価がどれくらい上昇しているのか、上昇の波はどれくらい地方各地に広がっているのか注目が集まりました。発表された「地価公示」を読み解きます。
2024年地価公示の全体俯瞰
2024年の公示地価(価格時点:1月1日)は、全国の全用途(全用途は、住宅地・商業地・宅地見込地・工業地)平均で+2.3%となりました。一昨年は+0.6%、昨年は+1.6%と3年連続して全国平均で上昇、そして連続して上昇幅拡大となりました。要因としては、都市部の上昇幅が拡大したこと加えて、地方においても前年からの変動率でプラスになった県が増えたことがあげられます。
1990年以降でみれば、1991年には全国全用途平均が前年比+11.3%となり最も大きく上昇しましたが、それに次ぐ上昇率となっています(ちなみに、1980年代後半のバブル期はもっと上昇しています)。ミニバブル期の最終局面の2008年は前年比+1.7%でしたので、ミニバブル期を超える状況となっていることがわかります。
全国平均を用途別にみれば、住宅地は+2.0%(前年は+1.4%、前々年は+0.5%)、商業地は+3.1%(前年は+1.8%、前々年は+0.4%)といずれも3年連続の上昇、そして連続して上昇幅が大きくなりました。
住宅地地価は、域別に見れば、全国・三大都市圏・地方圏(地方四市以外)で上昇幅が大きくなりました。都市部では、引き続き住宅価格、特にマンション価格の上昇が続いています。
図1:公示地価 前年平均変動率(住宅地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)では昨年より上昇幅は縮まりましたが、依然+7.0%と高い伸びとなっており、地方四市の周辺地域も引き続き上昇を続けています。また、地方でも人気のリゾート地や別荘地、そして鉄道新線開業に伴い利便性の向上した地域などで地価上昇が顕著となっています。
商業地では、新型コロナウイルス感染症の第5類への移行(2023年5月)で国内外の観光需要・ビジネス需要が大きく伸び、都市部や主要観光地では地価の大幅な回復が見られています。
図2:公示地価 前年平均変動率(商業地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
また、都市部ではオフィス回帰が進み、オフィス需要が伸び、店舗需要が回復していることや、三大都市圏や地方大都市での再開発事業が多く、この影響で利便性・繁華性が向上することの期待感から地価上昇が継続しています。
大都市圏の状況
三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)全体では、全用途は+3.5%(前年は+2.1%、前々年は+0.7%)、住宅地は+2.8%(前年は+1.7%、前々年は+0.5%)、商業地は+5.2%(前年は+2.9%、前々年は+0.7%)と、いずれも連続して上昇幅が拡大しました。
図3:3大都市圏 公示地価 前年平均変動率(住宅地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
東京圏、大阪圏、名古屋圏では、全用途、住宅地、商業地、のいずれも上昇幅が拡大し、住宅地は2020年の水準を大きく超える伸び、商業地はコロナ禍前と同水準の伸びとなっており、地価上昇の勢いがついていることがわかります。
図4:3大都市圏 公示地価 前年平均変動率(商業地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
東京圏の状況
東京圏(東京都区部や多摩地区、神奈川県・千葉県・埼玉県の主要地域など)では全用途平均で+4.0%(前年は+2.4%、前々年は+0.8%)、住宅地は+3.4%(前年は+2.1%、前々年は+0.6%)、商業地は+5.6%(前年は+3.0%、前々年は+0.7%)となりました。いずれも3年連続で上昇幅が拡大しました。一都三県は住宅地・商業地とも全て上昇、また連続して上昇幅も大きくなり、好調が続いています。
特に、東京都区部の勢いは強く、23区平均の住宅地上昇率は+5.4%(前年は+3.4%)で、前年・前々年に引き続き23区全てで上昇、また上昇幅も全ての区で拡大しました。上昇率が最も高かったのは豊島区で+7.8%(前年は+4.7%)、続いて中央区+7.5%(前年は+4.0%)、文京区+7.4%(前年は+4.4%)となっています。逆に、上昇率が最も小さかったのは世田谷区+4.0%(前年は+2.3%)、練馬区+4.0%(前年は+2.8%)で、続いて、葛飾区+4.2%(前年は2.8%)となっており、戸建住宅の多い地域の伸びが低くなっています。
