事業承継時に不動産を活用する
公開日:2024/02/29
不動産を保有している企業が事業承継を行う場合、不動産を活用することで事業承継を効果的に行うことができる可能性があります。事業承継では事業用の資産を承継しますが、資産の中に不動産を多く含む場合は、状況や活用方法によって、事業の方向性や税務負担に影響を及ぼすことがあるわけです。事業承継を行うにあたって不動産への対策を講じることで、企業オーナーや後継者の金銭的な負担を軽減し、より円滑に事業承継を進めることも可能となります。
不動産を活用した事業承継対策
不動産の利活用
まず考えたいのは、現在保有している土地の中で、未利用・未活用の不動産があるのであれば、有効な利活用を検討することです。
単に資材を置いているだけなど有効に活用できていない土地は、会社の評価額を決める際に、ほぼ更地と同じように高く評価されますし、固定資産税も更地とほぼ同じ扱いになります。そうした土地に建物を建てて有効活用することができれば、収益性を高めるだけではなく、自社株の評価を下げることで、相続税や固定資産税などを抑えることにつながります。
当然、何もせずそのままにしている土地の場合、管理面の負担がないこと、売却のしやすさなどのメリットはありますが、収益を上げる可能性があるのであれば、効果的な利活用を検討するべきでしょう。
有効活用の方法としては、賃貸住宅などの住居系、立地条件によっては介護施設や商業施設、物流施設などの施設が考えられます。
新たな不動産の購入
新たに不動産を購入すれば、現金で保有している状態よりも、自社株評価や所有財産評価額の引き下げになる場合があります。不動産を取得して3年以上経過している必要がありますが、一般的に土地の評価額は路線価が基準になっているために、多くの場合、評価額は不動産の実勢価格よりも下がる傾向にあります。
例えば、1000万円の実勢価格で土地を購入した場合、路線価での土地の評価は7~8割前後となる場合が多く、現金で1000万円を保有しているよりも評価額が下がり、自社株評価や所有財産評価額が減少する可能性があります。
株式譲渡による不動産M&A
企業が保有する不動産を売却する際には、通常、不動産の所有権を移転させますが、企業売却の形で法人の不動産を譲渡させる方法が、株式譲渡による不動産M&Aです。不動産を所有する企業の株式を買収側がすべて獲得することで、売り手企業は完全子会社となり、買収する側は子会社を通して不動産を所有することになります。 通常の不動産取引の場合、不動産売却益に対して、20~40%の法人税がかかり、さらに経営者に配当として分配すると、最大で55%の所得税がかかることもあります。不動産M&Aの場合であれば、不動産ごと法人を譲渡しますので、株式の譲渡益に20%の税金がかかるだけとなります。条件次第ではありますが、不動産を売却したい企業にとって、不動産M&Aのほうが税務対策として有効な場合があります。
小規模宅地等の特例の活用
経営者個人が所有している「事業用宅地(賃貸住宅など)」を後継者へと相続する場合、「小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)」を活用することも、条件によっては可能となります。
「特定事業用宅地等」とは、被相続人が事業用に使っていた宅地のことですが、限度面積等、この制度の要件を満たした上で、同じ事業を申告期限まで継続していた場合は、相続税評価額の80%(条件によって50%)を減額できます。小規模宅地等の特例は事業承継でも活用できるケースがありますので、事前に要件を確認しておきましょう。
不動産を活用した事業承継対策の注意点
不動産を活用した事業承継対策はメリットもありますが、注意点もあります。
利用ニーズがなくなる可能性がある
不動産にかかわる周辺事情や環境、制度は絶えず変化します。周辺企業や大型商業施設の移転、人口減少、類似施設の出現など、予想外の変化は起こりえることです。不動産を購入する場合には、十分な調査、専門家への相談など、事前準備をしっかり行うことが必要です。
不動産の価格が下落する可能性がある
周辺環境の変化とも関連しますが、不動産価格の下落には注意が必要です。事業承継対策の一環として不動産を購入し、事業承継後に不動産の売却を検討している場合、事業承継の前後に不動産の価格が下落してしまうと、不動産の購入により得られる税制等のメリットよりも、価格の下落による損失のほうが大きくなってしまうことがあります。
不動産価格の急激な上昇にも注意が必要
不動産の取得後3年以内に価格が急激に上昇した場合、上昇した分だけ評価額も上昇します。相続対策のために不動産の購入を行ったにもかかわらず、相続税評価額が上昇し、相続税の支払いが増えてしまうことも考えられます。
借り入れは後継者に引き継がれる
不動産を購入する際は、多くの場合、金融機関から借り入れをしますが、相続するとその借入もそのまま相続されることになります。個人保証がある場合は、後継者に借り入れとともに引き継がれることになるため、その点を嫌う後継者も少なくありません。借り入れをする場合には、事前に後継者の同意を得ることも必要です。
事業承継は多くの企業が抱える課題ですが、特に中小企業においては、後継者の問題を筆頭に、さまざまな課題があると言われています。早い時期から後継者の育成やM&Aも含めた会社の継続について、検討しておく必要があります。
不動産の活用も事業承継対策のひとつになることもありますので、専門家に相談しながら、将来につながる事業承継を実現していただきたいと思います。