商業地では、23区平均では+7.0%(前年は3.6%)で、2年連続で全23区の変動率がプラスとなりました。
商業地で上昇率が最も高かったのは台東区+9.1%(前年は+4.1%)、次いで荒川区+8.3%(前年は5.2%)、中野区+8.2%(前年は5.2%)となっています。台東区は国内外の観光客に人気の浅草があり、荒川区は成田国際空港へのアクセスの良さが再認識されたことが要因と思われます。
また、都心での住宅価格高騰を受けて、周辺地の住宅地地価の上昇が顕著となっています。子育てしやすい市として名高い流山市、川を渡ればすぐ東京都である市川市では、住宅地地価は10%を超える上昇となり、現在の住宅事情が色濃くでた格好となりました。
大阪圏の状況
大阪圏(大阪府全域、兵庫県・京都府・奈良県の主要地域など)では、全用途平均で+2.4%(前年は+1.2%、前々年は+0.2%)、住宅地は+1.5%(前年は+0.7%、前々年は+0.1%)、商業地は+5.1%(前年は+2.3%、前々年は±0%)となりました。
特に商業地はインバウンド需要が大きかったためコロナ禍の影響を強く受けましたが、順調に回復しています。大阪府内で商業地の上昇率トップは道頓堀1丁目(+25.3%)、次に難波1丁目(+22.1%)とミナミの繁華街の上昇が際立っています。また、昨年に引き続きJR大阪駅北側(旧梅田貨物ヤード)のグランフロントが最高値で、再開発2期(グラングリーン)の開業を控え隣接の福島区など上昇が顕著となりました。
住宅地では、鉄道の延伸や延伸計画の影響が出ています。地下鉄御堂筋線から続く北大阪急行の延伸開業は3月23日でしたが、その延伸地域の地点が大阪府内での住宅地地価上昇率トップで、また地下鉄新線計画(なにわ筋線)が通る大阪市西区は大阪府内の市区町村別で上昇率1位となりました。大阪では、キタとミナミと呼ばれる地域(や周辺地域)に不動産投資(住宅購入含む)が集中してする傾向が続いていますが、北大阪急行延伸、なにわ筋新線などの新線計画により、広がりを見せはじめているようです。
名古屋圏の状況
名古屋圏(愛知県の主要地域、三重県の一部など)では、全用途平均で+3.3%(前年は+2.6%、前々年は+1.2%)、住宅地は+2.8%(前年は+2.3%、前々年は+1.0%)、商業地は+4.3%(前年は+3.4%、前々年は+1.7%)となりました。商業地においては三大都市圏で最も上昇幅は小さく、海外旅行客・国内旅行客やビジネス需要があまり伸びていない様子がうかがえます。
ただし、大規模再開発が進み、ホテル新築・改装が続いている名古屋市の中心部では価格上昇が顕著となり、名古屋市の商業地の上昇率は6.0%、16区全てが上昇しました。
住宅地では名古屋市中心部で堅調な上昇が続いており、中区が+9.9%、熱田区9.1%、東区が+8.1%などが目立ちました。
地方圏の状況
地方中核4市(札幌・仙台・広島・福岡)では、全用途平均は+7.7%(前年は+8.5%、前々年は+5.8%)、と平均では上昇幅が縮まりました。10年連続して上昇しており、全体的に不動産価格が高くなっていることが要因の1つ思われます。それでも三大都市圏以上の上昇率ですから、引き続きの勢いを感じます。住宅地は+7.0%(前年は+8.6%、前々年は+5.8%)、商業地は+9.2%(前年は+8.1%、前々年は+5.7%)となりました。
地方圏全体では、全用途平均は+1.3%(前年は+1.2%、前々年は+0.5%)、住宅地は+1.2%(前年と同じ、前々年は+0.5%)、商業地は+1.5%(前年は+1.0%、前年は+0.2%)となりました。
地方4市を除くその他の地方圏では、全用途平均は+0.7%(前年は+0.4%、前々年は-0.1%)、住宅地は+0.6%(前年は+0.4%、前々年は-0.6%)、商業地は+0.6%(前年は+0.1%、前々年は-0.5%)となりました。昨年、28年ぶりにプラス圏となったその他地方圏の住宅地が上昇幅を大きくしました。
また、商業地の上昇率も拡大しました。大手半導体企業の進出地域やその周辺地域の住宅需要、賃貸住宅需要が増え、建設ラッシュが続いていること、また周辺の商業地域でも開発・新規出店が相次いでおり、工業地はもちろん住宅地・商業地も活況にあることが要因でしょう。また、高速道路や幹線道路周辺で大型物流施設用地需要が旺盛であること、人気のリゾート地での別荘地需要が旺盛なことなど、ポジティブな要因が多く、来年以降も引き続き上昇すると予測されています。
図5:地方圏 公示地価 前年平均変動率(住宅地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
今年の住宅地上昇率トップは、北海道富良野市の地点で前年比+27.9%でした。ドラマ「北の国から」と人気スキーリゾート地として有名な富良野ですが、「第二のニセコ」になりそうな勢いです。他にも上位に入っていませんが、北海道のスキーリゾート地、ルスツも「第三のニセコ」の呼び声が高い地域です。
昨年は新千歳空港から札幌周辺都市での地価上昇が目立ちましたが、今年も住宅地変動率上位10位に、半導体メーカー「ラビタス」工場が進出する千歳市が4地点ランクインしています。商業地においても、トップ3は半導体メーカー「TSMC」が進出する周辺の熊本県大津町、菊陽町の地点、そして千歳市の地点となっています。
図6:地方圏 公示地価 前年平均変動率(商業地)
国土交通省「各年地価公示」より作成
また、引き続きニセコのある北海道倶知安町や別荘地として人気が続く長野県軽井沢町も上昇幅が拡大しています。これらは、国内外の富裕層からの需要が旺盛のため、これからも上昇を続けるでしょう。
都道府県別の住宅地・商業地の変動率
都道府県別に見ると、住宅地地価上昇となったのは29都道府県でした。昨年は24、一昨年は20でしたので連続して増えました。
図7:都道府県別 地価公示(住宅地)変動率(2024年)
国土交通省「令和6年地価公示」より作成
東北6県の住宅地は全て上昇、とくに秋田県はバブル期以来のプラスとなりました。
昨年まで3年連続して都道府県別で1位だった北海道は4位(+4.4%)になり、4年ぶりに沖縄県がトップに返り咲きました(+5.5%)。次に福岡県で5.2%、宮城県4.7%、北海道4.4%と続きます。
図8:都道府県別 地価公示(商業地)変動率(2024年)
国土交通省「令和6年地価公示」より作成
商業地では、都道府県別に見るとプラスとなったのは29都道府県で、昨年は23、一昨年は15都道府県でしたので、こちらも順調に地方圏へ波及していることが分かります。
商業地においても秋田県がバブル期以来のプラス(+0.4%)となりました。また、新幹線延伸効果もあり、福井県もバブル期以来のプラス(+0.2%)となり、マイナスとなったのは15県だけとなっています。
基準地価(都道府県地価調査)との共通地点で見る、2023年前半と後半の変化
最後に、基準地価との共通地点(住宅地1079、商業地497、合計1576地点)を見てみます。基準地価は毎年9月に発表されますが、価格時点は7月1日で、公示地価の価格時点が1月1日ですからちょうど中間期の値となり、直近の傾向が分かります。 住宅地をみると、全国、東京圏、名古屋圏、地方四市では前半よりも後半の方が、上昇率が高くなっています。これは、住宅地価格が、後半ほど伸びが顕著だったということ、つまり住宅地地価は全国的に上昇基調にあることになります。 商業地では地方四市を除いて前半より後半の方が、上昇率が高くなっています。全体的に商業地地価は上昇基調にあるということになります。
2025年への展望
ここまで見てきたように、2024年分の公示地価は全国的に上昇し、バブル期以来の大きな伸びで、土地価格の観点からも「脱デフレ」の状況が明らかになってきました。ただし、全国平均でも毎年10%を超えていたバブル期の伸びに比べると、上昇スピードは「ゆっくりジワジワ」という状況であり、現状が「バブル」とは言えないでしょう。 3月の日銀金融政策決定会合でマイナス金利解除を含め金融政策に変更がありましたが、内容の実態は、「異次元の金融緩和」から「通常時の金融緩和」への変更ということで、決定後の貸出金利は今のところ(執筆時:3月27日)ほとんど上昇していません。こうしたことから、ハウスメーカーや不動産企業の株価は、「金融緩和が続く」との見通しから、大きく上昇しました。つまり、引き続き金融緩和が続き(=低金利が続き)、「不動産市場は活況が続く見通し」ということになります。 このようなことから、2025年3月に公表される公示地価は、引き続き上昇の可能性が高いと思われます。ただし、年内にもう1回あるいは2回の政策金利の上昇があれば、多少融資の金利があがる可能性は高くなりますので、日銀の金融政策の動向には注視しておきたいものです。